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08.侮辱への怒りを血で染める
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狼獣人のバラムは、与えらえた休暇で家族の元へ戻った。過酷な長距離をものともせず走れるのは、獣化したためだ。鳥科の獣人は空を飛べる。少しばかり羨ましいが、それ以上に立派な牙と爪、動けるしなやかな体躯は彼の誇りだった。
幼かった息子も立派に成長し、あと数年で成人する。獣人の成人は獣化した年齢ではなく、人化した状態で数えられた。十数年前、生まれて間もない息子が連れ去られた事件がある。ふかふかの冬毛を蓄えた息子は、仲間の子らと狩りの真似事をしていた。
遊びの中で戦い方や狩りを覚えるのは、獣と同じだ。夢中になって獲物を追い回すうち、人族の境界に近づいてしまった。本来、ここは人族の住む領地ではない。獣人族が魔王から預かり管理してきた土地だった。そこへ入り込み、勝手に開拓したのは数十年ほどの間だ。
魔族にしたら、我が子が成人するより短い期間だった。山火事が発生し、しばらく放置したのだ。後になって知ったが、あれは自然発生の山火事ではなかった。人族が森に火を放ち、農耕や酪農用に切り拓く一助とした人為的な火事だ。当時は深く考えず、森がある程度戻るまで放置する案を選んだ。
森にとって自浄作用の一種である火事は時折起こる。数十年に一度、大々的に焼いて新陳代謝を促すように新しい木々を育てる。森の営みの一つであるため、獣人達は深く考えなかった。そもそも大切な森に火を付ける馬鹿は魔族にいない。
数匹の子狼は、境界付近で人族に遭遇した。その際、仲間を逃がすために最後まで威嚇し続けた、息子ブエルが捕まった。逃げた仲間は遠吠えで救援を求める。駆け付けた時点で、ブエルの姿は見当たらなかった。人族が連れ去ったと聞き、匂いを辿って町を特定する。
攻め込んで盾にされる可能性を考慮し、はやる気持ちを押さえたバラムはしっかり調べ上げた。町の大人に付いて森に入った子どもが、ブエルを捕まえたらしい。人族と家畜の臭いに混じる我が子の匂いと鼻を鳴らして呼ぶ声。気が狂いそうだった。
月が隠れる夜、忍び足で町に近づく。大した警戒もなく眠りに就いた人族の、粗末な家を仲間が襲撃する。その間に息子ブエルが囚われた家に突入した。発見した息子は、首輪を付けられていた。その先に鎖まで引きずっている。
「我が息子になんという扱いを!」
かっと目の前が赤くなった。その怒りを再現するように、血の惨劇が始まる。獣人族の長の子を鎖と首輪で繋ぎ、拘束した。助けだして終わりとはならない。次々と屠り死体を投げだす。人族は町の中央にある石造りの建物に逃げ込んだ。そこまで壊し皆殺しにするのは、魔王様の通達に反する。
仕方なく仲間に引き上げの合図を出す。息子ブエルは震えながらも、自分を捕まえた無礼な人族を噛んでやったと胸を張った。忌々しい首輪を噛み千切り、鎖ごと捨てる。身軽になった息子の首には、擦れた痕が残っていた。かなり暴れたのだろう。
舐めて癒しながら、抱き抱えて匂いを上書きする。人族が触れたのだ。大切な我が子を従属させようと捕らえ、鎖に繋いだ。報復は当然だった。魔王ナベルス陛下も理解を示してくださり、滅ぼした町を再び領地として与えてくれる。
バラムは懐かしさに頬を緩めながら、たどり着いた我が家で息子を甘噛みする。毛繕いをして愛情を確かめ合い、途中で狩った土産の獲物を皆で食らった。
「父上、僕も戦いに参加したい!」
「もう少し大人になったら、だ」
