116 / 159
第115話 ちょっと手を伸ばすだけだもの
しおりを挟む
ルイが帰国する。その一報を聞いて、アイリーンは悲しくなった。すぐに会える距離にいたのに、と胸を押さえる。でも、私には神々との契約があるから、簡単に隣大陸へ飛べない。
『会いに行けばいいじゃない』
『僕だって協力するよ』
ココとネネが、勝手に心を読んだような返答を寄越す。驚いて目を見開いたアイリーンへ、二匹の契約獣は逆にびっくりしたようだ。なぜダメだと思い込んだのかを尋ねてきた。素直に返した答えは、以前のように役目があるわけでもないのに、神の力を使ってはいけない、と考えた彼女の意見だ。
『僕らが構わないのに?』
『目の前にあるお稲荷さんを我慢する必要あるかな。欲しければ食べればいいんだよ。ちょっと手を伸ばすだけだもの』
恋人との逢瀬を、食べ物に例える辺り……神狐はお子様なのか。呆れ顔で舌をちろちろ覗かせる白蛇神ミミが足りない言葉を補った。
『我らは契約主の願いを叶える存在だ。巫女と契約した神が契約獣に身を落とすのは、大多数の声を聞き届ける神の役目を放棄する故。つまり契約した巫女の願いを叶えることは、当然のこと』
信仰する人々の願いを聞くから神であり、神格が維持される。その役目を放棄し、たった一人の願いを叶えるために己の地位を投げだすのが、契約獣だった。遠回りだが、民の為になる一面もある。それゆえ、他の神々は神格を預かって契約が終われば返してくれるのだ。
一時的に神格を手放すから、一柱と数えず一匹となる。その原理まで語り、白蛇は牙を見せて笑った。
『ここまでお膳立てしたのだ、大団円の幕を引くのはそなたの役目であろう?』
「そう、なのかな」
恋人に会うため隣大陸行きたい話が、神格まで絡んだお話に発展するなんて。半分も理解せず、アイリーンは聞き流した。難し過ぎてよく分からないわ。今は頭の中が、ルイに会う方法でいっぱいだったし。会いに行ってもいいって部分だけ、理解すればいいよね。
誰しも飽和状態のとき、それ以上詰め込めないものだ。アイリーンはにっこりと笑って、考えることを放棄した。契約した神獣達が三匹揃って、隣大陸への往復を助けてくれる。過去の体験から判断して、三匹なら三往復できるはずだ。
ほっとしながら、ルイに明日会いに行こうと決めた。ルイがフルール大陸に帰っても、あの屋敷経由で会えるよと話すために。
『リンは絶対に理解してない』
『いいんじゃない?』
ココが低い声でぼやくも、ネネは楽天家だ。深く考えなくても、彼女なら自然に良い方へ向かうに決まっている。軽い返事をして、ごろりと畳に寝転がった。背中が痒いが子犬形態では足が短くて届かない。くねくねと体を揺らして、畳に擦りつけた。
「ネネったら、可愛いんだから」
ふふっと笑ってアイリーンが膝に抱き上げた。背中の痒かった部分を、ちょうど撫でる指にうっとりする。むっとした神狐が飛び上がり、膝の上の子犬を踏んづけた。ぎゃん! 鳴いたネネを睨み、叱ろうとしたアイリーンを無視して飛び出す。
「ちょ! ココ!!」
『嫉妬は醜いものよのぉ』
「障子破かないでよ、私が叱られるでしょ!」
のんびり構えるミミは、アイリーンの嘆きに苦笑いする。神狐が通り抜けた障子の穴は、くどくど叱るキエが桜の形の紙を貼って塞いだ。
『会いに行けばいいじゃない』
『僕だって協力するよ』
ココとネネが、勝手に心を読んだような返答を寄越す。驚いて目を見開いたアイリーンへ、二匹の契約獣は逆にびっくりしたようだ。なぜダメだと思い込んだのかを尋ねてきた。素直に返した答えは、以前のように役目があるわけでもないのに、神の力を使ってはいけない、と考えた彼女の意見だ。
『僕らが構わないのに?』
『目の前にあるお稲荷さんを我慢する必要あるかな。欲しければ食べればいいんだよ。ちょっと手を伸ばすだけだもの』
恋人との逢瀬を、食べ物に例える辺り……神狐はお子様なのか。呆れ顔で舌をちろちろ覗かせる白蛇神ミミが足りない言葉を補った。
『我らは契約主の願いを叶える存在だ。巫女と契約した神が契約獣に身を落とすのは、大多数の声を聞き届ける神の役目を放棄する故。つまり契約した巫女の願いを叶えることは、当然のこと』
信仰する人々の願いを聞くから神であり、神格が維持される。その役目を放棄し、たった一人の願いを叶えるために己の地位を投げだすのが、契約獣だった。遠回りだが、民の為になる一面もある。それゆえ、他の神々は神格を預かって契約が終われば返してくれるのだ。
一時的に神格を手放すから、一柱と数えず一匹となる。その原理まで語り、白蛇は牙を見せて笑った。
『ここまでお膳立てしたのだ、大団円の幕を引くのはそなたの役目であろう?』
「そう、なのかな」
恋人に会うため隣大陸行きたい話が、神格まで絡んだお話に発展するなんて。半分も理解せず、アイリーンは聞き流した。難し過ぎてよく分からないわ。今は頭の中が、ルイに会う方法でいっぱいだったし。会いに行ってもいいって部分だけ、理解すればいいよね。
誰しも飽和状態のとき、それ以上詰め込めないものだ。アイリーンはにっこりと笑って、考えることを放棄した。契約した神獣達が三匹揃って、隣大陸への往復を助けてくれる。過去の体験から判断して、三匹なら三往復できるはずだ。
ほっとしながら、ルイに明日会いに行こうと決めた。ルイがフルール大陸に帰っても、あの屋敷経由で会えるよと話すために。
『リンは絶対に理解してない』
『いいんじゃない?』
ココが低い声でぼやくも、ネネは楽天家だ。深く考えなくても、彼女なら自然に良い方へ向かうに決まっている。軽い返事をして、ごろりと畳に寝転がった。背中が痒いが子犬形態では足が短くて届かない。くねくねと体を揺らして、畳に擦りつけた。
「ネネったら、可愛いんだから」
ふふっと笑ってアイリーンが膝に抱き上げた。背中の痒かった部分を、ちょうど撫でる指にうっとりする。むっとした神狐が飛び上がり、膝の上の子犬を踏んづけた。ぎゃん! 鳴いたネネを睨み、叱ろうとしたアイリーンを無視して飛び出す。
「ちょ! ココ!!」
『嫉妬は醜いものよのぉ』
「障子破かないでよ、私が叱られるでしょ!」
のんびり構えるミミは、アイリーンの嘆きに苦笑いする。神狐が通り抜けた障子の穴は、くどくど叱るキエが桜の形の紙を貼って塞いだ。
89
お気に入りに追加
86
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる