【完結】神狐の巫女姫☆妖奇譚 ~封印された妖を逃がした陰陽の巫女姫、追いかけた隣大陸で仮面王子に恋しました~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
146 / 159

第145話 姉妹の圧力に屈する

しおりを挟む
 アイリーンを除く家族が集まった部屋で、父セイランは御簾を巻き上げて顔を見せた。その表情は苦悶に満ちている。何が起きたのか、不安に駆られる二人の皇女達を長男であるシンが気遣う。

「父上、突然集めた理由は……」

「何が起きたのですか」

 重々しく告げられた内容に、彼と彼女らは愕然とした。

「可愛い末姫に婚約の申し入れがあった」

「なんですって?!」

「冗談じゃないわ。そこらの男にやれないわよ」

 アオイとヒスイが叫ぶ中、シンだけは冷静だった。というより、冷静さを保とうとしている。彼はもう少し先を読んでいた。父が苦悶の表情を浮かべて相談する相手、簡単に断れない理由があるはず。

 国内の貴族や公家ではないだろう。となれば、隣国である華国か? いや、あの国に年頃の王子はいなかった。ならば……まさかの隣大陸では?

「父上、相手は誰ですか」

 はっとした様子で静まる姉妹は、父の手に握られた手紙を睨む。封筒と便箋をまとめて握った手から、情報を探ろうとする。みたことがない紙は、交易がある国が相手ではないと示していた。

 薄い緑を帯びた紙を、セイランがさらに握りつぶす。血管が浮くほど、力を込めて。

「……フルール大陸の第二王子だ」

 長女アオイは、すぐにピンときた。アイリーンが一緒に遊び、戦い、親しく触れ合う金髪碧眼の王子様だ。あの子なら、第二王子だから婿に引き入れることが可能だわ。頭の中で算盤を弾く。

 少しばかり思い出すのに時間がかかったのは、次女ヒスイだった。金髪の魔法を使える、あの子か。思い出しながら、アイリーンが仲良く呼び捨てにしていたっけと納得する。逆に、父がなぜ反対するのか不思議だった。

「それは許せませんね」

 自分の婚約相手でもないのに、一言で否定する長男シンが父に同調する。別にフルール大陸と交易を始めなくても、たいした実害はない。この際、国交断絶でもいいか。

 男性陣の過保護さと、過干渉ぶりに二人の姉達は顔を見合わせた。これは私達が一肌脱がないと、縁談が潰されてしまう。可愛いアイリーンを泣かせるなら、家族でも敵だわ。今までさほど仲が良くなかった姉妹は、ここで驚くほど意気投合した。

 目配せで頷き合い、帝と皇太子を敵に回す覚悟を確認する。

「お父様、お兄様、もしアイリーンの意見を聞かずに話を進めたら……覚悟なさい」

 母親譲りのきつい口調で、ヒスイが釘を刺す。その釘の上から、さらに太い杭をアオイが打ち込んだ。

「縁談を無理やり潰そうものなら、倭国が地図から消えますわ」

 クーデターを起こしてでも、阻止する。女性二人の恐ろしい発言に、シンは苦虫を噛み潰した顔で目を逸らした。勢いを削がれたセイランは、溜め息を吐く。この場に、姉妹を呼んだのは失敗だったか。

「母親そっくりだぞ」

「「それで結構」」

 一番の嫌味を、姉妹はするりとかわした。可愛い妹の幸せのためなら、多少の泥は被りましょう。シンはうなだれ、降参だと手を挙げた。諦めきれない父セイランは、そっぽを向いて逃げる。

 勝敗が決するのは、時間の問題だった。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界で世界樹の精霊と呼ばれてます

空色蜻蛉
ファンタジー
普通の高校生の樹(いつき)は、勇者召喚された友人達に巻き込まれ、異世界へ。 勇者ではない一般人の樹は元の世界に返してくれと訴えるが。 事態は段々怪しい雲行きとなっていく。 実は、樹には自分自身も知らない秘密があった。 異世界の中心である世界樹、その世界樹を守護する、最高位の八枚の翅を持つ精霊だという秘密が。 【重要なお知らせ】 ※書籍2018/6/25発売。書籍化記念に第三部<過去編>を掲載しました。 ※本編第一部・第二部、2017年10月8日に完結済み。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

まったく知らない世界に転生したようです

吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし? まったく知らない世界に転生したようです。 何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?! 頼れるのは己のみ、みたいです……? ※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。 私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。 111話までは毎日更新。 それ以降は毎週金曜日20時に更新します。 カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

【完結】魔術師なのはヒミツで薬師になりました

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 ティモシーは、魔術師の少年だった。人には知られてはいけないヒミツを隠し、薬師(くすし)の国と名高いエクランド国で薬師になる試験を受けるも、それは年に一度の王宮専属薬師になる試験だった。本当は普通の試験でよかったのだが、見事に合格を果たす。見た目が美少女のティモシーは、トラブルに合うもまだ平穏な方だった。魔術師の組織の影がちらつき、彼は次第に大きな運命に飲み込まれていく……。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...