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第113話 地を揺らすドラゴンの目覚め

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 かつてフルール大陸に君臨し、聖剣を持つ人の子に封印されたドラゴンはぴくりと身じろぎした。ゆっくりと体を動かす。長年動かさなかった手足は岩のようで、ぎこちなかった。

 誰かが干渉しようとしている。圧倒的な力を感じるが、自分とは異質な力のようだ。ドラゴンはのんびり構えていた。新たな人の子か? ならば遊んでやって、また眠るのも悪くない。

 封印という形を取っているが、いつでも外へ出ることは可能だった。あの人の子は賢い。ドラゴンの眠りの周期に合わせ、仰々しく演出してみせた。うとうとして目覚めたら、頭上に立派な建物と墓が建っている。大陸全土に張り巡らせた竜脈から、魔力を通じて情報を集めた。

 その結果、自分が負けて封印されたことになっていると知る。手際の良さに人の子を褒めて大笑いし、地上を揺らした。数百年前の大地震の真相である。その後また眠ったが、今回は無理やり起こされた形だった。

『何者か……』

 答えがないと思った問いかけに、思わぬ声が返る。

『なんじゃ? 目覚めておるではないか』

 大仰な物言いの人物は、女性のようだ。勝手に洞窟へ入り込んだ者をじっくり確認し、ドラゴンはぼやいた。

『隣のフクロウか』

 隣大陸は隣家も同然。特に襲撃する理由もないので、当時から喧嘩はなかった。衝突したのは、同じ大地を踏む人族だ。何かするたびに大地を揺らし、地形を変えてしまったのは、申し訳なかったと思う。反省したので、ここ最近は動かずに過ごしてきた。

 くしゃみ一つで、数百もの人命が失われる。理解すれば、彼らがチクチクする針で攻撃してきた理由も、納得できた。まあ、さほど痛くなかったので許せるのもあるが。

『そちの庇護を受けた若者が、妾のお気に入りの娘と恋仲になったのじゃ。譲ってたもれ』

『いやだ』

 即答して、長く細い息を吐き出した。手足もだいぶ動くようになっている。不満げにあれこれと騒ぐフクロウは、痺れを切らした様子で取引材料を投げた。

『よいのか? そちの惚れた白蛇が泣くぞ』

『っ!』

 白銀に輝く鱗、美しく太い胴体、締め付ける強さも抜群の美蛇は、過去に一度戦ったことがある。あの者が嘆く? それは嫌だ。うぬぅと唸った響きで、また地表が揺れた。慌てて気持ちを落ち着かせる。

『妾は縁結びの神ゆえ、繋いでもよいぞ?』

 当人も知らぬ場で、勝手に取引材料にされた白蛇は、ぶるりと身を震わせた。同族に身売りされそうになっているとは、知るよしもない。

『よかろう、まずは顔を見たい』

 交渉はその後だ。譲歩したドラゴンに満足げに頷き、白フクロウは地下の洞窟から飛び去った。地上へ繋がる空気穴を使うことなく、空中からするりと転移を行う。見送ったドラゴンは、ぱたんと顎を下ろした。

 気遣ってゆっくり行ったので、地上にほとんど影響はない。だが、感情を示す尻尾がゆらゆらと揺れた。ぺちっと軽く地面を叩き、振動させる。嬉しい気持ちが抑えきれず、尻尾は動き続けた。

 影響を受ける地上では、王都直下型の地震が頻発する。余震も本震もなく、ただドラゴンの尻尾の気分次第だった。非常に迷惑なことだが、事情を知るのは人外のみ。王宮では慌てふためいた大臣や貴族が右往左往した。
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