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第123話 私たち、不審者じゃない!

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 揺れる大地に驚くが、三人はさっと防御態勢を取った。蹲って頭を抱える。近くに机があれば、頭を突っ込んだだろう。この部屋は長椅子と木製クローゼットが据え付けられているだけ。頭を突っ込む場所がない三人は身を寄せ合った。

 東開大陸、とりわけ倭国は地震が多い。温泉や地熱などの恩恵もあるが、建物が木造なのも地震が理由だった。揺れを吸収して破損を防ぐ知恵だ。フルール大陸は石材を多用した建築物ばかりである。普段はあまり地揺れはないのだろう。

 安全を確認して身を起こしたアオイの言葉に、妹二人は頷いた。窓の外を見れば、人々が右往左往しているのがわかる。あの慌てようは、地震の経験が少ないことを示していた。

「揺れに比べて被害が少ない気がするわ」

 ヒスイが淡々と指摘する通り、石造りの建物が崩壊している場所はほぼない。揺れでずれた程度だった。崩れる危険性を考えれば、建物から出た方が安全だ。逃げ惑う人々の姿に、アイリーンが動いた。

「街へ行こうよ。何かできるかも」

『リン、いつも言ってるけど……君の思いつきは、だいたい騒動を大きくするんだよ』

 呆れ顔のココが膨らんだ尻尾を毛繕いしながら答える。その隣で、ネネは顔を隠す形で丸くなっていた。怖かったのだろう。ケロッとしているのがミミで、するすると移動を始めた。アイリーンが手を伸ばせば、肩まで上る。

『ドラゴンが目覚めたようだ。これはしばらく揺れるぞ』

 予言のように呟く白蛇神は、ちろちろと舌を覗かせた。それから嫌そうに付け加える。

『我はここで待つ。あやつと顔を合わせたくないのでな』

 あやつ? きょとんとした顔で首を傾げ、姉達を見るが知っているわけもない。全員で疑問符を浮かべる結果に終わった。神狐ココがようやく落ち着いた尻尾を振り、アイリーンに近づく。白蛇神が滑り落ちるのと交代で、肩に飛び乗った。

「助けに行ったらダメなの?」

『あのさ、僕らは不法入国者なんだけど』

「「「あっ」」」

 言われて三姉妹は気づいた。正規のルートを通って入国していないので、不法滞在だ。この状態でうっかり街に出て、警備の衛兵に捕まったら? 本国に連絡して開放してもらうまでに一カ月以上かかる。

「えっと、ルイを探すのはどうかな。彼なら災害現場にいそう」

 アイリーンが妥協案のように出した意見に、ヒスイは同意した。この国の第二王子が一緒なら、身分を証明してくれるはず。アオイは慎重派で、このまま屋敷に残る方がいいと考えた。

 陰陽術は魔法に近いが、もっと繊細で理が厳しい。この場を離れて戻れなければ、倭国に帰れない可能性があるのだ。状況が把握できるまで、動かない。またはルイと合流するまで、危険を考慮して留まるのも選択肢だと告げた。

 残酷なようだが、いまの彼女らは無力な異国の女性に過ぎない。陰陽術を使うことで、異端扱いされる危険もあった。街に大きな被害がないなら、ルイに伝令を送るだけにした方が……そう言われ、アイリーンは眉尻を下げた。

 自分だけならココを振り切って動くが、姉達を危険に晒すのは嫌だ。結局、様子を見ることになった。持ってきた風呂敷を広げ、軽食をとる。おにぎりを分け合い、最後に梅だけ残した。

 ルイに食べさせたいアイリーンの気持ちを知る二人は、わざと違う具を選ぶ。ココは用意されたお稲荷さんを齧り、隣で頬張ったネネは揺れを警戒して尻尾を丸めていた。
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