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12.最期の最後に、何を願った?

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 昔からママの食事は優雅な所作で、ものすごく速い。ひょいぱくっと吸い込まれていくので、うっかり見惚れると食べ損ねてしまう。懐かしく思いながら、用意された丸いパンを千切った。

 体が変わっても、覚えた所作は健在みたい。不思議ね。でも礼儀作法はほとんど知識か。剣術などは、一からやり直しだと思うわ。あれこそ体が覚えてる、って部類だもの。

「昨日の足りない説明をするわね」

 私がパンをスープに浸したり、大好きなオムレツを切っている間に、ママは食べ終わった。驚くべき速さだし、何より食器が綺麗。さすがは元王女様ね。

 手に馴染むカトラリーは、子供用だった。昔使った記憶がある。持ち手の部分に小さな熊の彫刻がされた木材を使用してるの。滑らなくて使いやすいのよ。オムレツを食べて、サラダも口に入れる。ぱんぱんに頬を膨らませた私に、向かいのにぃにが果物を分けてくれた。

「グロリア、ゆっくり食べなさい」

 パパに注意されちゃった。頷いて、今度は口に半分ほど食べ物を放り込む。子供は口が小さいから、どうしても食べるのが遅くなる。優雅に紅茶を楽しむママが、カップをソーサーへ戻した。

「グロリアが知りたいのは、あなたが殺された後の話よね」

 まだ頬袋がいっぱいなので、頷いて返事をした。大事な話なので、二回頷く。

「第二王子メレディスは裁判を行わなかった。仮にも隣国の王孫であるグロリアを、冤罪で処刑したのよ。当然だけど、お父様が黙っているわけないわ」

「あの時の義父殿は大変だった。私とキースは死ぬかと思うほど鍛えられたぞ」

 すぐに想像がついてしまう。筋骨隆々のお祖父様は、護衛の将軍より鍛えている。私の腰より太そうな腕にぶら下がるのが大好きだったわ。全然重さを気にせず、私を振り回せるんだもの。祖父に鍛えられたなら、パパとにぃにに筋肉がついた理由も納得だった。

「死んだ直後、あなたの首を拾ったのが私よ。大切に育てた娘を冤罪で奪われ、怒りに魔力が暴走したの」

 この国で魔力を持つのは数人だけ。特殊な能力だけど、隣国には魔法の使える魔力持ちは普通に存在した。この国で魔力持ちとされる人は、先祖にママの国の血が混じっている。見た目も寿命も同じ人だけど、能力は全然違った。

 王族は特に魔力が強いと、お祖父様が誇っていたっけ。その魔力が暴走し、死んだ直後の私が巻き込まれたのかしら。

「ママ、私は魔力の暴走で生まれ変われたの?」

「半分は魔力暴走が原因、残りは……あなた自身よ」

 首を傾げる。私もママの子だから、魔力持ちだ。それが影響したのかな。魔力持ちだから王家の嫁に選ばれたんだし。ある意味迷惑よね。魔力が強い私の血を取り入れて、王家の強化を図ったんだもの。人は牛や馬の交配と違うんですからね。

「死んだ時に、強く何かを願ったでしょう?」

「ええ。リリアン許すまじ! って思ったし、メレディスも殺したいと願ったわ」

「それじゃないわね」

 あっさり否定される。

「死んで蘇ってからそう願ったでしょうけど、最期の最後……死にたくないと思ったんじゃない?」

 言われてよくよく思い返す。友人である公爵令嬢のメイベル様の悲鳴が聞こえて、転がりながら自分の体を見た。あの時、何を願ったのかな。
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