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第147話 言葉にならない婚約成立
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倭国の所有する屋敷は、陰陽術による転移の出入り口になっている。この屋敷の存在は王家も知ったため、現在は警護対象だった。その屋敷の中から、飛び出す一人の少女。
珍しい民族衣装に、子犬と小狐を抱いている。護衛として派遣された兵士は、丁重に彼女に声をかけた。
「王城へ行きたいの」
無邪気に答える彼女は、倭国の関係者だろう。重要人物の可能性も高い。用意してある馬車に乗せ、城門前まで運んだ。第二王子に会いたいと言われ、確認をとる間に……木剣片手のルイが通りかかった。
「あれ? ルイじゃない」
「ん……アイリーンか。今日は一人か?」
気安く挨拶をする二人の様子に、問題ないと判断した門番が馬車を通す。今までは隠れて夜中に訓練していたルイだが、もうバレたので自由に過ごしていた。わざわざ城門の前を通ったのは、貴族への牽制も兼ねてだ。
「ココとネネも一緒なの。あのね、ルイ。その……」
並んで歩きながら、アイリーンは頬を染める。婚約を打診したって本当? いつもなら簡単に口をつく言葉が、なかなか出てこない。もじもじするアイリーンに首を傾げながら、中庭へ案内した。
侍女にお茶の支度を頼み、ひとまず空いていたベンチに腰掛ける。やや離れた芝の上に、パラソルやテーブルセットが用意され始めた。それを見つめながら、アイリーンは拳を握る。ここまで来たんだから、手ぶらでは帰れないわ。
「私、と……婚約、の話が出てて」
途切れ途切れに呟くアイリーンは俯き、表情が見えない。ルイはきゅっと眉根を寄せた。誰が彼女に求婚したのか。これは先を越された状況だ。割り込んで奪ってやる。絶対に渡さないからな!
「俺も婚約を申し込む。俺の妻になってほしい」
「……も?」
他にもいるの? ここでアイリーンは混乱した。ルイは魔法が使えて顔も良くて、鍛えている王子様だ。もしかしたら、誰かが婚約を申し入れたのかも? だったら、早い者勝ちで手を付けちゃえばいいわよね。
互いに人の話を最後まで聞かずに暴走するタイプだった。アイリーンはぐいと身を乗り出し、ルイの頬に手を当てる。目を見開く彼の唇目掛けて、飛びついた。キスと称するには色気が足りず、事故と呼ぶには強烈すぎる。
唇どころか、歯もぶつかる大惨事だった。初恋のキスはレモン味だったりイチゴ味だったりするが、今回は間違いなく血の味だろう。
「っ!」
「いたっ」
二人が自らの唇を押さえて離れたところに、侍女はうっかり近づいてしまった。真っ赤な顔で口を隠す二人の様子に、お茶の支度ができたと言い出せずに固まる。
「っ、なんだ?」
第二王子に八つ当たり気味に問いかけられ、侍女は慌てて一礼した。お茶の支度ができたと告げ、そそくさと逃げ出す。その足取りは軽く、口はもっと軽い。王城内で、第二王子の婚約成立とキスの話が広まるのは、ものすごく早かった。
王城に勤めるには口の固さが絶対条件だが、今回は該当しない。なにしろ率先して広めるのが王妃達なのだから。翌日には城外まで知れ渡った。
珍しい民族衣装に、子犬と小狐を抱いている。護衛として派遣された兵士は、丁重に彼女に声をかけた。
「王城へ行きたいの」
無邪気に答える彼女は、倭国の関係者だろう。重要人物の可能性も高い。用意してある馬車に乗せ、城門前まで運んだ。第二王子に会いたいと言われ、確認をとる間に……木剣片手のルイが通りかかった。
「あれ? ルイじゃない」
「ん……アイリーンか。今日は一人か?」
気安く挨拶をする二人の様子に、問題ないと判断した門番が馬車を通す。今までは隠れて夜中に訓練していたルイだが、もうバレたので自由に過ごしていた。わざわざ城門の前を通ったのは、貴族への牽制も兼ねてだ。
「ココとネネも一緒なの。あのね、ルイ。その……」
並んで歩きながら、アイリーンは頬を染める。婚約を打診したって本当? いつもなら簡単に口をつく言葉が、なかなか出てこない。もじもじするアイリーンに首を傾げながら、中庭へ案内した。
侍女にお茶の支度を頼み、ひとまず空いていたベンチに腰掛ける。やや離れた芝の上に、パラソルやテーブルセットが用意され始めた。それを見つめながら、アイリーンは拳を握る。ここまで来たんだから、手ぶらでは帰れないわ。
「私、と……婚約、の話が出てて」
途切れ途切れに呟くアイリーンは俯き、表情が見えない。ルイはきゅっと眉根を寄せた。誰が彼女に求婚したのか。これは先を越された状況だ。割り込んで奪ってやる。絶対に渡さないからな!
「俺も婚約を申し込む。俺の妻になってほしい」
「……も?」
他にもいるの? ここでアイリーンは混乱した。ルイは魔法が使えて顔も良くて、鍛えている王子様だ。もしかしたら、誰かが婚約を申し入れたのかも? だったら、早い者勝ちで手を付けちゃえばいいわよね。
互いに人の話を最後まで聞かずに暴走するタイプだった。アイリーンはぐいと身を乗り出し、ルイの頬に手を当てる。目を見開く彼の唇目掛けて、飛びついた。キスと称するには色気が足りず、事故と呼ぶには強烈すぎる。
唇どころか、歯もぶつかる大惨事だった。初恋のキスはレモン味だったりイチゴ味だったりするが、今回は間違いなく血の味だろう。
「っ!」
「いたっ」
二人が自らの唇を押さえて離れたところに、侍女はうっかり近づいてしまった。真っ赤な顔で口を隠す二人の様子に、お茶の支度ができたと言い出せずに固まる。
「っ、なんだ?」
第二王子に八つ当たり気味に問いかけられ、侍女は慌てて一礼した。お茶の支度ができたと告げ、そそくさと逃げ出す。その足取りは軽く、口はもっと軽い。王城内で、第二王子の婚約成立とキスの話が広まるのは、ものすごく早かった。
王城に勤めるには口の固さが絶対条件だが、今回は該当しない。なにしろ率先して広めるのが王妃達なのだから。翌日には城外まで知れ渡った。
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