19 / 72
19.久しぶりの友人宅訪問です
しおりを挟む
親友メイベル様と会うのは、あの断罪の夜以来、六年ぶりだった。わくわくしながら馬車に揺られる。昨日までに模様替えの準備を終えたので、外出の許可が出たの。
にぃにが護衛で、馬車に揺られている。私がドレス姿だからよ。ワンピースに近い丈だけど、足首近くまであった。馬に乗るのは無理だわ。跨ったら捲れちゃうもの。街へ降りた日にオーダーした服の完成はまだなので、既製品を手直ししてもらった。
馬車の向かいには、乳母のエイミーも一緒。侍女ローナも同行した。揺れるローナの膝には、お菓子の詰まったバスケットがある。うちの料理人が作る菓子は本当に美味しいの。もちろんご飯も美味しいし、他国の料理も作れるらしい。
帰ったら、お母様の実家である隣国ブラッドリーの料理を夕食にいただく予定。なんと食堂じゃなくて居間に座って食べるのよ。香辛料たっぷりで辛くて美味しい。汗が出るのよね。久しぶりだから楽しみだわ。
夕食の話で盛り上がる馬車は、ゆっくりと停車した。外からノックしたにぃにが「着いたよ」と声を掛ける。しっかり閉めた内鍵をエイミーが解除し、私は扉をくぐった。
「……全然違う」
目の前に広がる景色は、私の知るターラント公爵家ではなかった。以前は大きなゲートの先に薔薇の小道が続き、花壇や生垣で作った迷路のような光景が広がっていたのに。今は見晴らしのいい一面の芝生、そこに立派な巨木が残っていた。花壇は控えめになり、代わりに実のなる低木が何本も茂みを作る。
庭というより、果樹園かな。
「ようこそおいでくださいました。お嬢様がお待ちです」
あ、まだ結婚してなかったんだ。そんな感想が浮かんだ。公爵家の一人娘だし、親に言われて結婚したのかと思っていた。お嬢様って、独身じゃないと使わないよね。
小さな手を伸ばし、にぃにと繋ぐ。反対の手はエイミーが掴んでくれた。お菓子のバスケットを持つローナは後ろに続く。新しく用意されたぴったりの靴で、てくてくと歩き始めた。にぃにが一歩進む間に、三歩くらい踏み出さないと間に合わない。
「抱っこしようか?」
「やだ」
歩くと主張して、可能なかぎり足を早く動かす。距離を稼ぐには高回転だよ。軽く汗をかき始めた頃、ようやく庭の奥にある四阿に到着した。四阿と呼んでいいのかな。迷うほど立派な建築物だ。透かし彫りの壁に囲まれた内部は、大きく光を取り込むステンドグラスが使われていた。
紋章……? 私が知るターラント公爵家の紋章は、鷲を薔薇が取り巻いていた。だから玄関までのアプローチも薔薇だったんだもの。ステンドグラスの絵は薔薇が獅子を包む。絡みつく感じに近い絵だった。
「ようこそ……いえ、久しぶりね。グロリア様」
「メイベル様、おしさしぶりです」
ちょっと噛んだ。笑顔で誤魔化しておく。近づいたメイベル様は相変わらずお美しかった。何より大人っぽくなった分だけ、柔らかな印象である。以前は少し目元がキツく感じられたけど、今の方が素敵だわ。
褒めている間に、お茶が並べられていく。椅子を勧められて腰掛け……ようとして、エイミーに助けてもらった。椅子に座っても足がぶらぶらと揺れる。少し離れた場所に控えるローナが、ターラント公爵家の侍女にお茶菓子を手渡した。毒見した後で、お皿に綺麗に盛られて出てくるのよね。
「それにしても……話に聞いていたのに動揺してしまったわ。本当にあの二人の子に生まれてしまったのね」
同情する響きに、私は苦笑いした。
にぃにが護衛で、馬車に揺られている。私がドレス姿だからよ。ワンピースに近い丈だけど、足首近くまであった。馬に乗るのは無理だわ。跨ったら捲れちゃうもの。街へ降りた日にオーダーした服の完成はまだなので、既製品を手直ししてもらった。
馬車の向かいには、乳母のエイミーも一緒。侍女ローナも同行した。揺れるローナの膝には、お菓子の詰まったバスケットがある。うちの料理人が作る菓子は本当に美味しいの。もちろんご飯も美味しいし、他国の料理も作れるらしい。
帰ったら、お母様の実家である隣国ブラッドリーの料理を夕食にいただく予定。なんと食堂じゃなくて居間に座って食べるのよ。香辛料たっぷりで辛くて美味しい。汗が出るのよね。久しぶりだから楽しみだわ。
夕食の話で盛り上がる馬車は、ゆっくりと停車した。外からノックしたにぃにが「着いたよ」と声を掛ける。しっかり閉めた内鍵をエイミーが解除し、私は扉をくぐった。
「……全然違う」
目の前に広がる景色は、私の知るターラント公爵家ではなかった。以前は大きなゲートの先に薔薇の小道が続き、花壇や生垣で作った迷路のような光景が広がっていたのに。今は見晴らしのいい一面の芝生、そこに立派な巨木が残っていた。花壇は控えめになり、代わりに実のなる低木が何本も茂みを作る。
庭というより、果樹園かな。
「ようこそおいでくださいました。お嬢様がお待ちです」
あ、まだ結婚してなかったんだ。そんな感想が浮かんだ。公爵家の一人娘だし、親に言われて結婚したのかと思っていた。お嬢様って、独身じゃないと使わないよね。
小さな手を伸ばし、にぃにと繋ぐ。反対の手はエイミーが掴んでくれた。お菓子のバスケットを持つローナは後ろに続く。新しく用意されたぴったりの靴で、てくてくと歩き始めた。にぃにが一歩進む間に、三歩くらい踏み出さないと間に合わない。
「抱っこしようか?」
「やだ」
