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第143話 王妃様は根回しでお忙しい
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王侯貴族の付き合いで大事なのは、根回しだ。どんな立派な法案でも、提出前に味方を作ることを忘れれば潰される。面倒臭いと顔を顰めるなかれ。根回し程度で通るなら、その方が楽なのだから。
「というわけなの。是非とも協力してほしいわ」
「もちろんよ」
第一王子を産んだ側妃と、第二王子を産んだ正妃。一般的には争い、我が子を即位させようと画策する間柄だった。ただ、この二人に関しては適用外だ。元から仲のいい二人は、夫に関しても、嫉妬で醜く取り合うことはなかった。
王妃自身が手続きをして、側妃を決めた経緯もある。そんな二人が手を組めば、国王に太刀打ちはできなかった。特に反対する内容でもない。
第一王子アンリがようやく、父と呼んでくれるようになった。王太子に指名した長男は、立派に役目を果たしている。弟であるルイは、王位争いに担がれるのは御免だとばかり。病弱王子の噂を流して距離を置いた。
出来すぎた息子を二人も持ち、国王は満足している。たとえ王妃の尻に敷かれようと、それが家庭内の平和をもたらし、国内を安定させるなら受け入れよう。
「あなた、聞いてますの?」
執務室へ飛び込んだ妻二人に詰め寄られ、国王は頷いた。
「聞いていたとも。ルイに好きな子ができた。その子が先日の倭国の姫君なのだろう?」
「ええ。何としても結ばれてほしいの。お分かりいただけるかしら」
好奇心旺盛な王妃が、息子の恋愛相手を放置して離れた理由は、ここにある。国王と側妃、王太子への根回しだった。この国は王家の力が強い。同じ大陸に複数の国家がないため、すべての権力が集中していた。
国内の女性であれば、どこの家の令嬢も取り込める。だが他国、それも隣大陸となれば簡単にはいかなかった。事前に王家が団結し、貴族に手を回して反対意見を潰し、隣大陸へ正式なお伺いを立てる必要がある。
「わかっている。ルイとよく相談して決めるように」
王として許可する。言い切って、王妃が満足げに微笑むのを確認した。これで書類に目を通しても叱られない。以前に話の途中で署名したら、頬に跡が付く平手をもらった。数日ほど食事のたびに痛んだ傷は、いまでも記憶に刻まれている。
妻の発言は、重要な決裁書類より優先されるのだ。国王の対応に満足したのか、王妃は側妃と連れ立って出て行った。あのまま王太子の執務室へ行くのだろう。がんばれ、アンリ。息子に陰ながら応援を送り、急いで遅れた書類に目を通す。
少しして、手を止めた国王は眉間を指で押さえた。集中しすぎて疲れた目を休めるため、窓の外へ視線を向ける。鮮やかな緑と晴れ渡る青、それらを見ながら大きく深呼吸した。椅子から立ち上がり、もう一度深呼吸し直す。
「ルイの婚約、か。あの子もそんな歳になったんだな」
なんでも器用にこなし、魔力量も多く魔法を得意とした。いつからか、貴族の心無い唆しに反発するように病弱を装う。大好きだった剣術も隠れて習い、行事は欠席が増えた。すべて長男アンリに王位を譲りたい弟の気持ちだ。
幸いなことに二人の仲は拗れず、ルイはアンリによく懐いた。聡すぎて可哀想な子だったが、王妃はそれでよいと笑う。実際、すべてが丸く収まろうとしていた。
「恋が叶うよう、後押ししてやるのが親の最後の役割か」
それもまた寂しい。王は一人の父親として、息子たちの幸せを祈った。
「というわけなの。是非とも協力してほしいわ」
「もちろんよ」
第一王子を産んだ側妃と、第二王子を産んだ正妃。一般的には争い、我が子を即位させようと画策する間柄だった。ただ、この二人に関しては適用外だ。元から仲のいい二人は、夫に関しても、嫉妬で醜く取り合うことはなかった。
王妃自身が手続きをして、側妃を決めた経緯もある。そんな二人が手を組めば、国王に太刀打ちはできなかった。特に反対する内容でもない。
第一王子アンリがようやく、父と呼んでくれるようになった。王太子に指名した長男は、立派に役目を果たしている。弟であるルイは、王位争いに担がれるのは御免だとばかり。病弱王子の噂を流して距離を置いた。
出来すぎた息子を二人も持ち、国王は満足している。たとえ王妃の尻に敷かれようと、それが家庭内の平和をもたらし、国内を安定させるなら受け入れよう。
「あなた、聞いてますの?」
執務室へ飛び込んだ妻二人に詰め寄られ、国王は頷いた。
「聞いていたとも。ルイに好きな子ができた。その子が先日の倭国の姫君なのだろう?」
「ええ。何としても結ばれてほしいの。お分かりいただけるかしら」
好奇心旺盛な王妃が、息子の恋愛相手を放置して離れた理由は、ここにある。国王と側妃、王太子への根回しだった。この国は王家の力が強い。同じ大陸に複数の国家がないため、すべての権力が集中していた。
国内の女性であれば、どこの家の令嬢も取り込める。だが他国、それも隣大陸となれば簡単にはいかなかった。事前に王家が団結し、貴族に手を回して反対意見を潰し、隣大陸へ正式なお伺いを立てる必要がある。
「わかっている。ルイとよく相談して決めるように」
王として許可する。言い切って、王妃が満足げに微笑むのを確認した。これで書類に目を通しても叱られない。以前に話の途中で署名したら、頬に跡が付く平手をもらった。数日ほど食事のたびに痛んだ傷は、いまでも記憶に刻まれている。
妻の発言は、重要な決裁書類より優先されるのだ。国王の対応に満足したのか、王妃は側妃と連れ立って出て行った。あのまま王太子の執務室へ行くのだろう。がんばれ、アンリ。息子に陰ながら応援を送り、急いで遅れた書類に目を通す。
少しして、手を止めた国王は眉間を指で押さえた。集中しすぎて疲れた目を休めるため、窓の外へ視線を向ける。鮮やかな緑と晴れ渡る青、それらを見ながら大きく深呼吸した。椅子から立ち上がり、もう一度深呼吸し直す。
「ルイの婚約、か。あの子もそんな歳になったんだな」
なんでも器用にこなし、魔力量も多く魔法を得意とした。いつからか、貴族の心無い唆しに反発するように病弱を装う。大好きだった剣術も隠れて習い、行事は欠席が増えた。すべて長男アンリに王位を譲りたい弟の気持ちだ。
幸いなことに二人の仲は拗れず、ルイはアンリによく懐いた。聡すぎて可哀想な子だったが、王妃はそれでよいと笑う。実際、すべてが丸く収まろうとしていた。
「恋が叶うよう、後押ししてやるのが親の最後の役割か」
それもまた寂しい。王は一人の父親として、息子たちの幸せを祈った。
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