121 / 159
第120話 追いついたが足りない
しおりを挟む
皮肉なことにドラゴンを追いかけ距離が縮まるほどに、魔力が増幅して身体強化される。疲れも吹き飛ぶ強大な魔力の恩恵で、ルイは昼夜を問わず走った。
巨大な黒いドラゴンが地に足をつけたのは、王都の北にある大きな山脈だ。距離にして王都の大きさを三つほど並べたくらいだろうか。王都を端から端まで移動すれば、馬車でも一日かかると言われる。その三倍の距離を僅か一日半で駆け抜けた計算になる。
王都を横切る馬車が全速力で走れないことを考慮しても、人並外れた速さだった。ルイは山を見上げ、溜め息を吐く。この山の中腹より少し上に着陸したドラゴンは、ゆったりと羽を広げて休んでいた。直線距離は短いが、山登りしなければ辿り着けない。
咄嗟に門の前から走り出したため、食料も装備も用意がなかった。多少の携帯食はあるが……見上げる山の上は寒そうだ。一度戻るべきか、だがその間に飛んでいってしまったら? 考えるほどに動けなくなる。
「応援を呼ぶか」
病弱王子で通すには、単独行動が一番だ。しかし、国の一大事とあれば仕方ない。王家の目であり耳である諜報員は、田舎の村や集落にも忍んでいた。彼らに連絡を飛ばし、応援を頼むしかない。
どっかりと地面に腰を下ろし、ドラゴンを睨みつけた。倭国で薄れた魔力が嘘のようだ。体中を質のいい魔力が走り、どんな魔法でも使えそうな気がした。実際、魔法で通信鳥を作って飛ばした感じは、ほぼ魔力の消費を感じない。
「恩恵であり、脅威か」
魔法を使う大陸の民にとって、地下で眠るドラゴンは魔力の源だ。本人の持つ器に自動的に魔力を供給する存在だった。このまま眠っていたら、恩恵だけを享受できる。だが、目覚めてしまった。
ドラゴンの脅威は、初代国王の手記に残されている。食事で大地の魔力をすべて吸い上げて枯らし、くしゃみ一つで中核都市が吹き飛んだ。習った時は大袈裟だと思ったが、事実だったようだ。起き上がったドラゴンが這い出るだけで、大陸に巨大な地揺れが発生した。
倭国では地震と呼ぶらしい。その揺れは大きいが、不思議なことに建物の損壊は少なかった。お陰で、被害者の報告も少ないはずだ。あれこれ考えながら、腹が空かないことに気づく。
「魔力ってのは、本当に奇妙な力だ」
満たされているから、体は疲れや空腹を訴えない。それでも水筒を取り出して一口飲めば、途端に体の感覚が変わった。空腹が蘇り、ただ鈍くなっていただけと気付かされる。携帯食の硬いパンを引っ張り出し、口に押し込んだ。
顎が疲れるパンを噛み締め、送った通信鳥が戻るまで動けない。応援がすぐに到着することを祈りながら、ルイは口の中のパンを飲み込んだ。再び水を喉に流し、無理やり目を閉じる。気分は高揚していた。眠りたくないが、いま休まないと動けなくなる。
何度も深呼吸し、ゆっくりと気持ちを落ち着けた。そこから眠ったのは数分か。はっと目を開いたルイの前に、通信鳥が戻っていた。見れば、空の色が変わり夜を示している。思ったより眠れたようだ。
山の中腹を見上げれば、まだドラゴンはその場に留まっていた。
巨大な黒いドラゴンが地に足をつけたのは、王都の北にある大きな山脈だ。距離にして王都の大きさを三つほど並べたくらいだろうか。王都を端から端まで移動すれば、馬車でも一日かかると言われる。その三倍の距離を僅か一日半で駆け抜けた計算になる。
王都を横切る馬車が全速力で走れないことを考慮しても、人並外れた速さだった。ルイは山を見上げ、溜め息を吐く。この山の中腹より少し上に着陸したドラゴンは、ゆったりと羽を広げて休んでいた。直線距離は短いが、山登りしなければ辿り着けない。
咄嗟に門の前から走り出したため、食料も装備も用意がなかった。多少の携帯食はあるが……見上げる山の上は寒そうだ。一度戻るべきか、だがその間に飛んでいってしまったら? 考えるほどに動けなくなる。
「応援を呼ぶか」
病弱王子で通すには、単独行動が一番だ。しかし、国の一大事とあれば仕方ない。王家の目であり耳である諜報員は、田舎の村や集落にも忍んでいた。彼らに連絡を飛ばし、応援を頼むしかない。
どっかりと地面に腰を下ろし、ドラゴンを睨みつけた。倭国で薄れた魔力が嘘のようだ。体中を質のいい魔力が走り、どんな魔法でも使えそうな気がした。実際、魔法で通信鳥を作って飛ばした感じは、ほぼ魔力の消費を感じない。
「恩恵であり、脅威か」
魔法を使う大陸の民にとって、地下で眠るドラゴンは魔力の源だ。本人の持つ器に自動的に魔力を供給する存在だった。このまま眠っていたら、恩恵だけを享受できる。だが、目覚めてしまった。
