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02.略奪婚の性女の娘に生まれた罰ゲーム

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 泣き喚けば、すぐに乳母が駆け込んできた。茶色の髪と瞳の優しそうな女性だ。見覚えがないから、彼女に対して思うところはない。きっとどこかの下級貴族の夫人だろうな。調度品を見る限り貴族の御屋敷みたいだから、乳母を雇える。一般的に未亡人や出産経験がある男爵夫人や子爵夫人が多かった。

 最低限の礼儀作法が出来て、身元がしっかりしている。その上、貴族の子に平民の乳を飲ませたら貴族ではなくなる……なんてくだらない迷信もあった。眠いはずなのに文句ひとつ言わず、オムツを交換した乳母は子守唄を歌う。その声が優しくて、揺らすリズムが心地よくて目蓋が重くなった。

 ダメよ、まだいろいろ考えて思い出さないと! この状況の理由を……すやぁ……。

 くっ、また負けた。残念ながら赤子に体力はない。まだ話せないし寝返りも自由に打てないとなれば、生まれて数ヵ月以内だと思う。一瞬で眠ってしまい、また起きては腹が空いたと乳母の乳をもらう。恥ずかしいとか言ってる場合ではないし、女性同士だから平気。ちゅっちゅと効率よく飲み干した。

 すぐに眠らされてしまう乳母のゴッドハンドに抗うこと数十回、ようやく寝たフリで子守唄から逃れる。ここまでに一週間はかかってしまった。なんてこと!

 現時点でお腹は足りて、オムツも問題なし。じっくり考えられるわね。出来るだけ余計な音を立てないよう、手足を引き寄せちぢこまる。暖かい部屋の中で、うっかり眠ってしまいそう。

 私はグロリア・ホールズワースだった。第二王子メレディスの婚約者で、隣国の王女を母に持つ侯爵令嬢。突如現れた平民の聖女リリアンに、婚約者を略奪された。ここまでは確実ね。

「お、うぐっ」

 思わず叫びそうになって、我慢しようとしたら舌を噛んだ。すごく痛い。のたうち回りたいけど、それすら自由にならなかった。赤子って不便ね。

 そうじゃなくて、恐ろしい事実に気づいてしまったの。私の母親らしきピンク髪の女、もしかしなくても……聖女リリアン? だとしたら、夫はメレディスかも。ぞっとした。

 死んですぐに宿ったとしたら、あの断罪事件の時点で、すでに身籠っていたのよね? 婚約者ですらない男の種を、胎に受けたの? いくら王子相手でも軽率すぎるわ。それ以前にふしだらよね。

 婚約者がいる男に言い寄って、婚約破棄からの略奪婚。その挙げ句に、前世の私と婚約している時点で体で攻略済みだった? そんなの聖女じゃなくて、性女よ。よくそれで平然と私の前に出てこられたわ。

 ぞっとして背筋が冷たくなる。二人の不貞の末に生まれたのなら、この体は呪われている。でも服のように体を脱ぎ着するのは不可能よね。一生、この体で生きていくしかない。生まれたばかりの赤子なのに、これ以上なく汚ない穢れた存在だと自分で認識しながら?

 神様に復讐のチャンスをくださいと願ったけど、その代償がコレなら神様って意地悪なのね。でもいいわ。復讐できずに消滅するよりマシだった。あの二人に絶対後悔させてやる。

 にしても、赤子の部屋って狭いのね。自分の体が小さくなったなら、部屋は広く感じると思うけど。前世の記憶のせいかな。侯爵令嬢だった頃の自室の半分もないわ。家具で広さを測りながら、私は欠伸をひとつ。だめ、もう起きていられない。
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