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第101話 契約後は名を貰いたい
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毛を逆立てて怒る狐の向かいで、蛇は愛らしく首を傾けた。
『どういうつもりなのさ』
『呪いを解いただけだが?』
端的に返事をする白蛇神は、ちろちろと赤い舌を覗かせた。そわそわしながら、我も名前を貰わねばと呟く。
『人の身に、三柱は重過ぎる』
だからお前は排除すると脅すが、白蛇神は長い体でとぐろを巻いて小狐を見下ろした。睨む視線を平然と受け流す。
『であれば、そなたが抜けても構わぬぞ』
『なんで僕なのさっ!』
『あの子は恨みを買いやすい。強さに見合う嫌な性格ならよかったが、純粋過ぎて闇にも人にも羨ましがられる。呪いを弾くなら、我の得意分野だ』
蛇は呪いを強める。常にそう言われ続け、いつの間にか備わった能力だった。呪いを解いたりかけたり、どちらも自由に行うのは蛇神の特殊能力だ。後から備わった霊力を使用しない能力であるため、霊力が高くとも逃げられない。
『まさか、外戚連中を呪ったの?』
『いいや? そんな必要はあるまい。人を呪わば穴二つと申すであろう。呪った力は消滅しない』
呪いを返されれば、それは呪った人が被る。当然のルールであり、霊力を持つ者が最初に教わる教訓だった。無意識とはいえ、強い霊力を持つ者がアイリーンを呪ったのだ。幼かったため、呪いを背負ったまま成長したが……ネネと契約した時点で、限界寸前だった。
大きく膨らんだ霊力がミシミシと音を立てる中、最後の楔を打ち込んだのが白蛇神だ。強い霊力と呪いを操る力が、アイリーンの制御下に入った。契約した主人は、契約獣と同じ能力を保有する。
神狐の青い炎は浄化を、狗神の燃えるような赤い霊力は攻撃を、最後の蛇神が呪いを。
『最悪だ』
『何を申すか、皇族初の最強巫女であるぞ。もっと喜ばぬか』
むすっとした顔で言い聞かされ、ココは顔を両手で抱えて蹲った。契約が成立している以上、戦っても結果は変わらない。神と人の契約は魂で行われるため、解除も難しかった。不可能ではないが、魂を傷つけるので諦める方が正解だ。
「白蛇神様、ありがとうございました」
帝セイランが丁寧に頭を下げる。倭国の王であろうと、神の前では一人の人間であり父親だった。娘にかけられた呪いが重く黒く見えるのに、解いてやれない。もどかしく苛立つ日々が、ようやく終わる。
『よい、それより……あの場に飛び込んだ炎の魔力を持つ若者、面白い相をしておった』
白蛇神は赤く丸い目で帝を見つめる。気に入ったと言葉の端に滲ませ、牽制した。鈍いネネ辺りは気づかぬだろうが、アイリーンはルイと名乗った男に惚れている。ルイもまた然り。
定期的に捧げられた賽銭の分だけ、ルイに味方しても許されるはず。企む白蛇神はとぐろを解いて移動を始めた。
「どちらへ?」
『主人に名を貰わねばならん』
しゅるしゅると建物の隙間を利用して移動する蛇を追って、狐も走り出した。騒々しい神々に苦笑し、セイランは溜め息を吐く。圧倒する霊力が消え、ほっとした。あの霊圧で平然としているのは、末娘くらいだろう。
「とんでもない娘に育ったものだ。そなたにも見せたかったぞ、燐華」
アイリーンを産んで身罷った妻の名を口にし、セイランは懐かしさに口元を緩めた。
『どういうつもりなのさ』
『呪いを解いただけだが?』
端的に返事をする白蛇神は、ちろちろと赤い舌を覗かせた。そわそわしながら、我も名前を貰わねばと呟く。
『人の身に、三柱は重過ぎる』
だからお前は排除すると脅すが、白蛇神は長い体でとぐろを巻いて小狐を見下ろした。睨む視線を平然と受け流す。
『であれば、そなたが抜けても構わぬぞ』
『なんで僕なのさっ!』
『あの子は恨みを買いやすい。強さに見合う嫌な性格ならよかったが、純粋過ぎて闇にも人にも羨ましがられる。呪いを弾くなら、我の得意分野だ』
蛇は呪いを強める。常にそう言われ続け、いつの間にか備わった能力だった。呪いを解いたりかけたり、どちらも自由に行うのは蛇神の特殊能力だ。後から備わった霊力を使用しない能力であるため、霊力が高くとも逃げられない。
『まさか、外戚連中を呪ったの?』
『いいや? そんな必要はあるまい。人を呪わば穴二つと申すであろう。呪った力は消滅しない』
呪いを返されれば、それは呪った人が被る。当然のルールであり、霊力を持つ者が最初に教わる教訓だった。無意識とはいえ、強い霊力を持つ者がアイリーンを呪ったのだ。幼かったため、呪いを背負ったまま成長したが……ネネと契約した時点で、限界寸前だった。
大きく膨らんだ霊力がミシミシと音を立てる中、最後の楔を打ち込んだのが白蛇神だ。強い霊力と呪いを操る力が、アイリーンの制御下に入った。契約した主人は、契約獣と同じ能力を保有する。
神狐の青い炎は浄化を、狗神の燃えるような赤い霊力は攻撃を、最後の蛇神が呪いを。
『最悪だ』
『何を申すか、皇族初の最強巫女であるぞ。もっと喜ばぬか』
むすっとした顔で言い聞かされ、ココは顔を両手で抱えて蹲った。契約が成立している以上、戦っても結果は変わらない。神と人の契約は魂で行われるため、解除も難しかった。不可能ではないが、魂を傷つけるので諦める方が正解だ。
「白蛇神様、ありがとうございました」
帝セイランが丁寧に頭を下げる。倭国の王であろうと、神の前では一人の人間であり父親だった。娘にかけられた呪いが重く黒く見えるのに、解いてやれない。もどかしく苛立つ日々が、ようやく終わる。
『よい、それより……あの場に飛び込んだ炎の魔力を持つ若者、面白い相をしておった』
白蛇神は赤く丸い目で帝を見つめる。気に入ったと言葉の端に滲ませ、牽制した。鈍いネネ辺りは気づかぬだろうが、アイリーンはルイと名乗った男に惚れている。ルイもまた然り。
定期的に捧げられた賽銭の分だけ、ルイに味方しても許されるはず。企む白蛇神はとぐろを解いて移動を始めた。
「どちらへ?」
『主人に名を貰わねばならん』
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「とんでもない娘に育ったものだ。そなたにも見せたかったぞ、燐華」
アイリーンを産んで身罷った妻の名を口にし、セイランは懐かしさに口元を緩めた。
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