ドラゴンの脅威は、初代国王の手記に残されている。食事で大地の魔力をすべて吸い上げて枯らし、くしゃみ一つで中核都市が吹き飛んだ。習った時は大袈裟だと思ったが、事実だったようだ。起き上がったドラゴンが這い出るだけで、大陸に巨大な地揺れが発生した。
倭国では地震と呼ぶらしい。その揺れは大きいが、不思議なことに建物の損壊は少なかった。お陰で、被害者の報告も少ないはずだ。あれこれ考えながら、腹が空かないことに気づく。
「魔力ってのは、本当に奇妙な力だ」
満たされているから、体は疲れや空腹を訴えない。それでも水筒を取り出して一口飲めば、途端に体の感覚が変わった。空腹が蘇り、ただ鈍くなっていただけと気付かされる。携帯食の硬いパンを引っ張り出し、口に押し込んだ。
顎が疲れるパンを噛み締め、送った通信鳥が戻るまで動けない。応援がすぐに到着することを祈りながら、ルイは口の中のパンを飲み込んだ。再び水を喉に流し、無理やり目を閉じる。気分は高揚していた。眠りたくないが、いま休まないと動けなくなる。
何度も深呼吸し、ゆっくりと気持ちを落ち着けた。そこから眠ったのは数分か。はっと目を開いたルイの前に、通信鳥が戻っていた。見れば、空の色が変わり夜を示している。思ったより眠れたようだ。
山の中腹を見上げれば、まだドラゴンはその場に留まっていた。
77
お気に入りに追加
85
あなたにおすすめの小説
拝啓、私を追い出した皆様 いかがお過ごしですか?私はとても幸せです。
香木あかり
恋愛
拝啓、懐かしのお父様、お母様、妹のアニー
私を追い出してから、一年が経ちましたね。いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。
治癒の能力を持つローザは、家業に全く役に立たないという理由で家族に疎まれていた。妹アニーの占いで、ローザを追い出せば家業が上手くいくという結果が出たため、家族に家から追い出されてしまう。
隣国で暮らし始めたローザは、実家の商売敵であるフランツの病気を治癒し、それがきっかけで結婚する。フランツに溺愛されながら幸せに暮らすローザは、実家にある手紙を送るのだった。
※複数サイトにて掲載中です
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
私の手からこぼれ落ちるもの
アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。
優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。
でもそれは偽りだった。
お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。
お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。
心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。
私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。
こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら…
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。
❈ ざまぁはありません。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
別れてくれない夫は、私を愛していない
abang
恋愛
「私と別れて下さい」
「嫌だ、君と別れる気はない」
誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで……
彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。
「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」
「セレンが熱が出たと……」
そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは?
ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。
その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。
「あなた、お願いだから別れて頂戴」
「絶対に、別れない」
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる