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30.終わってから理解した――SIDE父
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妻クラウディアの周囲が黒く染まり、魔力が高まる。同時に何かが我々を包んだ。温かく感じる魔力に触れた瞬間、悟った。
「グロリア……」
溢れた言葉に重なる形で爆発が起きる。
「滅びてしまえ!」
クラウディアの叫びに魔力が同調していた。周囲を吹き飛ばし、数人の貴族が千切れる。頭を抱え、這うように進んだ。伸ばした指先に触れたのは、妻のドレスの裾。ぐいと体を動かし、妻へ身を寄せた。ああ、少し鍛えておくべきだったか。
私の上に落ちる破片が砕ける。まだ温かな魔力は私を包んでいた。これは妻ではなく、娘グロリアだ。まだ残っている。この近くに娘が感じられるのに。
妻の膝に抱えられた首は、無情にも赤く染まったまま。体を確保するキースも、大きなケガは見られなかった。
頬を涙で濡らした妻クラウディアが、周囲を見回す。何を見つけたのか、にたりと口元が笑みを浮かべた。その視線を追った先で、足を潰された第二王子が足掻いている。抜け出そうと瓦礫を押し除ける彼に、妻は魔法の矢を突き立てた。
「まだ間に合うわ。あの子を取り戻してみせる。たとえ……」
悪魔と罵られようと。
漏れ聞こえた妻の覚悟に、私はただ従おうと決めた。同じ能力があれば、私も誰かを犠牲に娘を救おうとする。代わりに手を汚した妻が、たとえ壊れてしまったとしても……私が責任持って愛し抜こう。
黒い魔力と真逆の眩しい光を放つ矢は、王子の胸を貫いた。じわじわと形を変える矢が、刃となり骨を砕き肌を引き裂く。溢れる血は、不思議と灰色のまま。悲鳴を上げて助けを求める第二王子メレディスだが、誰もが自分のことで手一杯だった。
黒い魔力がまるで獣のように口を開け、咥えた魂を噛み砕く。その音まで聞こえる気がした。
どれだけ硬直していたのか。
我に返った時、クラウディアは悔しそうに唇を噛んでいた。失敗したのだろうか。不安になって問いかけた私に、クラウディアは首を横に振った。
「助けたの、でも……固定先が……あなた、もう一度私にグロリアを産ませて頂戴。一日でも早く、あの子を身籠らないと……間に合わなくなるわ」
周囲は瓦礫が散乱する廃墟だった。何人分の血が流れたのか、死んだ者も多く混乱している。咄嗟に私が取った行動は、妻と息子、娘の遺体を守ることだった。
「キース、グロリアを馬車へ! 急げ! おいで、クラウディア」
「でも……」
妻の視線は聖女リリアンへ向かっている。よく見れば、彼女の腹部はやや膨らんでいた。太っただけと言われれば、そうも取れるが。
「あの女の中に、グロリアがいるの」
言われた意味が分からず、だけど頷いた。ここで否定したら妻がどんな行動に出るか。
「家で話を聞こう。聖女の中にグロリアがいるなら、彼女も連れて行くか?」
「いえ、塔に閉じ込めましょう。その間に私の胎内に取り戻さなくては」
焦る妻の手を取り、まだ悲鳴と苦痛の声に満ちた王城を後にした。屋敷で落ち着いて話を聞き、ようやく事態を飲み込めたのは明け方過ぎ。
「聖女を幽閉し、義父殿に助けを求めるのが精一杯だった。私は家族が揃って幸せなら、それ以上望むことはないよ」
微笑んだパパに、感極まって抱き付いた。
「ありがとう、パパ」
「グロリア……」
溢れた言葉に重なる形で爆発が起きる。
「滅びてしまえ!」
クラウディアの叫びに魔力が同調していた。周囲を吹き飛ばし、数人の貴族が千切れる。頭を抱え、這うように進んだ。伸ばした指先に触れたのは、妻のドレスの裾。ぐいと体を動かし、妻へ身を寄せた。ああ、少し鍛えておくべきだったか。
私の上に落ちる破片が砕ける。まだ温かな魔力は私を包んでいた。これは妻ではなく、娘グロリアだ。まだ残っている。この近くに娘が感じられるのに。
妻の膝に抱えられた首は、無情にも赤く染まったまま。体を確保するキースも、大きなケガは見られなかった。
頬を涙で濡らした妻クラウディアが、周囲を見回す。何を見つけたのか、にたりと口元が笑みを浮かべた。その視線を追った先で、足を潰された第二王子が足掻いている。抜け出そうと瓦礫を押し除ける彼に、妻は魔法の矢を突き立てた。
「まだ間に合うわ。あの子を取り戻してみせる。たとえ……」
悪魔と罵られようと。
漏れ聞こえた妻の覚悟に、私はただ従おうと決めた。同じ能力があれば、私も誰かを犠牲に娘を救おうとする。代わりに手を汚した妻が、たとえ壊れてしまったとしても……私が責任持って愛し抜こう。
黒い魔力と真逆の眩しい光を放つ矢は、王子の胸を貫いた。じわじわと形を変える矢が、刃となり骨を砕き肌を引き裂く。溢れる血は、不思議と灰色のまま。悲鳴を上げて助けを求める第二王子メレディスだが、誰もが自分のことで手一杯だった。
黒い魔力がまるで獣のように口を開け、咥えた魂を噛み砕く。その音まで聞こえる気がした。
どれだけ硬直していたのか。
我に返った時、クラウディアは悔しそうに唇を噛んでいた。失敗したのだろうか。不安になって問いかけた私に、クラウディアは首を横に振った。
「助けたの、でも……固定先が……あなた、もう一度私にグロリアを産ませて頂戴。一日でも早く、あの子を身籠らないと……間に合わなくなるわ」
周囲は瓦礫が散乱する廃墟だった。何人分の血が流れたのか、死んだ者も多く混乱している。咄嗟に私が取った行動は、妻と息子、娘の遺体を守ることだった。
「キース、グロリアを馬車へ! 急げ! おいで、クラウディア」
「でも……」
妻の視線は聖女リリアンへ向かっている。よく見れば、彼女の腹部はやや膨らんでいた。太っただけと言われれば、そうも取れるが。
「あの女の中に、グロリアがいるの」
言われた意味が分からず、だけど頷いた。ここで否定したら妻がどんな行動に出るか。
「家で話を聞こう。聖女の中にグロリアがいるなら、彼女も連れて行くか?」
「いえ、塔に閉じ込めましょう。その間に私の胎内に取り戻さなくては」
焦る妻の手を取り、まだ悲鳴と苦痛の声に満ちた王城を後にした。屋敷で落ち着いて話を聞き、ようやく事態を飲み込めたのは明け方過ぎ。
「聖女を幽閉し、義父殿に助けを求めるのが精一杯だった。私は家族が揃って幸せなら、それ以上望むことはないよ」
微笑んだパパに、感極まって抱き付いた。
「ありがとう、パパ」
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