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第99話 三柱の契約を経て
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お礼を口にしたアイリーンは、深い息を吐く。体内に集めた霊力を散らすためだ。練った霊力は密度が高いので、巫女の寿命に影響する。深呼吸で霊力を中和し、彼女はどっこらせと勢いを付けて立ち上がった。
このままルイの腕の中で眠ってしまいたいが、そうもいかない。この騒動は人為的なものだと思うから、厳しい表情になった。
「白蛇神様、何か話があるのでは?」
神の一柱への敬語は消えた。確信があるため、アイリーンは強く出る。普段の親しく振る舞う時とも、声色が違った。こんあ危険な穢れを外へ放とうとするなんて。むっとした顔で詰め寄った。
父セイランが何か言いたそうだが、主犯は白蛇神様だ。アイリーンの鋭い勘と指摘に、するすると小型化した白蛇神はとぐろを巻いた。じっと見つめる赤い瞳に、アイリーンの青い瞳が対峙する。
瞬きを知らぬ白蛇神は、ちろりと赤い舌を見せた。鋭い牙が覗き、一瞬で距離を飛ぶ。油断していたココが叫ぶのも、慌てたネネが飛び出すのも間に合わなかった。
『リン!』
白い指先に白蛇神の牙が刺さる。すぐに抜かれたが、アイリーンは目を見開いて固まった。
無礼な振る舞いを咎められたように見える。だが、セイランは額を押さえて呻いた。巫女の能力が高いアオイも、悲鳴をあげる。皇太子シンは状況を判断しようと、集まった人々の反応を窺った。
「もうっ! どうするのよ!!」
『構わぬではないか、二柱も三柱も同じこと』
「全然違うわ」
噛み付いた指から傷が消えていく。ルイは目を見開いて、不思議なやり取りを眺めた。何が起きているのか、わからない。その上、誰が敵で味方かも判別できなかった。
『我と契約すれば、恩恵があるぞ……呪いの解除もその一つ』
呪いという不吉な響きに、シンが肩を揺らした。アイリーンへ視線が集中する。家族が心配する中、カシャンと何かが壊れる音がした。数回、音が繰り返された後、アイリーンの霊力が高まる。
「私って呪われてたの?」
きょとんとした顔で首を傾げる彼女は、自覚がなかった。己を縛る鎖に気づかなかったのだ。呪いと拮抗するため、霊力の三割近くが消費されていた。その霊力が戻っている。アイリーンを縛る呪いが解けた証拠だった。
「ああ、外戚共に呪われておった」
帝の一言で、集まった人々がざわついた。外戚と表現されるなら、シン、アオイ、ヒスイの母親の実家だ。アイリーンの後ろ盾はすでに消えている。兄姉の表情がすっと凍り付いた。
可愛い妹を傷つけていたと知って、平然とできるほど冷めていない。それぞれに報復に動くだろう。だが今は、まず彼女の功績を褒めて、無事を喜びたかった。
「リン!」
「ケガはないの?」
「役に立てなくてごめんね」
騒動を知って駆けつけたヒスイも交え、三人に抱きつかれた。助けを求めてルイに手を伸ばすも、彼はあっさり見捨てた。
「仲のいい家族で結構だ」
にやりと笑う表情はちょっと意地悪で、わかっていて見捨てたと語っていた。あとで覚えてなさい! アイリーンは捨て台詞を残し、兄姉に連れ去られた。
このままルイの腕の中で眠ってしまいたいが、そうもいかない。この騒動は人為的なものだと思うから、厳しい表情になった。
「白蛇神様、何か話があるのでは?」
神の一柱への敬語は消えた。確信があるため、アイリーンは強く出る。普段の親しく振る舞う時とも、声色が違った。こんあ危険な穢れを外へ放とうとするなんて。むっとした顔で詰め寄った。
父セイランが何か言いたそうだが、主犯は白蛇神様だ。アイリーンの鋭い勘と指摘に、するすると小型化した白蛇神はとぐろを巻いた。じっと見つめる赤い瞳に、アイリーンの青い瞳が対峙する。
瞬きを知らぬ白蛇神は、ちろりと赤い舌を見せた。鋭い牙が覗き、一瞬で距離を飛ぶ。油断していたココが叫ぶのも、慌てたネネが飛び出すのも間に合わなかった。
『リン!』
白い指先に白蛇神の牙が刺さる。すぐに抜かれたが、アイリーンは目を見開いて固まった。
無礼な振る舞いを咎められたように見える。だが、セイランは額を押さえて呻いた。巫女の能力が高いアオイも、悲鳴をあげる。皇太子シンは状況を判断しようと、集まった人々の反応を窺った。
「もうっ! どうするのよ!!」
『構わぬではないか、二柱も三柱も同じこと』
「全然違うわ」
噛み付いた指から傷が消えていく。ルイは目を見開いて、不思議なやり取りを眺めた。何が起きているのか、わからない。その上、誰が敵で味方かも判別できなかった。
『我と契約すれば、恩恵があるぞ……呪いの解除もその一つ』
呪いという不吉な響きに、シンが肩を揺らした。アイリーンへ視線が集中する。家族が心配する中、カシャンと何かが壊れる音がした。数回、音が繰り返された後、アイリーンの霊力が高まる。
「私って呪われてたの?」
きょとんとした顔で首を傾げる彼女は、自覚がなかった。己を縛る鎖に気づかなかったのだ。呪いと拮抗するため、霊力の三割近くが消費されていた。その霊力が戻っている。アイリーンを縛る呪いが解けた証拠だった。
「ああ、外戚共に呪われておった」
帝の一言で、集まった人々がざわついた。外戚と表現されるなら、シン、アオイ、ヒスイの母親の実家だ。アイリーンの後ろ盾はすでに消えている。兄姉の表情がすっと凍り付いた。
可愛い妹を傷つけていたと知って、平然とできるほど冷めていない。それぞれに報復に動くだろう。だが今は、まず彼女の功績を褒めて、無事を喜びたかった。
「リン!」
「ケガはないの?」
「役に立てなくてごめんね」
騒動を知って駆けつけたヒスイも交え、三人に抱きつかれた。助けを求めてルイに手を伸ばすも、彼はあっさり見捨てた。
「仲のいい家族で結構だ」
にやりと笑う表情はちょっと意地悪で、わかっていて見捨てたと語っていた。あとで覚えてなさい! アイリーンは捨て台詞を残し、兄姉に連れ去られた。
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