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23.紋章の薔薇はターラント家を示す
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「私はね、今まで本質を見誤っていたのよ」
戦争に巻き込まれるなんて考えたこともなかった。メイベルの言葉は、彼女以外の貴族すべてに当て嵌まると思う。私だって、前世で想像もしなかった。実際に騒動が起きて、初めて危険は身近なものだと理解した。
綺麗に着飾って、外交で戦ってきたつもり。でもどんなに言葉を尽くしても、武力を振り払うことは出来なかった。最初から傷つけるつもりで襲ってくる人相手に、話し合いや綺麗なドレス、貴族特有の駆け引きは通用しない。
「だから、緊急時に逃げた自分を恥じているの」
安全な場所で守られ、何も出来なかった。侍女や執事が屋敷を守っている時に、安穏と日々を過ごしていたこと。帰って来て知ったらしい。その時期、トラウマでおかしくなっていたとしても、公爵令嬢として他に出来ることはなかったか。自問自答した結果が、この屋敷だった。
話を聞いて、感心するより呆れた。間違いなく私の親友メイベルだわ。彼女は潔いっていうか、暴走する傾向があったのよね。昔からそうだったわ。
今さらながらに思い出したのは、学院でのひと騒動だ。彼女は他の令嬢が放った一言が許せず、その子の実家を破産寸前まで追い込んだ。それも優雅に扇を広げた陰で、小さく命じただけで。
侮辱に等しい言葉を吐いた子も悪いけど、そこまでする必要があったかしら? 当時そう尋ねたら「あら、私が容赦する理由があって?」と逆に返されてしまった。怒らせると際限なく暴走するタイプだわ。
きちんとした正義を芯に持っているから、それでも彼女が周囲から孤立することはなかった。多少傲慢でも、それを補うだけの財力と権力で国に貢献して来たんだもの。
悪い表現かもしれないけど、私の首が落ちてショックを受けたメイベルが放心状態だったのは、幸いかも。もし正気のまま怒り狂ったら、間違いなく国は併合する前に消滅していると思う。公爵家の寄子貴族を総動員して、王家滅亡まで戦ったはずだから。
少なくとも、そのくらい愛されている自覚はあった。
「ステンドグラス、自慢したくて四阿に呼んだのよ」
話す間に、にぃにが合流した。私の目が覚めたと、誰かに聞いたのね。どうやら体を動かしていたらしく、額に薄く汗が滲んでいた。侍女のローナが差し出したタオルで拭きながら、少し手前で足を止める。
「にぃに?」
「ん、汗臭いからな。後で」
いつもの癖で、抱っこされると思った両手が宙で遊んでしまう。すぐにメイベルに回収された。指を絡めてしっかり握られる。
「王家の象徴である鷲を守る薔薇が、ターラント家の紋章だったわ。でも私は王家を排除することに賛同した。獅子は隣国の旗よ」
言われて、納得した。王家の紋章は丸く羽を広げた鷲と月桂冠だった。その鷲を守る薔薇は、外へ棘を向けている。公爵家は王家の分家であり、同時に守りの盾でもあった。その覚悟が紋章となったのね。
確かにお祖父様の国ブラッドリーは獅子の紋章よ。右前脚を上げた獅子の旗の四隅を、分家の象徴である植物が飾っている。その中に薔薇はなかった。だから自分達が薔薇であると仮定して、獅子の国の所属となる覚悟を示したのね。
でも、どうして鷲の時と違って獅子に絡むように距離が近いのかしら。
戦争に巻き込まれるなんて考えたこともなかった。メイベルの言葉は、彼女以外の貴族すべてに当て嵌まると思う。私だって、前世で想像もしなかった。実際に騒動が起きて、初めて危険は身近なものだと理解した。
綺麗に着飾って、外交で戦ってきたつもり。でもどんなに言葉を尽くしても、武力を振り払うことは出来なかった。最初から傷つけるつもりで襲ってくる人相手に、話し合いや綺麗なドレス、貴族特有の駆け引きは通用しない。
「だから、緊急時に逃げた自分を恥じているの」
安全な場所で守られ、何も出来なかった。侍女や執事が屋敷を守っている時に、安穏と日々を過ごしていたこと。帰って来て知ったらしい。その時期、トラウマでおかしくなっていたとしても、公爵令嬢として他に出来ることはなかったか。自問自答した結果が、この屋敷だった。
話を聞いて、感心するより呆れた。間違いなく私の親友メイベルだわ。彼女は潔いっていうか、暴走する傾向があったのよね。昔からそうだったわ。
今さらながらに思い出したのは、学院でのひと騒動だ。彼女は他の令嬢が放った一言が許せず、その子の実家を破産寸前まで追い込んだ。それも優雅に扇を広げた陰で、小さく命じただけで。
侮辱に等しい言葉を吐いた子も悪いけど、そこまでする必要があったかしら? 当時そう尋ねたら「あら、私が容赦する理由があって?」と逆に返されてしまった。怒らせると際限なく暴走するタイプだわ。
きちんとした正義を芯に持っているから、それでも彼女が周囲から孤立することはなかった。多少傲慢でも、それを補うだけの財力と権力で国に貢献して来たんだもの。
悪い表現かもしれないけど、私の首が落ちてショックを受けたメイベルが放心状態だったのは、幸いかも。もし正気のまま怒り狂ったら、間違いなく国は併合する前に消滅していると思う。公爵家の寄子貴族を総動員して、王家滅亡まで戦ったはずだから。
少なくとも、そのくらい愛されている自覚はあった。
「ステンドグラス、自慢したくて四阿に呼んだのよ」
話す間に、にぃにが合流した。私の目が覚めたと、誰かに聞いたのね。どうやら体を動かしていたらしく、額に薄く汗が滲んでいた。侍女のローナが差し出したタオルで拭きながら、少し手前で足を止める。
「にぃに?」
「ん、汗臭いからな。後で」
いつもの癖で、抱っこされると思った両手が宙で遊んでしまう。すぐにメイベルに回収された。指を絡めてしっかり握られる。
「王家の象徴である鷲を守る薔薇が、ターラント家の紋章だったわ。でも私は王家を排除することに賛同した。獅子は隣国の旗よ」
言われて、納得した。王家の紋章は丸く羽を広げた鷲と月桂冠だった。その鷲を守る薔薇は、外へ棘を向けている。公爵家は王家の分家であり、同時に守りの盾でもあった。その覚悟が紋章となったのね。
確かにお祖父様の国ブラッドリーは獅子の紋章よ。右前脚を上げた獅子の旗の四隅を、分家の象徴である植物が飾っている。その中に薔薇はなかった。だから自分達が薔薇であると仮定して、獅子の国の所属となる覚悟を示したのね。
でも、どうして鷲の時と違って獅子に絡むように距離が近いのかしら。
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