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第137話 問題は父上に押し付けよう
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「なるほど、それで無断外泊になった、と」
「シン兄様の言い方は嫌だわ。気づいたら夜が明けていたの」
ふーん、そう。シンの笑顔が怖いルイは、説明を終えると黙った。だがアイリーンは怖いもの知らずだ。堂々と食ってかかる。蛮勇と表現すべきか、言い負かされる未来しか見えなかった。
「私の話を覚えている?」
「お昼に出発するから、それまでに戻ってきて。でしょ?」
「ちょっと違うかな」
まだ続きそうなやり取りに、顔を引き攣らせたルイは後ろに下がろうとした。逃げようとしたのだが、見咎められて大人しく項垂れる。反省していますと態度で示すルイに、シンの嫌味が炸裂することはなかった。
「不可抗力なのよ! 理不尽なシン兄様なんて、大嫌い!!」
小言にキレたアイリーンが巨大爆弾を投下し、シンが固まった。直撃した攻撃の威力は凄まじかったらしく、青ざめている。さすがにルイも同情してしまった。
可愛がっている妹が心配だから、耳に痛い注意をする。何かあってからでは遅い。起きる前に注意して危険を避けられるなら、と思うのは……親心だろう。まあ、実際は兄なのだが。
「リン、言い過ぎじゃないか?」
ショックで無言になったシンに、アイリーンも悪いなと思い始めたところだ。指摘されて素直になれるのが、ある意味才能だろう。
「ごめんなさい、シン兄様。心配してくれたのは嬉しいの。でも同じ話を何度もするから、つい」
反省しているのか、反論しているのか。ぎりぎりの謝罪だったが、シンは再起動した。無事戻った彼は、しつこかったねと自らも謝罪する。ほっとしたルイに、目配せで礼をする余裕も生まれた。
一件落着となり、周囲で見守る侍従や護衛の表情も和らぐ。そう、この屋敷はさほど広くない上、普段は使われていない。掃除された部屋は少なかった。これから帰還する予定だったことも手伝い、自然と同じ部屋に集まっていたのだ。
「皆もごめんね」
心配させちゃった。根は素直なアイリーンは、きちんと頭を下げた。畏れ多いと慌てる侍従達ににっこり笑う。たぶん、また同じことをする。確信を持ったルイとシンは目配せし合った。緊急時はどちらかがストッパーになるしかない。
「じゃあ、帰りましょう。兄様」
また明日とルイに手を振る姿に、シンは慌てた。
「明日も来るのかい?」
「だって、ドラゴン預かっちゃってるし」
言われて、彼女の肩にしがみ付く小さなドラゴンに目を向ける。フルール大陸の主を、隣の東開大陸へ持ち帰っていいのか? 明日返しにくるとか、そういう問題じゃないと思うが。
「置いて行きなさい」
「ダメよ、いろいろ約束しちゃったもの」
勝手に約束を量産したと打ち明ける妹に、また文句が溢れてくる。喉に閊えるあれこれを吐き出したいが、シンは呑み込んだ。胃がキリキリと痛い。
『安心いたせ、いざとなれば我が送り返すゆえ』
白蛇神の約束に、シンは胃を押さえながら頷いた。こうなったらドラゴンは父上に押し付けてやる。陰陽の転移陣にミミが霊力を注ぎ、床がほんのり光った。飛び乗る倭国一行とドラゴンを、ルイは一礼して見送る。
ここからは、彼自身の修羅場だった。
「シン兄様の言い方は嫌だわ。気づいたら夜が明けていたの」
ふーん、そう。シンの笑顔が怖いルイは、説明を終えると黙った。だがアイリーンは怖いもの知らずだ。堂々と食ってかかる。蛮勇と表現すべきか、言い負かされる未来しか見えなかった。
「私の話を覚えている?」
「お昼に出発するから、それまでに戻ってきて。でしょ?」
「ちょっと違うかな」
まだ続きそうなやり取りに、顔を引き攣らせたルイは後ろに下がろうとした。逃げようとしたのだが、見咎められて大人しく項垂れる。反省していますと態度で示すルイに、シンの嫌味が炸裂することはなかった。
「不可抗力なのよ! 理不尽なシン兄様なんて、大嫌い!!」
小言にキレたアイリーンが巨大爆弾を投下し、シンが固まった。直撃した攻撃の威力は凄まじかったらしく、青ざめている。さすがにルイも同情してしまった。
可愛がっている妹が心配だから、耳に痛い注意をする。何かあってからでは遅い。起きる前に注意して危険を避けられるなら、と思うのは……親心だろう。まあ、実際は兄なのだが。
「リン、言い過ぎじゃないか?」
ショックで無言になったシンに、アイリーンも悪いなと思い始めたところだ。指摘されて素直になれるのが、ある意味才能だろう。
「ごめんなさい、シン兄様。心配してくれたのは嬉しいの。でも同じ話を何度もするから、つい」
反省しているのか、反論しているのか。ぎりぎりの謝罪だったが、シンは再起動した。無事戻った彼は、しつこかったねと自らも謝罪する。ほっとしたルイに、目配せで礼をする余裕も生まれた。
一件落着となり、周囲で見守る侍従や護衛の表情も和らぐ。そう、この屋敷はさほど広くない上、普段は使われていない。掃除された部屋は少なかった。これから帰還する予定だったことも手伝い、自然と同じ部屋に集まっていたのだ。
「皆もごめんね」
心配させちゃった。根は素直なアイリーンは、きちんと頭を下げた。畏れ多いと慌てる侍従達ににっこり笑う。たぶん、また同じことをする。確信を持ったルイとシンは目配せし合った。緊急時はどちらかがストッパーになるしかない。
「じゃあ、帰りましょう。兄様」
また明日とルイに手を振る姿に、シンは慌てた。
「明日も来るのかい?」
「だって、ドラゴン預かっちゃってるし」
言われて、彼女の肩にしがみ付く小さなドラゴンに目を向ける。フルール大陸の主を、隣の東開大陸へ持ち帰っていいのか? 明日返しにくるとか、そういう問題じゃないと思うが。
「置いて行きなさい」
「ダメよ、いろいろ約束しちゃったもの」
勝手に約束を量産したと打ち明ける妹に、また文句が溢れてくる。喉に閊えるあれこれを吐き出したいが、シンは呑み込んだ。胃がキリキリと痛い。
『安心いたせ、いざとなれば我が送り返すゆえ』
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ここからは、彼自身の修羅場だった。
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