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第116話 転移すればいいじゃない
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ルイの帰国は慌ただしく決まり、また戻って来ると言い残して船に乗った。魔法で転移するのは、まだ危険と判断したんですって。さすがに港までの外出が許されず、街から出るところでお別れだった。
泣かずに見送れたのは、また会えると伝えたから。彼も待っていると言ってくれた。あの屋敷は今も残っているし、倭国が所有する。いつでも使えるわ。深呼吸して空を見上げ、空の青さが沁みると呟いた。その感動的なシーンで、ココがぼそっとツッコミを入れる。
『あのさ、送って行ったらいいじゃない』
「誰を?」
『あのドラゴンの気配がする子だよ。リンが陰陽術で転移したら、一瞬だったのに』
「……あっ」
声もなく「確かに」と同意の形に唇が動いた。だがすぐに首を傾げる。
「あれって、神獣と巫女以外も使えるの?」
『君に触れていれば平気だね。だって、おにぎりを持って行っただろ?』
呆れたとココが溜め息を吐く。その姿を見ながら、おにぎりと人を同じ括りで扱うのはどうかしら? とアイリーンは苦笑いした。彼女の認識では、無機物は持って行けて、生きている人は無理だと思っていた。だが違うようだ。
「今からでも間に合うかな」
『リンは街を出られないでしょ』
やれやれと首を振る人間臭い仕草の神狐は、ぴょんと飛び降りた。
『伝言してあげる』
一言残して、力を解放した。額の青い印が光り、小さな旋風が起きる。その中心でココは走るように脚を動かした。風がぶわりと埃を巻き上げ、目を閉じたアイリーンが何とか前を見た時には、白い狐の姿は消えていた。
「ココったら、神様みたい」
『ぷっ、今の言葉、聞かせたいなぁ。きっと怒るよ』
小さな体を揺すりながら、短い脚でぽてぽてと歩くネネが抱っこをせがむ。膝に手を当てて待つ子犬を、アイリーンはひょいっと拾い上げた。
「怒る? どうして」
『うん、いい組み合わせだよね』
普段より大人びた物言いをする狗神を抱っこし、アイリーンは牛車が去った街道を見つめる。どこまで行ったんだろう、すぐ戻ってくるかも。期待する彼女の目に、先ほどの牛車が映った。
「きた!」
牛車を飛び降りて走るルイが、手の触れる距離で急停止した。商人バローも同行している。彼はしっかり牛車に揺られ、よっこらせと掛け声をして飛び降りた。
「姫様が手配をなさってくださると伺いました」
「ええ、まずは移動ね。すぐ準備するわ」
今までは夜ばかりだったけれど、今回は明るい時間だ。キエに必要なものを手配してもらわないと! 牛車の上に座っていたココが飛び降りるのを受け止め、ネネと一緒に抱っこする。
大急ぎで屋敷へ向かって歩き出した。ルイやバロー、荷物を乗せた牛車が続く。今回は先発として、ルイだけが帰国予定だった。ドナルドは準備が出来次第、商人の船に乗る予定だ。ルイに説得され、ニコラは残ることを決めた。
断腸の思いでアイリーンと離れる決断をしたのに、まさかの同行してくれる話に発展し、ルイは頬が緩むのを堪えきれない。屋敷に到着するなり、アイリーンは忙しなく指示を出した。すべてを整えると、彼らもよく知る舞台へ向かう。
「ここって」
「ええ、以前に狗神様の穢れを祓った場所よ」
用意した札を並べ、衣装や道具を詰めた風呂敷包みを受け取った。キエは厳しい表情で、気をつけるようにと注意を並べる。この小言が嬉しいなんて、私も成長したのね。アイリーンは笑顔で頷いた。
泣かずに見送れたのは、また会えると伝えたから。彼も待っていると言ってくれた。あの屋敷は今も残っているし、倭国が所有する。いつでも使えるわ。深呼吸して空を見上げ、空の青さが沁みると呟いた。その感動的なシーンで、ココがぼそっとツッコミを入れる。
『あのさ、送って行ったらいいじゃない』
「誰を?」
『あのドラゴンの気配がする子だよ。リンが陰陽術で転移したら、一瞬だったのに』
「……あっ」
声もなく「確かに」と同意の形に唇が動いた。だがすぐに首を傾げる。
「あれって、神獣と巫女以外も使えるの?」
『君に触れていれば平気だね。だって、おにぎりを持って行っただろ?』
呆れたとココが溜め息を吐く。その姿を見ながら、おにぎりと人を同じ括りで扱うのはどうかしら? とアイリーンは苦笑いした。彼女の認識では、無機物は持って行けて、生きている人は無理だと思っていた。だが違うようだ。
「今からでも間に合うかな」
『リンは街を出られないでしょ』
やれやれと首を振る人間臭い仕草の神狐は、ぴょんと飛び降りた。
『伝言してあげる』
一言残して、力を解放した。額の青い印が光り、小さな旋風が起きる。その中心でココは走るように脚を動かした。風がぶわりと埃を巻き上げ、目を閉じたアイリーンが何とか前を見た時には、白い狐の姿は消えていた。
「ココったら、神様みたい」
『ぷっ、今の言葉、聞かせたいなぁ。きっと怒るよ』
小さな体を揺すりながら、短い脚でぽてぽてと歩くネネが抱っこをせがむ。膝に手を当てて待つ子犬を、アイリーンはひょいっと拾い上げた。
「怒る? どうして」
『うん、いい組み合わせだよね』
普段より大人びた物言いをする狗神を抱っこし、アイリーンは牛車が去った街道を見つめる。どこまで行ったんだろう、すぐ戻ってくるかも。期待する彼女の目に、先ほどの牛車が映った。
「きた!」
牛車を飛び降りて走るルイが、手の触れる距離で急停止した。商人バローも同行している。彼はしっかり牛車に揺られ、よっこらせと掛け声をして飛び降りた。
「姫様が手配をなさってくださると伺いました」
「ええ、まずは移動ね。すぐ準備するわ」
今までは夜ばかりだったけれど、今回は明るい時間だ。キエに必要なものを手配してもらわないと! 牛車の上に座っていたココが飛び降りるのを受け止め、ネネと一緒に抱っこする。
大急ぎで屋敷へ向かって歩き出した。ルイやバロー、荷物を乗せた牛車が続く。今回は先発として、ルイだけが帰国予定だった。ドナルドは準備が出来次第、商人の船に乗る予定だ。ルイに説得され、ニコラは残ることを決めた。
断腸の思いでアイリーンと離れる決断をしたのに、まさかの同行してくれる話に発展し、ルイは頬が緩むのを堪えきれない。屋敷に到着するなり、アイリーンは忙しなく指示を出した。すべてを整えると、彼らもよく知る舞台へ向かう。
「ここって」
「ええ、以前に狗神様の穢れを祓った場所よ」
用意した札を並べ、衣装や道具を詰めた風呂敷包みを受け取った。キエは厳しい表情で、気をつけるようにと注意を並べる。この小言が嬉しいなんて、私も成長したのね。アイリーンは笑顔で頷いた。
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