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21.二人の馴れ初め……ではなかった

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「では、今からよ」

 しっかり時間を指定されて頷く。せーので、名前呼びが始まった。様の敬称を省略するの。でも義姉になるのに問題かな? と迷ったけど、家の中では「ねぇね」になるからいいんですって。

「メイベル」

 照れてしまった。両手で顔を隠した私に「グロリア……呼んでみると恥ずかしいわね」と笑う。親友の明るい表情に、私はほっとしていた。目の前で友人の首が落ちる状況なんて、普通の貴族令嬢はないわ。だからトラウマになっていたら、申し訳ないと思ったの。

「トラウマ……そうね、一ヶ月くらいは食べ物が喉を通らなくて。がりがりに痩せたわ」

「え……なんか、ごめんなさい」

 私が謝るのも違うけど、他に言葉が見つからなかった。元から細い腰なのに、ガリガリって言われたら怖い。ほとんど固形物を食べられず、すり下ろした果物や卵入りのスープを流し込まれたとメイベルは語った。

「この髪も結構抜けてしまって、ここ二年ほどでようやく戻ったの」

 言われなければ気づかなかった。私が殺されて五年、皆が忘れて楽しく過ごせば良かったと思わない。でもこんなに苦しめてしまったのなら、いっそ忘れてくれてもいいのに。

 唇を噛んだ私の髪を、にぃにが優しく撫でる。

「実は婚約の打診は三年前なんだ。復讐が一段落して、こちらに戻ってすぐ声を掛けた」

「まだ髪が薄いから嫌だと答えたのよ」

 くすくす笑うメイベルだが、今は柔らかく波打つ髪は豊かだった。自慢の髪が抜けた時、すごく悩んだだろうし悲しかっただろう。同じ女性なので想像できた。

「髪が整うまで待ってと言われたから、君がつるっ禿げでも平気だと再打診したら、返事が来なかった。必死で通ったが無視されてね」

「それはにぃにが悪いわ」

 髪が抜け落ちて嘆いている女性に「つるっ禿げ」なんて単語を使ったら、ダメよ。文官で就職したのに、言葉で失敗するなんて。それじゃ脳筋じゃない! あ、今は脳筋になってたわね。もしかしてお祖父様の教育のせいで、にぃには壊れたのかしら。

「今は絶対に言わないし、言っても笑い飛ばされるな」

「当然よ、もし同じ発言をしたら……そうね。グロリアを連れて逃げます」

「それは気をつけないと」

 私をダシにして楽しそうな二人の会話に、行儀悪く肘をついて口元を緩める。足を揺らしてぶらぶらさせ、こてりと首を傾げた。

「仲が良すぎて、私が寂しい」

 冗談のつもりの一言に、二人は驚くほど反応した。互いを押し除けるようにして私を奪い合い、両側から腕を掴まれる経験をする。初めてだけど、これ……結構痛いわね。涙が滲んだら二人して手を離され、落ちる直前にエイミーにキャッチされた。

「お二人とも! お嬢様はまだ幼いのですよ? 腕が抜けたらどうするのですか。これは奥様に報告させていただきます」

「すまない」

「ごめんなさい」

 二人はママに報告しないよう頼んだが、エイミーは断固として首を横に振った。そうなのよ、育ての母であるエイミーは頑固よ。二人とも反省して頂戴ね。
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