新魔王ガブリエル様の黒く立派な姿を思い浮かべる。竜族の中で最も若い個体だ。にも拘らず、魔神による名づけで王の資格を得た。最強の魔王だが……まだ幼い。バラムは先代と命果てるつもりでいたが、生き残ってしまった。生かされた以上、この命をガブリエルに捧げるつもりだ。
「ガブリエル陛下に認められるだけの実力を付けろ」
「うん!」
頑張ると笑う息子に頬をすり寄せ、その前に戦いを終わらせる決意を固める。我が子らに、人族という害獣を駆除した世界を残そう、と。
幼かった息子も立派に成長し、あと数年で成人する。獣人の成人は獣化した年齢ではなく、人化した状態で数えられた。十数年前、生まれて間もない息子が連れ去られた事件がある。ふかふかの冬毛を蓄えた息子は、仲間の子らと狩りの真似事をしていた。
遊びの中で戦い方や狩りを覚えるのは、獣と同じだ。夢中になって獲物を追い回すうち、人族の境界に近づいてしまった。本来、ここは人族の住む領地ではない。獣人族が魔王から預かり管理してきた土地だった。そこへ入り込み、勝手に開拓したのは数十年ほどの間だ。
魔族にしたら、我が子が成人するより短い期間だった。山火事が発生し、しばらく放置したのだ。後になって知ったが、あれは自然発生の山火事ではなかった。人族が森に火を放ち、農耕や酪農用に切り拓く一助とした人為的な火事だ。当時は深く考えず、森がある程度戻るまで放置する案を選んだ。
森にとって自浄作用の一種である火事は時折起こる。数十年に一度、大々的に焼いて新陳代謝を促すように新しい木々を育てる。森の営みの一つであるため、獣人達は深く考えなかった。そもそも大切な森に火を付ける馬鹿は魔族にいない。
数匹の子狼は、境界付近で人族に遭遇した。その際、仲間を逃がすために最後まで威嚇し続けた、息子ブエルが捕まった。逃げた仲間は遠吠えで救援を求める。駆け付けた時点で、ブエルの姿は見当たらなかった。人族が連れ去ったと聞き、匂いを辿って町を特定する。
攻め込んで盾にされる可能性を考慮し、はやる気持ちを押さえたバラムはしっかり調べ上げた。町の大人に付いて森に入った子どもが、ブエルを捕まえたらしい。人族と家畜の臭いに混じる我が子の匂いと鼻を鳴らして呼ぶ声。気が狂いそうだった。
月が隠れる夜、忍び足で町に近づく。大した警戒もなく眠りに就いた人族の、粗末な家を仲間が襲撃する。その間に息子ブエルが囚われた家に突入した。発見した息子は、首輪を付けられていた。その先に鎖まで引きずっている。
「我が息子になんという扱いを!」
かっと目の前が赤くなった。その怒りを再現するように、血の惨劇が始まる。獣人族の長の子を鎖と首輪で繋ぎ、拘束した。助けだして終わりとはならない。次々と屠り死体を投げだす。人族は町の中央にある石造りの建物に逃げ込んだ。そこまで壊し皆殺しにするのは、魔王様の通達に反する。
仕方なく仲間に引き上げの合図を出す。息子ブエルは震えながらも、自分を捕まえた無礼な人族を噛んでやったと胸を張った。忌々しい首輪を噛み千切り、鎖ごと捨てる。身軽になった息子の首には、擦れた痕が残っていた。かなり暴れたのだろう。
舐めて癒しながら、抱き抱えて匂いを上書きする。人族が触れたのだ。大切な我が子を従属させようと捕らえ、鎖に繋いだ。報復は当然だった。魔王ナベルス陛下も理解を示してくださり、滅ぼした町を再び領地として与えてくれる。
バラムは懐かしさに頬を緩めながら、たどり着いた我が家で息子を甘噛みする。毛繕いをして愛情を確かめ合い、途中で狩った土産の獲物を皆で食らった。
「父上、僕も戦いに参加したい!」
「もう少し大人になったら、だ」
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