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第89話 初デートは甘じょっぱい
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食べたことがない味だが、本当に美味しかった。甘いのにしょっぱい。アイリーンの話によれば「みたらし団子」と呼ぶらしい。名称が聞き取りづらく、最後は紙に書いてもらって覚えた。
「ルイって凄いのね。もう読み書きを覚えたなんて」
褒められれば嬉しくなる。最近自覚した恋心が、じわじわと喜びで発熱する感じだ。恥ずかしいような、不思議な感覚に頬が緩んだ。
「学校に通うのに必要だったから、な」
かなり頑張って覚えたが、あの頃の努力に感謝だ。ニコラと頑張った甲斐があった。ちなみにドナルドは最低限のかなが読み書きできる程度で、漢字まで手が回らない。最近は剣術や格闘に関する漢字だけ覚えているらしい。
「学校か。私は通ってないんだけど、どんな感じ?」
話を向ける彼女に、いろいろと話して聞かせた。驚いたことや新しく覚えたこと、それからこの国で習う予定まで。
目を輝かせて話を聞くアイリーンは、羨ましそうに何度も頷いた。その姿に、もしかして学校に通いたいのでは? と疑問を持つ。兄姉が彼女を甘やかしているのなら、手元におきたくて通学を阻害したのか。
「どうして学校に通えないんだ?」
「仕方ないわ、私も皇族だもの」
「私、も?」
奇妙な言い方だ。ルイは貴族が通う学院を出ているが、もし教師がついて通わなかったとしても「俺も王族だから」とは言わない。その言い方に、嫌な予想が頭を掠めた。
皇族に相応しくないと、誰かに言われたのか? だから「こんな私だって」という意味で、その言い方を選んだのかも。深読みしすぎかと迷いながら、自然と疑問が口に出ていた。
「ええ、私は巫女の能力で生かされているの」
本当は皇族失格なのよ。ぽろっと溢した後、慌てて口を手で覆った。誤魔化すように笑顔を作って、団子を頬張る。目を見開いたルイはそれ以上聞かなかった。彼女は言いたくなかっただろうし、誰かに知られたくなかったはず。
ここで問い詰めたって、とぼけて答えない。ならば、別の人に尋ねるまでだ。まあ、会えるかどうかは不明だが。
「そういや、いつも一緒の狐は?」
話を故意に逸らすルイにほっとしながら、アイリーンはツインテールの毛先を指でくるりと巻いた。
「ココなら、置いてきたわ。ネネが一緒に出かけたがるから、お留守番を頼んだ……ああっ! いけない、お土産のお稲荷さんを買わなくちゃ」
「おいなりさん……」
それって人の名前なのでは? あの狐は人を食べるのか。いや、落ち着け。さん付けだからって、個人名とは限らない。
「おじさん、また来るね!」
ルイが食べ終わった串を置くのを確認し、お金をお盆に並べる。彼の手首を掴んで、忙しく立ち上がった。奥の暖簾をくぐる店主は、またゆっくりおいでと見送る。
手を引くアイリーンは一度足を止めると、ルイと手を繋ぎ直した。そのまま路地の奥を進み、突き抜ける形で別の大通りに出る。この時点で、ルイは学校の方角を見失っていた。
「ルイって凄いのね。もう読み書きを覚えたなんて」
褒められれば嬉しくなる。最近自覚した恋心が、じわじわと喜びで発熱する感じだ。恥ずかしいような、不思議な感覚に頬が緩んだ。
「学校に通うのに必要だったから、な」
かなり頑張って覚えたが、あの頃の努力に感謝だ。ニコラと頑張った甲斐があった。ちなみにドナルドは最低限のかなが読み書きできる程度で、漢字まで手が回らない。最近は剣術や格闘に関する漢字だけ覚えているらしい。
「学校か。私は通ってないんだけど、どんな感じ?」
話を向ける彼女に、いろいろと話して聞かせた。驚いたことや新しく覚えたこと、それからこの国で習う予定まで。
目を輝かせて話を聞くアイリーンは、羨ましそうに何度も頷いた。その姿に、もしかして学校に通いたいのでは? と疑問を持つ。兄姉が彼女を甘やかしているのなら、手元におきたくて通学を阻害したのか。
「どうして学校に通えないんだ?」
「仕方ないわ、私も皇族だもの」
「私、も?」
奇妙な言い方だ。ルイは貴族が通う学院を出ているが、もし教師がついて通わなかったとしても「俺も王族だから」とは言わない。その言い方に、嫌な予想が頭を掠めた。
皇族に相応しくないと、誰かに言われたのか? だから「こんな私だって」という意味で、その言い方を選んだのかも。深読みしすぎかと迷いながら、自然と疑問が口に出ていた。
「ええ、私は巫女の能力で生かされているの」
本当は皇族失格なのよ。ぽろっと溢した後、慌てて口を手で覆った。誤魔化すように笑顔を作って、団子を頬張る。目を見開いたルイはそれ以上聞かなかった。彼女は言いたくなかっただろうし、誰かに知られたくなかったはず。
ここで問い詰めたって、とぼけて答えない。ならば、別の人に尋ねるまでだ。まあ、会えるかどうかは不明だが。
「そういや、いつも一緒の狐は?」
話を故意に逸らすルイにほっとしながら、アイリーンはツインテールの毛先を指でくるりと巻いた。
「ココなら、置いてきたわ。ネネが一緒に出かけたがるから、お留守番を頼んだ……ああっ! いけない、お土産のお稲荷さんを買わなくちゃ」
「おいなりさん……」
それって人の名前なのでは? あの狐は人を食べるのか。いや、落ち着け。さん付けだからって、個人名とは限らない。
「おじさん、また来るね!」
ルイが食べ終わった串を置くのを確認し、お金をお盆に並べる。彼の手首を掴んで、忙しく立ち上がった。奥の暖簾をくぐる店主は、またゆっくりおいでと見送る。
手を引くアイリーンは一度足を止めると、ルイと手を繋ぎ直した。そのまま路地の奥を進み、突き抜ける形で別の大通りに出る。この時点で、ルイは学校の方角を見失っていた。
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