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第97話 乙女のピンチにヒーロー参上
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街の中で、偶然アイリーンを見かけた。呼び止めようとしたルイは、勢いよく走る彼女に驚く。綺麗なグラデーションの青い髪を振り乱し、全力疾走だった。話しかけ損ねてしまう。彼女が向かう先に目を向け、背筋がぞくりと震えた。
皇族の屋敷がある方角が黒く煙っていた。火事ではない。あれは何らかの呪いだ。じわじわと侵食するように広がる黒に、アイリーンは立ち向かう気だろう。何か手伝えるはずだ。以前、禍狗と戦った時も炎の剣は効果があった。
学校の寮へ駆け込み、押し入れの奥に立てかけた剣を引き出す。街中を走り抜けるため、上着を被せて隠した。もし皇族の屋敷が呪いの発生源なら、前回バローと通った道が近い。記憶を手繰りながら、全力で走った。フルール大陸と違い、倭国は体が重い。
地下に眠るドラゴンの恩恵を受けて育ったルイにとって、この地は相性が悪かった。魔力も魔法も弱まる上、体力も落ちる。それでも、師匠に叩きこまれた剣技は健在だった。
共闘して気づいたのは、巫女の強さを発揮するには時間が掛ること。魔力とは違う力を振るうため、神々の力を引き出す呪文がある。巫女だから違う名称なのだろうが、呪文を唱え終わるまで力は発揮できなかった。ならば、時間稼ぎであっても剣術は役立つはず。
追いついた門前で、アイリーンは白い子犬を下ろした。何か言い聞かせて飛び込む。息が切れた状態で距離があるので、見える位置にいたが見送ってしまった。門番は気を失ったのか、倒れている。その脇をすり抜けようとして、ルイは子犬に呼び止められた。
『僕を連れてって、役に立つよ』
「喋る、犬?」
尻尾を振る子犬は、さきほどアイリーンが置いていった。その理由は不明だが、言葉通り子犬から力を感じる。戦闘をさせるには小さいが、連れて行こうか。
深く考えるより早く、ぼんやりした何かに背を押された。この子犬を連れて行かなくては……変な使命感が湧いて、ひょいっと抱き上げる。そのまま中へ飛び込んだ。倒れている女性を数人見つけるが、アイリーンではない。髪色で見分けて、奥へ走った。
「っ! いけない!」
分散してしまう。アイリーンは両手を組んで印を作る。複雑な形ではないが、逃げようと足掻く闇を捕まえた。
「アイリーン!」
叫ぶルイの声に驚く。この場にいるわけがないと思いながら振り返り、剣の鞘を払うルイの姿に目を見開いた。
「お願い、時間を稼いで」
姉アオイでは荷が重い。これ以上穢れが広がらないよう、防ぐので手一杯だった。灰色に塗り替えられた世界には、父や兄の姿も見える。なぜか白蛇神様もいた。
膨張する靄はルイにも見えているようだ。ならば、と援軍を利用することにした。
「承知した」
返したルイが、綺麗な姿勢で剣を横に振る。斬られた穢れが、甲高い声で悲鳴を上げた。霊力の弱いルイは聞こえないようだ。気にせず立ち向かう。その間に、アイリーンは毛を逆立てるココに合図を送った。
「祓うわよ!」
皇族の屋敷がある方角が黒く煙っていた。火事ではない。あれは何らかの呪いだ。じわじわと侵食するように広がる黒に、アイリーンは立ち向かう気だろう。何か手伝えるはずだ。以前、禍狗と戦った時も炎の剣は効果があった。
学校の寮へ駆け込み、押し入れの奥に立てかけた剣を引き出す。街中を走り抜けるため、上着を被せて隠した。もし皇族の屋敷が呪いの発生源なら、前回バローと通った道が近い。記憶を手繰りながら、全力で走った。フルール大陸と違い、倭国は体が重い。
地下に眠るドラゴンの恩恵を受けて育ったルイにとって、この地は相性が悪かった。魔力も魔法も弱まる上、体力も落ちる。それでも、師匠に叩きこまれた剣技は健在だった。
共闘して気づいたのは、巫女の強さを発揮するには時間が掛ること。魔力とは違う力を振るうため、神々の力を引き出す呪文がある。巫女だから違う名称なのだろうが、呪文を唱え終わるまで力は発揮できなかった。ならば、時間稼ぎであっても剣術は役立つはず。
追いついた門前で、アイリーンは白い子犬を下ろした。何か言い聞かせて飛び込む。息が切れた状態で距離があるので、見える位置にいたが見送ってしまった。門番は気を失ったのか、倒れている。その脇をすり抜けようとして、ルイは子犬に呼び止められた。
『僕を連れてって、役に立つよ』
「喋る、犬?」
尻尾を振る子犬は、さきほどアイリーンが置いていった。その理由は不明だが、言葉通り子犬から力を感じる。戦闘をさせるには小さいが、連れて行こうか。
深く考えるより早く、ぼんやりした何かに背を押された。この子犬を連れて行かなくては……変な使命感が湧いて、ひょいっと抱き上げる。そのまま中へ飛び込んだ。倒れている女性を数人見つけるが、アイリーンではない。髪色で見分けて、奥へ走った。
「っ! いけない!」
分散してしまう。アイリーンは両手を組んで印を作る。複雑な形ではないが、逃げようと足掻く闇を捕まえた。
「アイリーン!」
叫ぶルイの声に驚く。この場にいるわけがないと思いながら振り返り、剣の鞘を払うルイの姿に目を見開いた。
「お願い、時間を稼いで」
姉アオイでは荷が重い。これ以上穢れが広がらないよう、防ぐので手一杯だった。灰色に塗り替えられた世界には、父や兄の姿も見える。なぜか白蛇神様もいた。
膨張する靄はルイにも見えているようだ。ならば、と援軍を利用することにした。
「承知した」
返したルイが、綺麗な姿勢で剣を横に振る。斬られた穢れが、甲高い声で悲鳴を上げた。霊力の弱いルイは聞こえないようだ。気にせず立ち向かう。その間に、アイリーンは毛を逆立てるココに合図を送った。
「祓うわよ!」
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