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19.久しぶりの友人宅訪問です

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 親友メイベル様と会うのは、あの断罪の夜以来、六年ぶりだった。わくわくしながら馬車に揺られる。昨日までに模様替えの準備を終えたので、外出の許可が出たの。

 にぃにが護衛で、馬車に揺られている。私がドレス姿だからよ。ワンピースに近い丈だけど、足首近くまであった。馬に乗るのは無理だわ。跨ったら捲れちゃうもの。街へ降りた日にオーダーした服の完成はまだなので、既製品を手直ししてもらった。

 馬車の向かいには、乳母のエイミーも一緒。侍女ローナも同行した。揺れるローナの膝には、お菓子の詰まったバスケットがある。うちの料理人が作る菓子は本当に美味しいの。もちろんご飯も美味しいし、他国の料理も作れるらしい。

 帰ったら、お母様の実家である隣国ブラッドリーの料理を夕食にいただく予定。なんと食堂じゃなくて居間に座って食べるのよ。香辛料たっぷりで辛くて美味しい。汗が出るのよね。久しぶりだから楽しみだわ。

 夕食の話で盛り上がる馬車は、ゆっくりと停車した。外からノックしたにぃにが「着いたよ」と声を掛ける。しっかり閉めた内鍵をエイミーが解除し、私は扉をくぐった。

「……全然違う」

 目の前に広がる景色は、私の知るターラント公爵家ではなかった。以前は大きなゲートの先に薔薇の小道が続き、花壇や生垣で作った迷路のような光景が広がっていたのに。今は見晴らしのいい一面の芝生、そこに立派な巨木が残っていた。花壇は控えめになり、代わりに実のなる低木が何本も茂みを作る。

 庭というより、果樹園かな。

「ようこそおいでくださいました。お嬢様がお待ちです」

 あ、まだ結婚してなかったんだ。そんな感想が浮かんだ。公爵家の一人娘だし、親に言われて結婚したのかと思っていた。お嬢様って、独身じゃないと使わないよね。

 小さな手を伸ばし、にぃにと繋ぐ。反対の手はエイミーが掴んでくれた。お菓子のバスケットを持つローナは後ろに続く。新しく用意されたぴったりの靴で、てくてくと歩き始めた。にぃにが一歩進む間に、三歩くらい踏み出さないと間に合わない。

「抱っこしようか?」

「やだ」

 歩くと主張して、可能なかぎり足を早く動かす。距離を稼ぐには高回転だよ。軽く汗をかき始めた頃、ようやく庭の奥にある四阿に到着した。四阿と呼んでいいのかな。迷うほど立派な建築物だ。透かし彫りの壁に囲まれた内部は、大きく光を取り込むステンドグラスが使われていた。

 紋章……? 私が知るターラント公爵家の紋章は、鷲を薔薇が取り巻いていた。だから玄関までのアプローチも薔薇だったんだもの。ステンドグラスの絵は薔薇が獅子を包む。絡みつく感じに近い絵だった。

「ようこそ……いえ、久しぶりね。グロリア様」

「メイベル様、おしさしぶりです」

 ちょっと噛んだ。笑顔で誤魔化しておく。近づいたメイベル様は相変わらずお美しかった。何より大人っぽくなった分だけ、柔らかな印象である。以前は少し目元がキツく感じられたけど、今の方が素敵だわ。

 褒めている間に、お茶が並べられていく。椅子を勧められて腰掛け……ようとして、エイミーに助けてもらった。椅子に座っても足がぶらぶらと揺れる。少し離れた場所に控えるローナが、ターラント公爵家の侍女にお茶菓子を手渡した。毒見した後で、お皿に綺麗に盛られて出てくるのよね。

「それにしても……話に聞いていたのに動揺してしまったわ。本当にあの二人の子に生まれてしまったのね」

 同情する響きに、私は苦笑いした。
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