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55.それは恨まれると思うよ

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 一般的に公爵家は王族の血を何らかの形で受け継ぐ。王弟が婿に入ったり、王女が嫁いだり、兄弟がたくさんいれば次男や三男が養子に入ることもあった。故に公爵家は王族の親戚であることが多い。

 数代空くこともあるが、王族の血を持つ公爵家から王妃が出ることも、少なくないのだ。その意味で、万が一の時の保険だった。王族の血を絶やさないための公爵家だから、特権も多く大切にされる。

 メイベルのターラント家も同じだった。メイベルのお母様は、元王女殿下で王妹だっけ。アディントン家は王家の血を継がずに、その地位を維持したんだから……逆に言えば、それだけ信頼されていたんだと思う。

 親戚ではなくても、アディントンの忠誠を信じていた。それを利用して、裏切ったのなら……罪は重いよね。

「結局のところ、我が家は恨まれていたのさ」

 にぃにが肩を竦める。続きを当事者のママが引き継いだ。

「私は隣国ブラッドリーの王女だった。だから宰相だったクリフォードと結婚するには、この国の爵位が必要なの。アディントン公爵令嬢、それが与えられる肩書きだったのよ」

 なるほど。他国の王族であっても、この国の爵位は持たない。王族同士の結婚なら、国の名前がそのまま家名と同じ価値を持つ。けれどホールズワース侯爵に嫁ぐなら、国内の爵位が必要と考えたのか。王侯貴族って、本当に物事を複雑にするのが好きだよね。礼儀作法や慣習なんて、くだらないのに。

「私はブラッドリー国王の娘であることに誇りを持っていた。この国の一公爵家の養女になりたくなかったの」

 ママは養子縁組を拒否した。アディントン家に問題があるのではなく、もしターラント家が同じ申し出をしても断っただろう。でも、相手がそう受け止めてくれるか分からない。

「母上が養子縁組をすれば、支度金として多額の援助がもらえる。アディントン元公爵はそれも当てにしたんだろう。だが母上は拒み、面目は丸潰れ。もちろん支度金も入らない」

「養子縁組しないなら、国内に嫁がせないと言われたのよ。だから国力差を理由に、ホールズワース侯爵家をブラッドリー国に引き抜くと話したの」

 にぃにはお金と面目の話をしたのに、ママはそれを感情論に置き換えた。両方聞くと裏と表の事情がよく分かる。国王陛下、焦っただろうな。

「脅しじゃなくて?」

「あらやだ、グロリア。私は脅したりなんてしないわよ」

 向こうはそう受け止めたと思うよ。有能な宰相が他国の姫を娶るだけでも焦るのに、自分の流儀を振り翳した挙句、引き抜くって言われたら……脅迫じゃん。それも国力差に物を言わせた、断れないやつ。

「最終的に国王が折れたのだけど、アディントンは恨んだわよね。それに加えて」

 ママ、まだ何かやってたの?

「ブラッドリー国の王族の血がどうしても欲しかったんでしょうね。国王はグロリアが生まれた翌日に、婚約を申し入れたのよ。それも王命でね」

 断られないよう、手を打って来た。それもちゃんと性別確認してから、王命で。ママはもう隣国の王女じゃないから、国内で国王の命令は厳守になった。賢くはないけど、バカでもなかったんだな――亡き国王陛下。
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