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第119話 王都に黒いドラゴン出現
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アイリーンが姿を消した直後、大きな揺れがあった。一部の壁や屋根が崩れたものの、不思議なことに倒壊した建物はない。驚いて外へ飛び出した人々の目に映ったのは、黒い翼を広げて舞うドラゴンだった。
「っ! ドラゴンだ!」
叫んだ声に釣られ、多くの人が目撃する。ほぼ同時刻、王城の門までたどり着いたルイも空を仰いでいた。羽ばたくように動く翼は薄く、大量の魔力を撒き散らしながら黒い影は王都の上を飛ぶ。鳥のように己の翼や風を利用せず、魔力のみで巨体を浮かせるドラゴンが移動を始めた。
「母上達の無事を確認してくれ。俺はこのまま追う」
馬に乗って移動すべきか迷い、途中で戦うことになれば巻き込むと考えた。魔力を満たした体で走り出す。倭国では魔力がほぼ消えていたが、フルール大陸ならば魔法が使えた。
体に纏わせた魔力で補助しながら、全力で屋根の上を走る。家と家の間を軽く飛び越え、王都の外までたどり着いた。上空の大きな影は、ゆったりと移動している。遅く感じるものの、巨大過ぎて距離感が掴めなかった。
ルイの魔力の源はドラゴンだ。この大陸の民が使う魔法のほとんどは、ドラゴンの魔力を糧に発動する。大陸中に広がる魔力を、己の体内にある器に受け取って変換していた。そのためドラゴンに近づくほど、ルイの魔力は満たされていく。
疲れさえ魔力が補い、体力を下支えした。そのまま追いかけるルイに、慌てたのは王城の家族だ。他大陸から戻るのに半月はかかると計算していたのに、即日帰ってきた。新しい魔法でも開発したのかと思えば、そのままドラゴンを追いかけて消えてしまう。
受けた報告に、ドラゴンの復活と移動も含まれていただけに……王妃は額を押さえて大きな溜め息を吐いた。慌てた側妃が駆け寄り、王妃を支える。
「私はあの子の育て方を間違えたわ。せめて帰城の挨拶くらいしていけばいいのに」
「仕方ありませんわ。急いでお戻りいただいたんですもの。今は見守りましょう」
大らかな側妃の言葉に、王妃は申し訳ないと詫びを口にした。仲のいい二人の隣で、窓の外へ視線を送る国王は苦笑いを浮かべる。
元からやんちゃな子だが、柵を捨てればここまで羽ばたくのか、と。驚きが先に立っていた。兄アンリを立てて身を引いた第二王子の肩書きは、あの子にとって何の価値もないのだろう。
「仕方あるまい、あの子はドラゴンの恩恵を一番強く受けた子なのだから」
大地の揺れは鎮まり、空を覆っていた影も消えた。山脈が連なる北側へ飛んでいったドラゴンは、何をきっかけに目覚めたのか。そんな思いを馳せながら、国王は窓を閉めた。
「ルイなら無事に戻るだろう。先にバローの話を聞こうじゃないか」
大商人バローが面会を求めていると知らせる侍従に、許可を与えて客間へ移動する。疲れた様子の王妃を支える側妃も、彼の後に従った。
バローが持ち帰った情報に驚いて絶句するのは、お茶を飲んだ直後。異国の姫との恋愛話に妃達は目を輝かせ、王は厄介ごとの予感に肩を落とした。
「っ! ドラゴンだ!」
叫んだ声に釣られ、多くの人が目撃する。ほぼ同時刻、王城の門までたどり着いたルイも空を仰いでいた。羽ばたくように動く翼は薄く、大量の魔力を撒き散らしながら黒い影は王都の上を飛ぶ。鳥のように己の翼や風を利用せず、魔力のみで巨体を浮かせるドラゴンが移動を始めた。
「母上達の無事を確認してくれ。俺はこのまま追う」
馬に乗って移動すべきか迷い、途中で戦うことになれば巻き込むと考えた。魔力を満たした体で走り出す。倭国では魔力がほぼ消えていたが、フルール大陸ならば魔法が使えた。
体に纏わせた魔力で補助しながら、全力で屋根の上を走る。家と家の間を軽く飛び越え、王都の外までたどり着いた。上空の大きな影は、ゆったりと移動している。遅く感じるものの、巨大過ぎて距離感が掴めなかった。
ルイの魔力の源はドラゴンだ。この大陸の民が使う魔法のほとんどは、ドラゴンの魔力を糧に発動する。大陸中に広がる魔力を、己の体内にある器に受け取って変換していた。そのためドラゴンに近づくほど、ルイの魔力は満たされていく。
疲れさえ魔力が補い、体力を下支えした。そのまま追いかけるルイに、慌てたのは王城の家族だ。他大陸から戻るのに半月はかかると計算していたのに、即日帰ってきた。新しい魔法でも開発したのかと思えば、そのままドラゴンを追いかけて消えてしまう。
受けた報告に、ドラゴンの復活と移動も含まれていただけに……王妃は額を押さえて大きな溜め息を吐いた。慌てた側妃が駆け寄り、王妃を支える。
「私はあの子の育て方を間違えたわ。せめて帰城の挨拶くらいしていけばいいのに」
「仕方ありませんわ。急いでお戻りいただいたんですもの。今は見守りましょう」
大らかな側妃の言葉に、王妃は申し訳ないと詫びを口にした。仲のいい二人の隣で、窓の外へ視線を送る国王は苦笑いを浮かべる。
元からやんちゃな子だが、柵を捨てればここまで羽ばたくのか、と。驚きが先に立っていた。兄アンリを立てて身を引いた第二王子の肩書きは、あの子にとって何の価値もないのだろう。
「仕方あるまい、あの子はドラゴンの恩恵を一番強く受けた子なのだから」
大地の揺れは鎮まり、空を覆っていた影も消えた。山脈が連なる北側へ飛んでいったドラゴンは、何をきっかけに目覚めたのか。そんな思いを馳せながら、国王は窓を閉めた。
「ルイなら無事に戻るだろう。先にバローの話を聞こうじゃないか」
大商人バローが面会を求めていると知らせる侍従に、許可を与えて客間へ移動する。疲れた様子の王妃を支える側妃も、彼の後に従った。
バローが持ち帰った情報に驚いて絶句するのは、お茶を飲んだ直後。異国の姫との恋愛話に妃達は目を輝かせ、王は厄介ごとの予感に肩を落とした。
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