歩くと主張して、可能なかぎり足を早く動かす。距離を稼ぐには高回転だよ。軽く汗をかき始めた頃、ようやく庭の奥にある四阿に到着した。四阿と呼んでいいのかな。迷うほど立派な建築物だ。透かし彫りの壁に囲まれた内部は、大きく光を取り込むステンドグラスが使われていた。
紋章……? 私が知るターラント公爵家の紋章は、鷲を薔薇が取り巻いていた。だから玄関までのアプローチも薔薇だったんだもの。ステンドグラスの絵は薔薇が獅子を包む。絡みつく感じに近い絵だった。
「ようこそ……いえ、久しぶりね。グロリア様」
「メイベル様、おしさしぶりです」
ちょっと噛んだ。笑顔で誤魔化しておく。近づいたメイベル様は相変わらずお美しかった。何より大人っぽくなった分だけ、柔らかな印象である。以前は少し目元がキツく感じられたけど、今の方が素敵だわ。
褒めている間に、お茶が並べられていく。椅子を勧められて腰掛け……ようとして、エイミーに助けてもらった。椅子に座っても足がぶらぶらと揺れる。少し離れた場所に控えるローナが、ターラント公爵家の侍女にお茶菓子を手渡した。毒見した後で、お皿に綺麗に盛られて出てくるのよね。
「それにしても……話に聞いていたのに動揺してしまったわ。本当にあの二人の子に生まれてしまったのね」
同情する響きに、私は苦笑いした。
24
お気に入りに追加
601
あなたにおすすめの小説
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
【完結】貴方たちはお呼びではありませんわ。攻略いたしません!
宇水涼麻
ファンタジー
アンナリセルはあわてんぼうで死にそうになった。その時、前世を思い出した。
前世でプレーしたゲームに酷似した世界であると感じたアンナリセルは自分自身と推しキャラを守るため、攻略対象者と距離を置くことを願う。
そんな彼女の願いは叶うのか?
毎日朝方更新予定です。
今、私は幸せなの。ほっといて
青葉めいこ
ファンタジー
王族特有の色彩を持たない無能な王子をサポートするために婚約した公爵令嬢の私。初対面から王子に悪態を吐かれていたので、いつか必ず婚約を破談にすると決意していた。
卒業式のパーティーで、ある告白(告発?)をし、望み通り婚約は破談となり修道女になった。
そんな私の元に、元婚約者やら弟やらが訪ねてくる。
「今、私は幸せなの。ほっといて」
小説家になろうにも投稿しています。
悪役令嬢は所詮悪役令嬢
白雪の雫
ファンタジー
「アネット=アンダーソン!貴女の私に対する仕打ちは到底許されるものではありません!殿下、どうかあの平民の女に頭を下げるように言って下さいませ!」
魔力に秀でているという理由で聖女に選ばれてしまったアネットは、平民であるにも関わらず公爵令嬢にして王太子殿下の婚約者である自分を階段から突き落とそうとしただの、冬の池に突き落として凍死させようとしただの、魔物を操って殺そうとしただの──・・・。
リリスが言っている事は全て彼女達による自作自演だ。というより、ゲームの中でリリスがヒロインであるアネットに対して行っていた所業である。
愛しいリリスに縋られたものだから男としての株を上げたい王太子は、アネットが無実だと分かった上で彼女を断罪しようとするのだが、そこに父親である国王と教皇、そして聖女の夫がやって来る──・・・。
悪役令嬢がいい子ちゃん、ヒロインが脳内お花畑のビッチヒドインで『ざまぁ』されるのが多いので、逆にしたらどうなるのか?という思い付きで浮かんだ話です。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
【完結】婚約破棄したら『悪役令嬢』から『事故物件令嬢』になりました
Mimi
ファンタジー
私エヴァンジェリンには、幼い頃に決められた婚約者がいる。
男女間の愛はなかったけれど、幼馴染みとしての情はあったのに。
卒業パーティーの2日前。
私を呼び出した婚約者の隣には
彼の『真実の愛のお相手』がいて、
私は彼からパートナーにはならない、と宣言された。
彼は私にサプライズをあげる、なんて言うけれど、それはきっと私を悪役令嬢にした婚約破棄ね。
わかりました!
いつまでも夢を見たい貴方に、昨今流行りのざまぁを
かまして見せましょう!
そして……その結果。
何故、私が事故物件に認定されてしまうの!
※本人の恋愛的心情があまり無いので、恋愛ではなくファンタジーカテにしております。
チートな能力などは出現しません。
他サイトにて公開中
どうぞよろしくお願い致します!
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。
三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*
公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。
どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。
※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。
※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる