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44.孤児院の着服だけで済まなさそう

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 ウィルズ伯爵家とイング男爵家。寄親、寄子で繋がる家系だ。元を辿れば本家と分家の関係にあったらしい。その辺の詳細は、パパが簡単に説明してくれた。

 数代前に生まれた兄弟のうち、弟が功績を立てて子爵家の当主になる。その後、兄の継いだウィルズ侯爵家に跡取りが生まれず、子だくさんだった弟から養子を迎えた。この辺で両家の関係は親密になり、現在に至るまで継続している。

「……それだと、両方とも弟の家系じゃん」

「そうね」

 あっさりとママも頷く。私の勘違いじゃなく、寄親の侯爵家も弟の血筋だった。そのため親戚付き合いが濃密で、寄子のイング子爵家がウィルズ侯爵家の屋敷を管理するようになった。侯爵家は広大な領地を受け継いでいるので、社交シーズンが終われば領地へ戻る。

 イング子爵家は功績により爵位を賜った経緯から、やや広い屋敷程度の領地しかなかった。そこを売り払い、侯爵家の敷地内に小さな屋敷を建てて暮らす。ついでに屋敷の管理も任せられるので、便利だったんだと思うけど。

「それって、悪い方へ働きそう」

 人は目の前に美味しいご馳走があれば手を伸ばす。犬や猫と同じ、私はそう思うの。以前のメイベルは逆で、常に善人でたまに悪い気が起きると考えた。今は分からないけど。人は簡単に欲望に負けて、人を裏切り傷つける。だから世の中には戦争が存在し、人殺しがいるのだと。

 いつもの癖で呟いた私を抱き寄せ、メイベルは自分の膝に座らせた。あ、ママが微笑ましげに見てる。パパとにぃには羨ましそうに溜め息を吐いた。ある程度の時間で、次々と膝を移動するのが平和かな。我が家の平和はすぐ訪れるよね。

「実際、悪い方へ働いたのよ」

 特権意識の強い貴族が、目の前で豪華な生活をする親族に何を思うか。深く考えるまでもない。すぐに己の利得を追い始めた。

 社交シーズンのみ滞在する侯爵家にバレぬよう、少しずつ家具や絵画を入れ替える。高価な物を売り払い、安い物に置き換えた。差額はそっくり子爵家の懐に入る。一度成功すると、徐々に大胆になり……ある日バレて破綻した。よくある物語ね。

 孤児院に関する費用も、イング子爵家が使い込んだらしい。かなり豪華な生活を楽しんだだろう。腹立たしいなぁ。むっとしながら、にぃにに先を促す。

「ウィルズ伯爵……当時は侯爵、ややこしいなぁ」

 にぃには唸った後、爵位を省いて説明を続けた。

「ウィルズがイングと揉めて追い出した後で、王城が吹き飛んだ。ウィルズ家の当主はあの場で死亡、夫人は無事だったので、友人であるアクロイド伯爵家を頼った」

「アクロイド家は「伯爵」のままなの?」

 引っかかって尋ねれば、メイベルが髪を撫でながら頷いた。

「ええ、そうよ。アクロイド伯爵家は善行を評価されて、爵位を維持したわ。ウィルズ夫人はそれが気に入らなかった」

 あ、なんかドロドロの愛憎劇が始まりそうな気がする。孤児院のお金をがめた家は没落してるし、せっかくだから聞いておこうかな。無駄な話ならママが止めるよね。話すなら、何か関わってくるのだと思う。
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