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第142話 また戻ってこられるの?
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ずっと私室にいるわけにもいかず、ルイは身支度を整えて客間に移動した。アイリーンは出されたお菓子に目を輝かせ、ココと分け合って食べる。勝手にテーブルに陣取るドラコニクスは、頬が膨らむほど詰め込んでいた。
「もう結婚したんだ」
「ええ。神前式なんだけど、神様と古代竜だから一瞬なの」
東開大陸で、白蛇神のミミと竜のドラコニクスの婚礼は執り行われたらしい。いまだに雌雄が逆なのでは? と疑うルイだが、妻がドラゴンで間違いない。断言された。他の神々の追認を経て、正式に夫婦となっていた。
「結婚したらすぐ卵が産まれるのか?」
「いや。数十年のうちには身籠ると思うぞ」
先の長い話に「ふーん」と返しかけて、ルイは顔を引き攣らせた。名付け親になるまで、生きていられるだろうか。
「寿命の問題があるんだけど」
頼みと言われて引き受けたが、まさか卵が腹に宿るまで数十年とは。神々の時間は人の身には長すぎる。丁寧に説明して、名付け親になる頃に墓の下である可能性を告げた。
「ふむ、ならば狐殿に任せてもよい」
ドラコニクスが譲歩した。ココは満更でもないようで、引き受けてあげるよ、と頬を緩める。これでほぼ決まりだった。ドラコニクスは膨大な魔力を使用して、常に小型化する。少なくともビュシェルベルジェール王家が続く限り、巨大化しないと約束した。
もちろん例外はある。身の危険を感じたり、攻撃されたりした場合は除く。さすがに自己防衛まで禁じるのは可哀想だった。未来の人間が何かしでかす可能性も考慮するべきだ。
「ねぇ、ルイは戻ってくるの?」
単語をいくつも省いて、直球で尋ねる。東開大陸にある倭国へ、また留学するのか。軽い口調で尋ねたが、アイリーンは緊張していた。もし二度と来ないと言われたら、悲しい。こうやって陰陽術で渡れるけれど、結ばれる可能性はなかった。
きっと綺麗なお嫁さんをもらって、私のことは忘れるだろう。ちょっと俯いたアイリーンに、ルイは迷いながら言葉を選んだ。
「俺はもう一度倭国へ渡りたいと思ってる。次期国王は兄上がいるし、婚約相手も決まった。兄上に子供ができたら、俺は継承権を放棄する」
このまま魔法に強い第二王子がいたら、兄上の治世の邪魔になるだけだ。王位継承権を放棄しても、王族籍は残る。それでいい、本気でルイはそう考えていた。
「じゃ、じゃあ……また倭国に来るのね?」
「そのつもりだ」
アイリーンの機嫌が良くなったのを見て、ルイは期待を膨らませる。王族として、倭国の姫を娶る未来があるかもしれない。すぐに母上に相談しよう。こういった事例で、父上は当てにならなかった。
側妃を娶る際も、なんだかんだ手続きをしたのは母上だ。国王である父に話しても「王妃に尋ねる」と言われるのがオチだった。王妃の権限がとにかく強いのだ。
「ルイ、楽しそうね」
「ああ、俺は諦めないから応援してくれ」
よくわからないけれど、応援するわ。神々に愛されるアイリーンは、目一杯の祈りを捧げた。他国で祈った成果は、すぐに現れるだろう。
「もう結婚したんだ」
「ええ。神前式なんだけど、神様と古代竜だから一瞬なの」
東開大陸で、白蛇神のミミと竜のドラコニクスの婚礼は執り行われたらしい。いまだに雌雄が逆なのでは? と疑うルイだが、妻がドラゴンで間違いない。断言された。他の神々の追認を経て、正式に夫婦となっていた。
「結婚したらすぐ卵が産まれるのか?」
「いや。数十年のうちには身籠ると思うぞ」
先の長い話に「ふーん」と返しかけて、ルイは顔を引き攣らせた。名付け親になるまで、生きていられるだろうか。
「寿命の問題があるんだけど」
頼みと言われて引き受けたが、まさか卵が腹に宿るまで数十年とは。神々の時間は人の身には長すぎる。丁寧に説明して、名付け親になる頃に墓の下である可能性を告げた。
「ふむ、ならば狐殿に任せてもよい」
ドラコニクスが譲歩した。ココは満更でもないようで、引き受けてあげるよ、と頬を緩める。これでほぼ決まりだった。ドラコニクスは膨大な魔力を使用して、常に小型化する。少なくともビュシェルベルジェール王家が続く限り、巨大化しないと約束した。
もちろん例外はある。身の危険を感じたり、攻撃されたりした場合は除く。さすがに自己防衛まで禁じるのは可哀想だった。未来の人間が何かしでかす可能性も考慮するべきだ。
「ねぇ、ルイは戻ってくるの?」
単語をいくつも省いて、直球で尋ねる。東開大陸にある倭国へ、また留学するのか。軽い口調で尋ねたが、アイリーンは緊張していた。もし二度と来ないと言われたら、悲しい。こうやって陰陽術で渡れるけれど、結ばれる可能性はなかった。
きっと綺麗なお嫁さんをもらって、私のことは忘れるだろう。ちょっと俯いたアイリーンに、ルイは迷いながら言葉を選んだ。
「俺はもう一度倭国へ渡りたいと思ってる。次期国王は兄上がいるし、婚約相手も決まった。兄上に子供ができたら、俺は継承権を放棄する」
このまま魔法に強い第二王子がいたら、兄上の治世の邪魔になるだけだ。王位継承権を放棄しても、王族籍は残る。それでいい、本気でルイはそう考えていた。
「じゃ、じゃあ……また倭国に来るのね?」
「そのつもりだ」
アイリーンの機嫌が良くなったのを見て、ルイは期待を膨らませる。王族として、倭国の姫を娶る未来があるかもしれない。すぐに母上に相談しよう。こういった事例で、父上は当てにならなかった。
側妃を娶る際も、なんだかんだ手続きをしたのは母上だ。国王である父に話しても「王妃に尋ねる」と言われるのがオチだった。王妃の権限がとにかく強いのだ。
「ルイ、楽しそうね」
「ああ、俺は諦めないから応援してくれ」
よくわからないけれど、応援するわ。神々に愛されるアイリーンは、目一杯の祈りを捧げた。他国で祈った成果は、すぐに現れるだろう。
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