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第136話 責任重大な二つ目の願い
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ドラゴンは大陸を沈める気はなくて、ミミの卵を産みたい。ミミは産ませてやってもよい、と譲歩中。ならば、ドラゴン退治はなくてもいいのでは? 結論を導き出したアイリーンに、ルイは「いいと思うよ」と答えるしかなかった。
勢い込んで追ってきたのに、見張った相手はただ欠伸をしただけ。寝返りを打っただけ、いびきをかいただけ。まったくもって悪気はないが、巨大化していたので大陸が揺れたり、地鳴りがしたりと騒動が大きくなった。
纏めるほどに、自分は何もしていないことが強調されて悲しい。ドラゴン退治の英雄として帰還し、カッコよく隣大陸の姫との縁談を申し出ようと思ったのに。
『我が魔力を受け継ぐものよ、そなたに二つ目の願いを託そう』
「俺?」
項垂れていたところに、思わぬ申し出があった。ドラコニクスの魔力を受け継いでいるのは、この場でルイだけだ。フルール大陸に生まれ、赤子の頃から魔力を浴びて育った王子は彼女の発言を待った。受けるにしても、断るにしても、内容が分からなければ判断できない。
『ふむ。我は卵を身籠って産む予定だが、その卵の名づけ親を頼みたい』
「……名づけって重要なんじゃ」
『その通り。立派な名を頼む』
ドラゴンの寿命を考えると、一生使う名前を決める役は重要だ。そんな頼み事は予想外で、ルイはアイリーンに助けを求める。視線で、止めてくれと要請するも……お転婆姫には通じなかった。
「すごい! 可愛い名前にしましょうね」
「いや……ドラゴンだし、雌雄がはっきりしないうちに決めるのは……」
もごもごと反論する羽目に陥る。その様子を見て、ココが大きく頷いた。
『リンに頼まないのは正しいよ。僕達の名前をみてごらんよ、ココ、ネネ、ミミだよ?』
『我も考えて選んでおる』
胸を張るちびドラゴンに、リンが頬を膨らませた。どういう意味よと怒るが、そのままの意味だとミミに言われ、ココに考えるまでもないでしょと切り捨てられる。これでもめげないところが、逞しい。
「ふーんだ、ルイに候補を伝えるくらいはいいわよね」
『……そこは止めぬ』
意味ありげな視線を向けられ、想いを見透かされているのか? とルイは顔を引きつらせる。何しろ隣国の神様やその同類と思われるドラゴン相手だ。リンへの想いはバレていると思って間違いない。
ふと気づけば、かなり時間が経っているような? アイリーンの指摘に、慌てて外へ出た。ミミの背に乗った二人と一匹、なぜかしがみ付いたもう一匹は空を見上げる。紫がかった紺色の空に、アイリーンは希望的観測を口にした。
「これって、日暮れ直後よね」
「予想を裏切って悪いが、明け方だと思う」
夜露も降りているようだ。ルイの冷静な判断に、アイリーンは頭を抱えた。お兄様はもう屋敷に戻ってるわよね。お昼までに帰ればいいはずだけど、無断外泊に当たるのかしら。今回は緊急事態だし、ちゃんと説明したら許され……てほしい。
「安心してくれ、俺も一緒に戻って説明する」
顔に全部出ているアイリーンの心配事を読み取り、ルイは苦笑いした。問題は解決したことだし、麓でヤキモキしている将軍以下、集まった騎士や兵士に引き上げを伝えよう。それから……父上達に説明して……。やることが山積みなのは、アイリーンとさほど変わらなかった。
勢い込んで追ってきたのに、見張った相手はただ欠伸をしただけ。寝返りを打っただけ、いびきをかいただけ。まったくもって悪気はないが、巨大化していたので大陸が揺れたり、地鳴りがしたりと騒動が大きくなった。
纏めるほどに、自分は何もしていないことが強調されて悲しい。ドラゴン退治の英雄として帰還し、カッコよく隣大陸の姫との縁談を申し出ようと思ったのに。
『我が魔力を受け継ぐものよ、そなたに二つ目の願いを託そう』
「俺?」
項垂れていたところに、思わぬ申し出があった。ドラコニクスの魔力を受け継いでいるのは、この場でルイだけだ。フルール大陸に生まれ、赤子の頃から魔力を浴びて育った王子は彼女の発言を待った。受けるにしても、断るにしても、内容が分からなければ判断できない。
『ふむ。我は卵を身籠って産む予定だが、その卵の名づけ親を頼みたい』
「……名づけって重要なんじゃ」
『その通り。立派な名を頼む』
ドラゴンの寿命を考えると、一生使う名前を決める役は重要だ。そんな頼み事は予想外で、ルイはアイリーンに助けを求める。視線で、止めてくれと要請するも……お転婆姫には通じなかった。
「すごい! 可愛い名前にしましょうね」
「いや……ドラゴンだし、雌雄がはっきりしないうちに決めるのは……」
もごもごと反論する羽目に陥る。その様子を見て、ココが大きく頷いた。
『リンに頼まないのは正しいよ。僕達の名前をみてごらんよ、ココ、ネネ、ミミだよ?』
『我も考えて選んでおる』
胸を張るちびドラゴンに、リンが頬を膨らませた。どういう意味よと怒るが、そのままの意味だとミミに言われ、ココに考えるまでもないでしょと切り捨てられる。これでもめげないところが、逞しい。
「ふーんだ、ルイに候補を伝えるくらいはいいわよね」
『……そこは止めぬ』
意味ありげな視線を向けられ、想いを見透かされているのか? とルイは顔を引きつらせる。何しろ隣国の神様やその同類と思われるドラゴン相手だ。リンへの想いはバレていると思って間違いない。
ふと気づけば、かなり時間が経っているような? アイリーンの指摘に、慌てて外へ出た。ミミの背に乗った二人と一匹、なぜかしがみ付いたもう一匹は空を見上げる。紫がかった紺色の空に、アイリーンは希望的観測を口にした。
「これって、日暮れ直後よね」
「予想を裏切って悪いが、明け方だと思う」
夜露も降りているようだ。ルイの冷静な判断に、アイリーンは頭を抱えた。お兄様はもう屋敷に戻ってるわよね。お昼までに帰ればいいはずだけど、無断外泊に当たるのかしら。今回は緊急事態だし、ちゃんと説明したら許され……てほしい。
「安心してくれ、俺も一緒に戻って説明する」
顔に全部出ているアイリーンの心配事を読み取り、ルイは苦笑いした。問題は解決したことだし、麓でヤキモキしている将軍以下、集まった騎士や兵士に引き上げを伝えよう。それから……父上達に説明して……。やることが山積みなのは、アイリーンとさほど変わらなかった。
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