115 / 159
第114話 実家からの緊急要請
しおりを挟む
学校の授業が終わったところへ、客が待っていると連絡が入る。寮ではなく、学校へ連絡してくる相手……? 考えながらルイは応接室へ向かった。
畳の部屋で座布団に座り待っていたのは、大商人バローだ。大きく肥えた体はやや細くなり、頬も痩けていた。ほぼとんぼ返りの大陸間往復は堪えたらしい。
「第二王子殿下、お久しぶりでございます」
「ああ、なんというか。大変だったようだな」
話を聞かずとも、かなり無理をしたのだろうと察せられる。バローは苦笑いし、痩けた頬を撫でた。それから手を懐へ差し入れる。取り出したのは一通の手紙だった。
「こちらをお預かりしました」
まだ数十日は先だった日程を、大幅に繰り上げた理由はこの手紙にある。受け取ったルイは、裏にある封蝋に目を細めた。見覚えがあるどころではない。ビュシェルベルジェール王家の封印だった。
表を確認すれば、宛先はルイになっている。実家からの正式な手紙、嫌な予感がした。
「言伝は?」
「可及的速やかにお渡しし、ご返答をいただくように、と」
嫌な予感がさらに強くなる。帰ってこいとか、そんな内容じゃないのか? 疑うから、開けることを躊躇した。知らないフリで処分したい。だが縋るようなバローの視線に、根負けして封筒を開けた。
無理を言って儀式に同行させてもらったり、自分の勝手な行動で彼を罪人にしたりと、申し訳ない借りがある。返せるうちに返せないと、利息が膨らみそうだ。大商人相手なので、そんな心配も働いた。
乾いた音を立てる手紙は、たった一枚だった。開いた文面に目を通し、後悔が胸に広がる。と同時に、読まなくても後悔する未来に気づいた。
「地震が頻発し、魔力濃度が上がった……ドラゴンの目覚めが近いのか」
「まだ予測段階ですが、その危険性が高いと思われます」
王家が隠そうとせず、商人にも話が通っているなら。ほぼ確定事項と考えてよさそうだ。表向きは兄アンリのために病弱で通すルイだが、魔力が高く戦えることを家族は知っている。緊急時は、ドラゴンと戦ってほしいと綴った。
他大陸へ留学した第二王子は、本来なら王家の血を絶やさないために帰国を拒まれる。しかし王太子となったアンリに、戦う能力はなかった。護身程度の剣術と最低限の魔法しか扱えない。
ドラゴンが復活すれば、大陸を挙げての戦闘になるだろう。戦える騎士団や貴族を指揮し、戦える王子を温存する余裕はなかった。両親の苦悩が滲んだ手紙を畳み、丁寧に封筒へ戻す。
「承知した。船の手配を頼む」
ニコラとドナルドには、どうするか選択させる気だった。ドナルドは竜退治と聞けば、参戦するか。ニコラは出来たら東開大陸に残したい。頭の中で様々な打開策や作戦を打ち上げ、片っ端から否定した。
もし本当にドラゴンが復活するなら、大陸と命運を共にする覚悟が必要だ。悲痛な決意を固める王子に、バローは床に擦り付けるほど深く頭を下げた。こんな若者に命運を託すしかない大人の、無力感に苛まれながら。
畳の部屋で座布団に座り待っていたのは、大商人バローだ。大きく肥えた体はやや細くなり、頬も痩けていた。ほぼとんぼ返りの大陸間往復は堪えたらしい。
「第二王子殿下、お久しぶりでございます」
「ああ、なんというか。大変だったようだな」
話を聞かずとも、かなり無理をしたのだろうと察せられる。バローは苦笑いし、痩けた頬を撫でた。それから手を懐へ差し入れる。取り出したのは一通の手紙だった。
「こちらをお預かりしました」
まだ数十日は先だった日程を、大幅に繰り上げた理由はこの手紙にある。受け取ったルイは、裏にある封蝋に目を細めた。見覚えがあるどころではない。ビュシェルベルジェール王家の封印だった。
表を確認すれば、宛先はルイになっている。実家からの正式な手紙、嫌な予感がした。
「言伝は?」
「可及的速やかにお渡しし、ご返答をいただくように、と」
嫌な予感がさらに強くなる。帰ってこいとか、そんな内容じゃないのか? 疑うから、開けることを躊躇した。知らないフリで処分したい。だが縋るようなバローの視線に、根負けして封筒を開けた。
無理を言って儀式に同行させてもらったり、自分の勝手な行動で彼を罪人にしたりと、申し訳ない借りがある。返せるうちに返せないと、利息が膨らみそうだ。大商人相手なので、そんな心配も働いた。
乾いた音を立てる手紙は、たった一枚だった。開いた文面に目を通し、後悔が胸に広がる。と同時に、読まなくても後悔する未来に気づいた。
「地震が頻発し、魔力濃度が上がった……ドラゴンの目覚めが近いのか」
「まだ予測段階ですが、その危険性が高いと思われます」
王家が隠そうとせず、商人にも話が通っているなら。ほぼ確定事項と考えてよさそうだ。表向きは兄アンリのために病弱で通すルイだが、魔力が高く戦えることを家族は知っている。緊急時は、ドラゴンと戦ってほしいと綴った。
他大陸へ留学した第二王子は、本来なら王家の血を絶やさないために帰国を拒まれる。しかし王太子となったアンリに、戦う能力はなかった。護身程度の剣術と最低限の魔法しか扱えない。
ドラゴンが復活すれば、大陸を挙げての戦闘になるだろう。戦える騎士団や貴族を指揮し、戦える王子を温存する余裕はなかった。両親の苦悩が滲んだ手紙を畳み、丁寧に封筒へ戻す。
「承知した。船の手配を頼む」
ニコラとドナルドには、どうするか選択させる気だった。ドナルドは竜退治と聞けば、参戦するか。ニコラは出来たら東開大陸に残したい。頭の中で様々な打開策や作戦を打ち上げ、片っ端から否定した。
もし本当にドラゴンが復活するなら、大陸と命運を共にする覚悟が必要だ。悲痛な決意を固める王子に、バローは床に擦り付けるほど深く頭を下げた。こんな若者に命運を託すしかない大人の、無力感に苛まれながら。
89
お気に入りに追加
85
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~
繭
ファンタジー
高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。
見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に
え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。
確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!?
ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・
気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。
誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!?
女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話
保険でR15
タイトル変更の可能性あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡
サクラ近衛将監
ファンタジー
女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。
シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。
シルヴィの将来や如何に?
毎週木曜日午後10時に投稿予定です。
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
究極妹属性のぼっち少女が神さまから授かった胸キュンアニマルズが最強だった
盛平
ファンタジー
パティは教会に捨てられた少女。パティは村では珍しい黒い髪と黒い瞳だったため、村人からは忌子といわれ、孤独な生活をおくっていた。この世界では十歳になると、神さまから一つだけ魔法を授かる事ができる。パティは神さまに願った。ずっと側にいてくれる友達をくださいと。
神さまが与えてくれた友達は、犬、猫、インコ、カメだった。友達は魔法でパティのお願いを何でも叶えてくれた。
パティは友達と一緒に冒険の旅に出た。パティの生活環境は激変した。パティは究極の妹属性だったのだ。冒険者協会の美人受付嬢と美女の女剣士が、どっちがパティの姉にふさわしいかケンカするし、永遠の美少女にも気に入られてしまう。
ぼっち少女の愛されまくりな旅が始まる。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる