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62.ホールズワースの威信にかけて

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 どこかの貴族の屋敷にある離れみたい。雨戸を閉めて薄暗い室内に転がされた。大人しくしていろと定番の文句を残して消えた男達の足音が遠ざかると、私はエイミーにすり寄った。

 手足を縛っていったので、這うようにして近づく。服が汚れるけど仕方ないよね。にぃにに言われたのは、窓際から離れていること。扉の近くも危ないから近づかない。可能なら何かの下に潜り込むことだった。

「ローナ、縄解けたかな」

「問題ありません。ローナは騎士の娘で、ナイフ以外にも武器を持っておりますから」

 騎士の娘でも普通は武器を持ち歩かないと思うけどね。乳母エイミーのお墨付き、侍女ローナは今頃報告に駆けつけた頃だろう。

 ここがアディントン侯爵かラッカム伯爵の敷地内だと助かるんだけど。もし違う場所なら、探し回るママが貴族の屋敷を片っ端から破壊して歩きそうだもん。パパも脳筋に改造されちゃったから、反対しないと思う。この点はお祖父様の教育の弊害かも。

 コンコンコン、合図のノックが窓から聞こえ、私とエイミーは一緒に机の下に隠れた。

「いいよぉ」

 返事の直後、派手な音でガラスが砕ける。なるほど、だから窓の側はダメなのか。

「入れ」

 窓を壊したにぃにの号令で、今度は騎士が扉を蹴破った。うん、扉の側も危ない。的確な指示に従ったお陰で、ケガはなかった。のそのそ這い出た私を、にぃにが抱き上げた。

「もうすぐ母上が父上と乱入するぞ」

「メイベルは?」

 まさか騙して置いてきたんじゃ? 後で拗ねちゃうよ。心配になって尋ねれば、彼女は騎士団を引き連れて向かっているとか。

「騎士団を置いてきちゃったんだ?」

 パパやママが率いてきて、その中で守られながらメイベルが馬車に乗ってるのが普通だよね。うちは普通じゃないけど。

「メイベルの乗馬技術は凄いな。感嘆したぞ。騎士団と遜色ない」

「公爵令嬢っぽくない人だからね」

 一般的な貴族令嬢の枠に収まらない人だから、私と意気投合したんだもん。乗馬もこなすし、あれでいて護身術も習ってたんだよ。公式の場では手袋で隠していたけど、手にマメが出来るほど熱心だった。

「私の可愛いお姫様を出しなさいっ!」

「曲者だ!」

 メイベルの勇ましい声が聞こえ、にぃにが割った窓から外を眺める。抱っこされてるお陰でよく見えるわ。メイベルを囲む五人の騎士が戦い、中央で彼女は腰に手を当てて馬の鞭を揺らす。似合うけど、ちょっと怖い。

「さすがは俺の嫁だ。よし、いくぞ」

 加勢すると言い放ち、にぃには飛び出した。もちろん私を置いていく選択肢はなくて、抱っこしたまま戦闘に参加する。危険はないだろうけど、目の前で剣がぎらりと光を弾くと、どきっとするよ。

「ホールズワースの威信にかけて! 負けるでないぞ!!」

「「「「おう」」」」

 にぃにの号令に、あちこちから呼応する騎士の声が返る。うわっ、ほぼ総動員っぽい。少し離れた林の向こうに立つ屋敷から、続々と敵が駆けてきた。

「押し返せ!」

 わっと盛り上がったところへ、パパが馬で駆け込む。気の所為かな、数人が蹴飛ばされた気がする。

「国王陛下の御前ぞ! 剣を引けぇ!!」

 え? にぃにの腕をぺちぺちと叩いて向きを変えた視線の先に、立派な正規軍が並んでいた。やり過ぎだと思う……。
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