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47.兄は滔々と語る……ウィルズ家のやらかしを
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ああ、本当の事だと断定しちゃった。この場で一番地位が高いのは、にぃに。唯一の公爵家嫡男で、しかもブラッドリー国王の血を引く。反論できないよね。
「……誤解です!」
「それと、メイベルは侯爵令嬢ではなく、女侯爵だ。当主なのだから、もっと敬ってもらわないと。まさか、未来のホールズワース公爵夫人を、入り口近くの末席に案内すると思わなかったよ」
失言と礼儀のなっていないお茶会に苦言を呈し、にぃにが切り込んだ。
「そもそも主催はアクロイド伯爵家だ。跡取りもいない未亡人が仕切るウィルズ家は、もう終わりだろう? 偉そうにアクロイド伯爵夫人を顎で使う理由が分からないな。ああ、なるほど。夫のアクロイド伯爵がいないことと関係あるのかな?」
周囲の疑惑を掻き立てるように、にぃにが扇動していく。ざわめきが広がった。ここに集まったのは、国内貴族の六割近く。地方にいる貴族を除き、ほとんどが顔を揃えている。
慈善絡みなので、家計を取り仕切る夫人の参加が多いが、令嬢や令息も少なくなかった。中には夫婦で参加した貴族も、何組か見受けられた。となれば、男性達が数歩前に出る。女性達を守るためだ。
「ち、違いますの! そんなこと!」
「口では何とでも言える。ウィルズ夫人の行動は明らかにおかしい。何より……アクロイド伯爵を地下に閉じ込めるのは、異常じゃないのか?」
効果的にカードを切っていく。まるでゲームみたい。にぃにが手札を一枚開けるごとに、ウィルズ夫人の顔色が青くなった。メイベルが楽しそう。
「キース、皆様はご存じなのかしら」
「ここに参加しているのだから、知らないだろう」
わざと内容に触れず、匂わせるだけの会話。これって、孤児院が壊れた原因の横領絡み? きょろきょろと二人を交互に見上げていると、にぃにが抱き上げた。ちょっと首が痛かったから助かる。
「何かございましたの?」
同じテーブルに案内されたガースン子爵夫人だ。こちらもアクロイド伯爵家と同じく、孤児院や養護施設への貢献を評価されて爵位を保った数少ない貴族だった。
「今回のお茶会は、先日崩れた古い教会の孤児院に関する寄付集めでしたね。あの教会が壊れた理由をご存じですか」
「はい、老朽化と聞いています」
ガースン子爵夫人は、自分が知る情報を口にした。だけど「聞いています」と付け加えたことで、真実は違うと感じ取った様子が窺える。こういう微妙な言い回し、貴族っぽいな。
「実際、崩れた日に私達はあの現場にいました。天井に開いた無数の穴、腐った柱、神の像に残る雨漏りの跡……」
ああ、にぃにが演説モードに入った。こうなると話し終えるまで待つしかない。目をキラキラさせたメイベルには悪いけど、にぃにの話はとにかく長い。お祖父様の特訓で、脳筋になってたら短くなるかな。
「崩れないのが不思議な建物に、家具がほとんどない部屋。子ども達は床で直接寝転がって夜を越す。教会の大人が必死で掻き集めた野菜クズが浮かぶ、塩味のスープなんて……罪人にだって与えませんよ」
この場に集まっているのは、すでに孤児院へ寄付した貴族達だ。にぃにの発言を遮れる者はいない。貴族達の耳に届いたのは、自分達の出したお金が子どもに届かない事実だった。
「……誤解です!」
「それと、メイベルは侯爵令嬢ではなく、女侯爵だ。当主なのだから、もっと敬ってもらわないと。まさか、未来のホールズワース公爵夫人を、入り口近くの末席に案内すると思わなかったよ」
失言と礼儀のなっていないお茶会に苦言を呈し、にぃにが切り込んだ。
「そもそも主催はアクロイド伯爵家だ。跡取りもいない未亡人が仕切るウィルズ家は、もう終わりだろう? 偉そうにアクロイド伯爵夫人を顎で使う理由が分からないな。ああ、なるほど。夫のアクロイド伯爵がいないことと関係あるのかな?」
周囲の疑惑を掻き立てるように、にぃにが扇動していく。ざわめきが広がった。ここに集まったのは、国内貴族の六割近く。地方にいる貴族を除き、ほとんどが顔を揃えている。
慈善絡みなので、家計を取り仕切る夫人の参加が多いが、令嬢や令息も少なくなかった。中には夫婦で参加した貴族も、何組か見受けられた。となれば、男性達が数歩前に出る。女性達を守るためだ。
「ち、違いますの! そんなこと!」
「口では何とでも言える。ウィルズ夫人の行動は明らかにおかしい。何より……アクロイド伯爵を地下に閉じ込めるのは、異常じゃないのか?」
効果的にカードを切っていく。まるでゲームみたい。にぃにが手札を一枚開けるごとに、ウィルズ夫人の顔色が青くなった。メイベルが楽しそう。
「キース、皆様はご存じなのかしら」
「ここに参加しているのだから、知らないだろう」
わざと内容に触れず、匂わせるだけの会話。これって、孤児院が壊れた原因の横領絡み? きょろきょろと二人を交互に見上げていると、にぃにが抱き上げた。ちょっと首が痛かったから助かる。
「何かございましたの?」
同じテーブルに案内されたガースン子爵夫人だ。こちらもアクロイド伯爵家と同じく、孤児院や養護施設への貢献を評価されて爵位を保った数少ない貴族だった。
「今回のお茶会は、先日崩れた古い教会の孤児院に関する寄付集めでしたね。あの教会が壊れた理由をご存じですか」
「はい、老朽化と聞いています」
ガースン子爵夫人は、自分が知る情報を口にした。だけど「聞いています」と付け加えたことで、真実は違うと感じ取った様子が窺える。こういう微妙な言い回し、貴族っぽいな。
「実際、崩れた日に私達はあの現場にいました。天井に開いた無数の穴、腐った柱、神の像に残る雨漏りの跡……」
ああ、にぃにが演説モードに入った。こうなると話し終えるまで待つしかない。目をキラキラさせたメイベルには悪いけど、にぃにの話はとにかく長い。お祖父様の特訓で、脳筋になってたら短くなるかな。
「崩れないのが不思議な建物に、家具がほとんどない部屋。子ども達は床で直接寝転がって夜を越す。教会の大人が必死で掻き集めた野菜クズが浮かぶ、塩味のスープなんて……罪人にだって与えませんよ」
この場に集まっているのは、すでに孤児院へ寄付した貴族達だ。にぃにの発言を遮れる者はいない。貴族達の耳に届いたのは、自分達の出したお金が子どもに届かない事実だった。
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