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48.信仰心を横領した罪は重い
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「お腹が空いても、頑張っている神父様に言えず、庭の草を齧る状態だった。あの子らに神のご加護を」
「「神のご加護を」」
元から、この国の人達は信心深い。教会が孤児院を経営する理由の一端がここにあった。貴族は自分達が着飾ることと同等以上に、信心深く徳を積む寄付行為に熱心だ。大量の寄付はその貴族家の格を高める。
もちろん男爵家と公爵家なら、公爵家の方が額は上になる。しかし家計の何割を支出したか、で判断された。同じ金貨10枚でも、一週間分の食費である男爵家と、一日で使い切る公爵家が同じ評価を下されることはない。
金があるならより多く寄付するべき。これが教会への寄付の基礎だった。その寄付金を、教会側は孤児の保護に充てた。自分達の贅沢ではなく、神が与えた幼子のために使う。両親の庇護が受けられない孤児は、神父様達が必死で育てていた。
アビーと私が誘拐された時もそう。周囲がすぐ騎士に連絡したり、助けようと抵抗した理由がここにある。幼子を助けることは、徳の高い行動だった。
「さて、もうお分かりだろう。我らの寄付は高額だった。各家が相応しい金額を支出し、当時のウィルズ侯爵家が管理する。あれだけの額があって、どうして子ども達は満足に食事を取れず、痩せ細っていたのか。なぜ毛布すら分け合いながら床に寝ていたのか」
にぃには一度言葉を切る。ぐるりと周囲を見回す行為に、目の合った全員がウィルズ夫人へ非難の視線を向けた。
お金はどこへ消えた? 誰が使った? そういえば、ウィルズ侯爵家はドレスを毎回新調し、常に新しい宝飾品を見つけていなかったか? 屋敷の管理をする親族のイング男爵家は、侯爵家不在の時期でも高額ワインを購入していた。
微妙な違和感、それが積もってひとつの結論を導き出す。かつてのウィルズ侯爵家とイング男爵家の豪遊は、誰の金で行われ、誰が損をしたのか。
「あなた方が神に捧げた信仰の証を、彼らは私物化した。神が地上に遣わした天使のような幼子が飢えるのを承知で、集めた金を贅沢に費やした」
非難の声が上がり始めた。金を返せ、あれは寄付した物だ。お前達に使わせる金ではない。口々に言い放つ貴族の怒りは、徐々に高まっていた。
私は不安を覚える。こんなふうに煽って、大丈夫なのかな。あの教会の様子を見る限り、ウィルズ夫人が痛い目を見るのは当然だけど……。
「我が妹が、先日の教会崩落に巻き込まれた。僅かな差で、婚約者と我が母が助けたが……信仰の対象である教会を利用する孤児院が、どうして修復されずに使用されてきたのか。もしかしたら、寄付に訪れたあなた方が下敷きになったかも知れないな」
ざわりと空気が変わる。非難では済まない。張り詰めた緊張は、今にも切れそうだった。
「違うの! 信じないで、私だって騙されたの。あなた方と同じように、私も寄付していたのよ!」
必死に叫ぶが、ウィルズ夫人の言葉を信じる者は誰もいなかった。
「「神のご加護を」」
元から、この国の人達は信心深い。教会が孤児院を経営する理由の一端がここにあった。貴族は自分達が着飾ることと同等以上に、信心深く徳を積む寄付行為に熱心だ。大量の寄付はその貴族家の格を高める。
もちろん男爵家と公爵家なら、公爵家の方が額は上になる。しかし家計の何割を支出したか、で判断された。同じ金貨10枚でも、一週間分の食費である男爵家と、一日で使い切る公爵家が同じ評価を下されることはない。
金があるならより多く寄付するべき。これが教会への寄付の基礎だった。その寄付金を、教会側は孤児の保護に充てた。自分達の贅沢ではなく、神が与えた幼子のために使う。両親の庇護が受けられない孤児は、神父様達が必死で育てていた。
アビーと私が誘拐された時もそう。周囲がすぐ騎士に連絡したり、助けようと抵抗した理由がここにある。幼子を助けることは、徳の高い行動だった。
「さて、もうお分かりだろう。我らの寄付は高額だった。各家が相応しい金額を支出し、当時のウィルズ侯爵家が管理する。あれだけの額があって、どうして子ども達は満足に食事を取れず、痩せ細っていたのか。なぜ毛布すら分け合いながら床に寝ていたのか」
にぃには一度言葉を切る。ぐるりと周囲を見回す行為に、目の合った全員がウィルズ夫人へ非難の視線を向けた。
お金はどこへ消えた? 誰が使った? そういえば、ウィルズ侯爵家はドレスを毎回新調し、常に新しい宝飾品を見つけていなかったか? 屋敷の管理をする親族のイング男爵家は、侯爵家不在の時期でも高額ワインを購入していた。
微妙な違和感、それが積もってひとつの結論を導き出す。かつてのウィルズ侯爵家とイング男爵家の豪遊は、誰の金で行われ、誰が損をしたのか。
「あなた方が神に捧げた信仰の証を、彼らは私物化した。神が地上に遣わした天使のような幼子が飢えるのを承知で、集めた金を贅沢に費やした」
非難の声が上がり始めた。金を返せ、あれは寄付した物だ。お前達に使わせる金ではない。口々に言い放つ貴族の怒りは、徐々に高まっていた。
私は不安を覚える。こんなふうに煽って、大丈夫なのかな。あの教会の様子を見る限り、ウィルズ夫人が痛い目を見るのは当然だけど……。
「我が妹が、先日の教会崩落に巻き込まれた。僅かな差で、婚約者と我が母が助けたが……信仰の対象である教会を利用する孤児院が、どうして修復されずに使用されてきたのか。もしかしたら、寄付に訪れたあなた方が下敷きになったかも知れないな」
ざわりと空気が変わる。非難では済まない。張り詰めた緊張は、今にも切れそうだった。
「違うの! 信じないで、私だって騙されたの。あなた方と同じように、私も寄付していたのよ!」
必死に叫ぶが、ウィルズ夫人の言葉を信じる者は誰もいなかった。
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