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第117話 重い空気の漂う帰郷
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準備を終えて、ルイと手を繋ぐ。ルイは反対の手でバローを掴んだ。これで完璧なはず。荷物はすべて触れているよう頼んだ。足元に置いた荷物は、そのまま倭国に残ってしまう。
注意事項を聞いて、バローはすべての荷物に紐を付けて握る。これなら問題ないわね。左手を繋いだアイリーンは、札を掲げた。右手の札に霊力を込め、一緒に行くココとネネが足に身を寄せる。
皇太子シンと侍女長キエが見守る舞台は一瞬光り、彼らは姿を消した。シンは大きく溜め息を吐く。皇族が受け継いだ、巫女の貴重な陰陽術が、まさかただの移動手段に落ちるとは。ご先祖様に申し訳が立たない、がご先祖様のやらかしを思い出し、あの人たちなら気しないかと肩をすくめた。
手を繋ぐ妹にあれこれ文句を言いたいが、嫌われますよと注意されたら口を噤む。キエは舞台の上をさっと掃除し、すたすたと去る。ぶれない彼女の姿に、シンも舞台を降りた。
「すぐ帰ってくるだろうか」
あのままルイに同行したりしないか? もしかして、一緒に夜を過ごしたり……するようなら、ただでは置かない。ぶつぶつと呟く皇太子へ、残った契約獣のミミが近づいた。
『すぐ戻ると予言しておこう』
「白蛇神様は何かご存じなのですか?」
戻ってくると言い切る根拠があるはず。前のめりに安心材料を求めるシンの足が止まった。それを見越したように、キエが立ち止まって振り返る。先を歩いていた彼女は、聞くともなく話を耳に入れていた。
「聞いておられたのでしょう。今夜はお稲荷さんと巻き寿司です。神狐様と姫様の好物ですよ」
だから食べるために帰ってきます。キエは当たり前のように口にして、シンもなるほどと納得した。まだ色恋より食欲か。妹がまだ幼いままで純粋なことに安堵し、シンは執務のために自室へ戻った。
するすると屋敷の廊下を滑る白蛇は、奥の帝が住まう一室へ入り込む。人払いをした部屋の中、ぐるぐると歩き回る男に呆れながら声をかけた。
『それほど心配なら、許可を出さねば良いものを』
「狭量に見えるではありませんか。嫌われたらどうするんです」
ぱっと反論するセイランは、また部屋を歩き回る。落ち着きない姿を見ながら、白蛇神は部屋の中央でくるりと丸まった。居心地は良くないが、まあ悪くもない。そんな感想を抱きながら、ミミは昼寝を始めた。
家族の心配も知らず、アイリーンは転移した屋敷の窓を開いた。カーテンを開けて、窓を開け放つと風が吹き込む。ほぼ使われない屋敷は、どことなく薄暗かった。
「ふぅ……」
呪われていた時のように、全身が重い気がする。吸い込んだ空気かな? 首を傾げたアイリーンの隣で、ルイも眉根を寄せた。
「なんだか、別の国みたいだ」
違和感を覚えた彼の声に、商人バローも溜め息を吐いた。
「何となく気分が沈むんですよ」
前回とんぼ返りになった帰郷でも、早く船に乗りたいと思うくらい辛かった。彼の感想に、アイリーンとルイは顔を見合わせた。霊力や魔力をほぼ持たないバローも影響を受けるなら、二人への影響はさらに大きい。
神狐ココが、ひょいっとアイリーンの肩へ飛び乗る。くんと鼻をひくつかせ、嫌そうに耳を震わせた。
『ドラゴンが起きたんじゃない?』
『うん、圧力がすごいね』
ネネも同調したことで、ほぼ確定した。ドラゴンは目覚めている。その認識を共有して、三人は動き出した。
注意事項を聞いて、バローはすべての荷物に紐を付けて握る。これなら問題ないわね。左手を繋いだアイリーンは、札を掲げた。右手の札に霊力を込め、一緒に行くココとネネが足に身を寄せる。
皇太子シンと侍女長キエが見守る舞台は一瞬光り、彼らは姿を消した。シンは大きく溜め息を吐く。皇族が受け継いだ、巫女の貴重な陰陽術が、まさかただの移動手段に落ちるとは。ご先祖様に申し訳が立たない、がご先祖様のやらかしを思い出し、あの人たちなら気しないかと肩をすくめた。
手を繋ぐ妹にあれこれ文句を言いたいが、嫌われますよと注意されたら口を噤む。キエは舞台の上をさっと掃除し、すたすたと去る。ぶれない彼女の姿に、シンも舞台を降りた。
「すぐ帰ってくるだろうか」
あのままルイに同行したりしないか? もしかして、一緒に夜を過ごしたり……するようなら、ただでは置かない。ぶつぶつと呟く皇太子へ、残った契約獣のミミが近づいた。
『すぐ戻ると予言しておこう』
「白蛇神様は何かご存じなのですか?」
戻ってくると言い切る根拠があるはず。前のめりに安心材料を求めるシンの足が止まった。それを見越したように、キエが立ち止まって振り返る。先を歩いていた彼女は、聞くともなく話を耳に入れていた。
「聞いておられたのでしょう。今夜はお稲荷さんと巻き寿司です。神狐様と姫様の好物ですよ」
だから食べるために帰ってきます。キエは当たり前のように口にして、シンもなるほどと納得した。まだ色恋より食欲か。妹がまだ幼いままで純粋なことに安堵し、シンは執務のために自室へ戻った。
するすると屋敷の廊下を滑る白蛇は、奥の帝が住まう一室へ入り込む。人払いをした部屋の中、ぐるぐると歩き回る男に呆れながら声をかけた。
『それほど心配なら、許可を出さねば良いものを』
「狭量に見えるではありませんか。嫌われたらどうするんです」
ぱっと反論するセイランは、また部屋を歩き回る。落ち着きない姿を見ながら、白蛇神は部屋の中央でくるりと丸まった。居心地は良くないが、まあ悪くもない。そんな感想を抱きながら、ミミは昼寝を始めた。
家族の心配も知らず、アイリーンは転移した屋敷の窓を開いた。カーテンを開けて、窓を開け放つと風が吹き込む。ほぼ使われない屋敷は、どことなく薄暗かった。
「ふぅ……」
呪われていた時のように、全身が重い気がする。吸い込んだ空気かな? 首を傾げたアイリーンの隣で、ルイも眉根を寄せた。
「なんだか、別の国みたいだ」
違和感を覚えた彼の声に、商人バローも溜め息を吐いた。
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『ドラゴンが起きたんじゃない?』
『うん、圧力がすごいね』
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