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61.ピクニックを邪魔する無粋者

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 侍女のローナ、乳母のエイミーと手を繋いで歩く。庭の奥まで進んだ。木漏れ日で適度な明るさを保つ林は、庭師自慢の美しさを誇る。今日はパパとママが仕事、にぃにとメイベルは結婚式の準備をするらしい。

 庭と呼ぶには大きすぎる敷地。以前から広い庭だったが、隣の侯爵家の屋敷が一緒になった。というのも、跡取りのいない侯爵夫人は爵位返上を申し出て、実家の伯爵家に戻ってしまったとか。お祖父様が国を治めるようになって、この国の貴族家は半分に減っていた。

 元男爵家はほとんどが一代限り、さらに減るのは確定だ。元々規模が小さいのに貴族の数が多過ぎたんだよね。過去に覚えた貴族名鑑の名前を思い浮かべた。王子妃教育の一環で覚えたけど、分家に貴族の肩書きを与えたら増える一方だよ。

 その点、ブラッドリー国は違う。実力主義だから貴族も世襲できるとは限らない。実力をつけるため、幼い頃からしっかり教育され鍛えられるのが常だった。

 正直、税金で暮らすんだから当たり前だと思う。そのくらいの覚悟がなければ、バカ息子が跡を取った途端、家が没落するもん。その際に苦労するのは領民だから。貴族制度を維持するなら、王族の監視がしっかりしてないと。

 敷地の端まで来て、絨毯を広げる。庭師と侍従が運んでくれた。絨毯の上に靴を脱いで寝転がる。気持ちいい。

「ありがとう」

 お礼を言って、庭師と侍従にお菓子を渡した。帰りはまた回収してもらう予定だ。彼らは少し離れた管理小屋で休憩する。ローナが運んできたバスケットを開き、私にスカーフでエプロンをするエイミー。あっという間に軽食とお茶が並んだ。

 外でお茶を飲む時は、陶器の食器は嵩張って重い。だから木製のカップを使うの。両手でしっかり持って飲み、半分ほど残してエイミーへ渡した。ローナの差し出すスコーンを齧る。

「美味しい!」

「良かったですわ、たくさんお食べくださいね。お嬢様」

 二人も一緒に食べてくれるようお願いし、敷地内のお手軽ピクニックを楽しんだ。空は晴れて木漏れ日が心地よく、風も冷たくない。最高の天気だな。敷地の境目は特に柵は作っていない。その向こうから何かが駆けてきた。

「うま?」

「お嬢様!」

 エイミーが私を抱き上げる。ローナは護身用の短剣を籠から取り出した。あんなの、入ってたんだ。驚く私も含め、あっという間に騎乗した数人の男達に囲まれた。屋敷の方へ逃げ帰ろうにも、馬には勝てない。逃げきれないと判断したエイミーが前に立った。

「ホールズワース公爵家のお嬢様と知っての無礼ですか!」

「もちろんだ、一緒に来ていただこう」

 騎士かな? 話し方に貴族特有の傲慢さが滲むし、何より態度がでかい。拒むエイミーと私は、無理やり馬に乗せられた。荷物みたいに括るの、やめて欲しいんだけど。

 ローナは武器を持っていたせいか、縛り上げて放置された。腹で馬に跨る形になったせいで、苦しいし痛い。揺れる馬の上で、盛大に吐いてしまった。
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