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第145話 姉妹の圧力に屈する
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アイリーンを除く家族が集まった部屋で、父セイランは御簾を巻き上げて顔を見せた。その表情は苦悶に満ちている。何が起きたのか、不安に駆られる二人の皇女達を長男であるシンが気遣う。
「父上、突然集めた理由は……」
「何が起きたのですか」
重々しく告げられた内容に、彼と彼女らは愕然とした。
「可愛い末姫に婚約の申し入れがあった」
「なんですって?!」
「冗談じゃないわ。そこらの男にやれないわよ」
アオイとヒスイが叫ぶ中、シンだけは冷静だった。というより、冷静さを保とうとしている。彼はもう少し先を読んでいた。父が苦悶の表情を浮かべて相談する相手、簡単に断れない理由があるはず。
国内の貴族や公家ではないだろう。となれば、隣国である華国か? いや、あの国に年頃の王子はいなかった。ならば……まさかの隣大陸では?
「父上、相手は誰ですか」
はっとした様子で静まる姉妹は、父の手に握られた手紙を睨む。封筒と便箋をまとめて握った手から、情報を探ろうとする。みたことがない紙は、交易がある国が相手ではないと示していた。
薄い緑を帯びた紙を、セイランがさらに握りつぶす。血管が浮くほど、力を込めて。
「……フルール大陸の第二王子だ」
長女アオイは、すぐにピンときた。アイリーンが一緒に遊び、戦い、親しく触れ合う金髪碧眼の王子様だ。あの子なら、第二王子だから婿に引き入れることが可能だわ。頭の中で算盤を弾く。
少しばかり思い出すのに時間がかかったのは、次女ヒスイだった。金髪の魔法を使える、あの子か。思い出しながら、アイリーンが仲良く呼び捨てにしていたっけと納得する。逆に、父がなぜ反対するのか不思議だった。
「それは許せませんね」
自分の婚約相手でもないのに、一言で否定する長男シンが父に同調する。別にフルール大陸と交易を始めなくても、たいした実害はない。この際、国交断絶でもいいか。
男性陣の過保護さと、過干渉ぶりに二人の姉達は顔を見合わせた。これは私達が一肌脱がないと、縁談が潰されてしまう。可愛いアイリーンを泣かせるなら、家族でも敵だわ。今までさほど仲が良くなかった姉妹は、ここで驚くほど意気投合した。
目配せで頷き合い、帝と皇太子を敵に回す覚悟を確認する。
「お父様、お兄様、もしアイリーンの意見を聞かずに話を進めたら……覚悟なさい」
母親譲りのきつい口調で、ヒスイが釘を刺す。その釘の上から、さらに太い杭をアオイが打ち込んだ。
「縁談を無理やり潰そうものなら、倭国が地図から消えますわ」
クーデターを起こしてでも、阻止する。女性二人の恐ろしい発言に、シンは苦虫を噛み潰した顔で目を逸らした。勢いを削がれたセイランは、溜め息を吐く。この場に、姉妹を呼んだのは失敗だったか。
「母親そっくりだぞ」
「「それで結構」」
一番の嫌味を、姉妹はするりとかわした。可愛い妹の幸せのためなら、多少の泥は被りましょう。シンはうなだれ、降参だと手を挙げた。諦めきれない父セイランは、そっぽを向いて逃げる。
勝敗が決するのは、時間の問題だった。
「父上、突然集めた理由は……」
「何が起きたのですか」
重々しく告げられた内容に、彼と彼女らは愕然とした。
「可愛い末姫に婚約の申し入れがあった」
「なんですって?!」
「冗談じゃないわ。そこらの男にやれないわよ」
アオイとヒスイが叫ぶ中、シンだけは冷静だった。というより、冷静さを保とうとしている。彼はもう少し先を読んでいた。父が苦悶の表情を浮かべて相談する相手、簡単に断れない理由があるはず。
国内の貴族や公家ではないだろう。となれば、隣国である華国か? いや、あの国に年頃の王子はいなかった。ならば……まさかの隣大陸では?
「父上、相手は誰ですか」
はっとした様子で静まる姉妹は、父の手に握られた手紙を睨む。封筒と便箋をまとめて握った手から、情報を探ろうとする。みたことがない紙は、交易がある国が相手ではないと示していた。
薄い緑を帯びた紙を、セイランがさらに握りつぶす。血管が浮くほど、力を込めて。
「……フルール大陸の第二王子だ」
長女アオイは、すぐにピンときた。アイリーンが一緒に遊び、戦い、親しく触れ合う金髪碧眼の王子様だ。あの子なら、第二王子だから婿に引き入れることが可能だわ。頭の中で算盤を弾く。
少しばかり思い出すのに時間がかかったのは、次女ヒスイだった。金髪の魔法を使える、あの子か。思い出しながら、アイリーンが仲良く呼び捨てにしていたっけと納得する。逆に、父がなぜ反対するのか不思議だった。
「それは許せませんね」
自分の婚約相手でもないのに、一言で否定する長男シンが父に同調する。別にフルール大陸と交易を始めなくても、たいした実害はない。この際、国交断絶でもいいか。
男性陣の過保護さと、過干渉ぶりに二人の姉達は顔を見合わせた。これは私達が一肌脱がないと、縁談が潰されてしまう。可愛いアイリーンを泣かせるなら、家族でも敵だわ。今までさほど仲が良くなかった姉妹は、ここで驚くほど意気投合した。
目配せで頷き合い、帝と皇太子を敵に回す覚悟を確認する。
「お父様、お兄様、もしアイリーンの意見を聞かずに話を進めたら……覚悟なさい」
母親譲りのきつい口調で、ヒスイが釘を刺す。その釘の上から、さらに太い杭をアオイが打ち込んだ。
「縁談を無理やり潰そうものなら、倭国が地図から消えますわ」
クーデターを起こしてでも、阻止する。女性二人の恐ろしい発言に、シンは苦虫を噛み潰した顔で目を逸らした。勢いを削がれたセイランは、溜め息を吐く。この場に、姉妹を呼んだのは失敗だったか。
「母親そっくりだぞ」
「「それで結構」」
一番の嫌味を、姉妹はするりとかわした。可愛い妹の幸せのためなら、多少の泥は被りましょう。シンはうなだれ、降参だと手を挙げた。諦めきれない父セイランは、そっぽを向いて逃げる。
勝敗が決するのは、時間の問題だった。
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