上 下
114 / 159

第113話 地を揺らすドラゴンの目覚め

しおりを挟む
 かつてフルール大陸に君臨し、聖剣を持つ人の子に封印されたドラゴンはぴくりと身じろぎした。ゆっくりと体を動かす。長年動かさなかった手足は岩のようで、ぎこちなかった。

 誰かが干渉しようとしている。圧倒的な力を感じるが、自分とは異質な力のようだ。ドラゴンはのんびり構えていた。新たな人の子か? ならば遊んでやって、また眠るのも悪くない。

 封印という形を取っているが、いつでも外へ出ることは可能だった。あの人の子は賢い。ドラゴンの眠りの周期に合わせ、仰々しく演出してみせた。うとうとして目覚めたら、頭上に立派な建物と墓が建っている。大陸全土に張り巡らせた竜脈から、魔力を通じて情報を集めた。

 その結果、自分が負けて封印されたことになっていると知る。手際の良さに人の子を褒めて大笑いし、地上を揺らした。数百年前の大地震の真相である。その後また眠ったが、今回は無理やり起こされた形だった。

『何者か……』

 答えがないと思った問いかけに、思わぬ声が返る。

『なんじゃ? 目覚めておるではないか』

 大仰な物言いの人物は、女性のようだ。勝手に洞窟へ入り込んだ者をじっくり確認し、ドラゴンはぼやいた。

『隣のフクロウか』

 隣大陸は隣家も同然。特に襲撃する理由もないので、当時から喧嘩はなかった。衝突したのは、同じ大地を踏む人族だ。何かするたびに大地を揺らし、地形を変えてしまったのは、申し訳なかったと思う。反省したので、ここ最近は動かずに過ごしてきた。

 くしゃみ一つで、数百もの人命が失われる。理解すれば、彼らがチクチクする針で攻撃してきた理由も、納得できた。まあ、さほど痛くなかったので許せるのもあるが。

『そちの庇護を受けた若者が、妾のお気に入りの娘と恋仲になったのじゃ。譲ってたもれ』

『いやだ』

 即答して、長く細い息を吐き出した。手足もだいぶ動くようになっている。不満げにあれこれと騒ぐフクロウは、痺れを切らした様子で取引材料を投げた。

『よいのか? そちの惚れた白蛇が泣くぞ』

『っ!』

 白銀に輝く鱗、美しく太い胴体、締め付ける強さも抜群の美蛇は、過去に一度戦ったことがある。あの者が嘆く? それは嫌だ。うぬぅと唸った響きで、また地表が揺れた。慌てて気持ちを落ち着かせる。

『妾は縁結びの神ゆえ、繋いでもよいぞ?』

 当人も知らぬ場で、勝手に取引材料にされた白蛇は、ぶるりと身を震わせた。同族に身売りされそうになっているとは、知るよしもない。

『よかろう、まずは顔を見たい』

 交渉はその後だ。譲歩したドラゴンに満足げに頷き、白フクロウは地下の洞窟から飛び去った。地上へ繋がる空気穴を使うことなく、空中からするりと転移を行う。見送ったドラゴンは、ぱたんと顎を下ろした。

 気遣ってゆっくり行ったので、地上にほとんど影響はない。だが、感情を示す尻尾がゆらゆらと揺れた。ぺちっと軽く地面を叩き、振動させる。嬉しい気持ちが抑えきれず、尻尾は動き続けた。

 影響を受ける地上では、王都直下型の地震が頻発する。余震も本震もなく、ただドラゴンの尻尾の気分次第だった。非常に迷惑なことだが、事情を知るのは人外のみ。王宮では慌てふためいた大臣や貴族が右往左往した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

拝啓、私を追い出した皆様 いかがお過ごしですか?私はとても幸せです。

香木あかり
恋愛
拝啓、懐かしのお父様、お母様、妹のアニー 私を追い出してから、一年が経ちましたね。いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。 治癒の能力を持つローザは、家業に全く役に立たないという理由で家族に疎まれていた。妹アニーの占いで、ローザを追い出せば家業が上手くいくという結果が出たため、家族に家から追い出されてしまう。 隣国で暮らし始めたローザは、実家の商売敵であるフランツの病気を治癒し、それがきっかけで結婚する。フランツに溺愛されながら幸せに暮らすローザは、実家にある手紙を送るのだった。 ※複数サイトにて掲載中です

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

別れてくれない夫は、私を愛していない

abang
恋愛
「私と別れて下さい」 「嫌だ、君と別れる気はない」 誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで…… 彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。 「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」 「セレンが熱が出たと……」 そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは? ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。 その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。 「あなた、お願いだから別れて頂戴」 「絶対に、別れない」

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

処理中です...