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第125話 話が飛んで着地した先

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 倭国に戻るなり、迎えに出ていたキエに「ご馳走様」と風呂敷を返す。最後の一つである梅のおにぎりは、そっと胸元に隠した。アイリーンの胸元はやや余裕があるため、バレずにスルーされる。それもまた不満だが、指摘するほど単純でもなかった。

「おかえり……」

「シン兄様、お願いがあるの」

 無事戻ったことへ挨拶の言葉を述べたシンは、可愛がる末妹に詰め寄られて視線を彷徨わせた。凄く嫌な予感がする。なのに断れないだろうと予測し、諦めの息をついた。アイリーンの願いを跳ねのけるのは難しい。

「なんだい?」

「……私達、無視されているわね」

 ぼそっとヒスイが呟き、慌てて二人にもおかえりと微笑みかけた。姉妹といえど、差をつけると後が怖い。優先されたのがアイリーンなら、彼女らも本気で怒らない。冗談だと笑って許した。

「明日一緒にフルール大陸へ行くでしょ。だから、王家に挨拶したいの」

「うん?」

 首を傾げたシンの脳裏に浮かんだのは、ご両親への挨拶がしたいだなんて……本気なのか? 嫁ぐ気とか。こっそり呪ってやりたい。もげればいいのに。という黒い感情が中心だった。爽やかだが引き攣った笑顔の裏で、何とも恐ろしい兄である。

「ドラゴンが暴れて、ルイがピンチなのよ」

 アイリーンは説明を付け足すが、端的過ぎてまったく伝わらなかった。シンの頭の中では、ドラゴンに踏まれるルイの絵が出来上がる。

「説明は私に任せて、リンは体を休めなさい」

 アオイが説明役を買って出て、アイリーンは素直に姉に甘えた。しょんぼりと肩を落とす姿に、キエが寄り添う。優秀な侍女長に任せ、兄と姉二人は顔を突き合わせた。事情をかいつまんで説明し、今後の対策を話し合うのだ。

 夕食を挟んで、その後も続けられた話し合いの後……シンは一つの提案を手に父への面会を求めた。深夜まであれこれ相談し、提案を練り直し、準備が整えられる。末姫可愛さに国交樹立、という暴挙が決断された歴史的な一夜であった。





「シン兄様、本当?」

「ああ、国交を申し出ようと思う。今後は開かれた倭国を目指す予定だし、東開大陸で他国と交流しているのと同じだ。海を挟むが、同盟国は多い方がいいからね」

 政治的な話のような体裁を整えたが、実際のところは「アイリーンが泣くから」の一言で片付く。妹の為に帝の勅旨を得て、フルール大陸への使者に立つ。幸いにして繋ぎ役には、王家と取引のある大商人バローが使えた。

 今後のこともあるので、数人の役人と護衛も同行する。アイリーン自身も、姫として着飾る必要があった。なにしろ、倭国とビュシェルベルジェール王国の、公式初顔合わせになる。普段の和風ドレスでは失礼だろう。

「姫様、どうぞ」

「あら、キエ。こちらではないの?」

 キエの用意した巫女服と、アオイが持ってきた和服……しばらく見比べて、シンは和服を選んだ。というのも、普段着ない格好が見たかったらしい。

「いいけれどね、言ってくれたら着飾るのに」

 アイリーンは動きづらい和服に帯を巻いて、綺麗な髪飾りで整える。文句を言う口に、キエが飴を突っ込んだ。

「姫様が大人しく着飾ってくださったことなど、記憶にございません」

 だから、せめてもと巫女服を用意したのだ。ぴしゃりと言われ、アイリーンは飴を理由に口を噤んだ。
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