【完結】神狐の巫女姫☆妖奇譚 ~封印された妖を逃がした陰陽の巫女姫、追いかけた隣大陸で仮面王子に恋しました~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
89 / 159

第88話 マナーも遠慮も不要

しおりを挟む
 裏も裏、誰も通らなそうな細い路地だ。店は営業しているのか、休んでいるのか。倭国の飲食店は営業していると暖簾を出す。ここまでは理解しているルイでも、判断に迷った。

 まず、店は一軒家の玄関に見える。一般の家庭なのでは? と感じた。当然ながら暖簾は見当たらず、代わりに小さな四角い旗が出ていた。旗なのにポールがなくて、上からぶら下げてある。三つの丸に棒が刺さった絵が描かれていた。

「ここ?」

「そうよ、団子の看板が出てるでしょ」

 言われて、あの小さな旗は看板なのかと頷いた。もっときちんとした看板を出せばいいのに。フルール大陸では考えられないが、海を渡った異国なら普通なのかも。深く考えず、そういうものだと受け入れた。

 倭国と自国の違いは大き過ぎて、悩むより受け入れるほうが早い。ニコラも丸暗記で授業に対応したので、ルイも真似しようと決めた。とにかく大量の知識を詰め込んで、持ち帰らなくてはならないのだから。

「おじさん、いる?」

「おお、リンちゃんかい。お団子あるよ、ほら……隣はお友達かな?」

「うん、ルイっていうの。彼の分もお願い」

 年老いた店主は、にこにこと笑顔を振り撒きながら準備を始めた。店内には小さなテーブル席が三つだけ。その一つは先客で埋まっていた。

「リンちゃん、久しぶりね」

「オウメさん、忙しかったのよ。隣大陸まで行ったんだから」

 ルイはぎょっとしてアイリーンを見つめる。繋いだ手をそのままに、アイリーンは長椅子に座った。引っ張られる形で隣に腰掛けるルイに、オウメと呼ばれた女性の大笑いが届く。

「やっだ、隣大陸とか……リンちゃんったら」

 冗談だと思ったらしい。一般的にはそうか。ホッとしながら、彼女達を眺めた。ルイの母親くらいの年代と思われるオウメは、民族衣装だった。倭国は着物と呼ぶガウンに似た民族衣装があり、とても華やかだ。

 普段着はさすがに金銀や刺繍こそ少ないものの、綺麗な柄や絵が広がっていた。立ち上がって、すっすと指先で襟元や袖を直し、オウメは会釈して出て行った。

「支払いは?」

「あそこに置いてあるわ」

 確かにオウメが座っていた場所に、白い紙と金属製の貨幣が置かれている。というか、手渡しでないのか? 支払い確認もなしに客を見送るとか、考えられない。自国と違い過ぎる文化に、ルイは目を見開いた。

 治安がいいとは思っていたが、お金を誰も盗まない。店主も食い逃げの心配をせず、客も当たり前のように置いていく。こんな国は初めてだ。まったく新しい世界に来たような、不思議な感覚でルイは大きく息を吐き出した。

「お待たせしたね」

 トレイに載せたお茶の横に、入り口の旗と同じ形のお菓子が並ぶ。どうやって食べるのか。尋ねる前に、アイリーンは目の前で大きな口を開けた。ぱくりと上の一つを食べて、頬を緩める。

「おいひぃはひょ?」

 口の中に物が入っているのに話すアイリーンは、どうぞと勧めてくる。行儀の良さもマナーも不要だな。そう判断して、ルイは真似をして齧り付いた。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~

小狸日
ファンタジー
交通事故に巻き込まれて、異世界に転移した拓(タク)と浩司(コウジ) そこは、剣と魔法の世界だった。 2千年以上昔の勇者の物語、そこに出てくる勇者の遺産。 新しい世界で遺跡探検と異世界料理を楽しもうと思っていたのだが・・・ 気に入らない異世界の常識に小さな喧嘩を売ることにした。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

王さまに憑かれてしまいました

九重
ファンタジー
H28.7.28書籍化に伴い本編を引き下げダイジェスト版に置き換えました。 このお話をお読みいただいた皆さまに心から感謝いたします。どうかこれからもよろしくお願いいたします。 ごく当たり前に、目の前を通り過ぎた早馬に乗せられていた瀕死のけが人のために祈りを捧げた普通の平民コーネリア。そんな彼女の前に、死んでしまったそのけが人が、押しかけ守護霊として現れた!しかもそのけが人は、なんとこの国の国王(故人)だった。これは、望んでもいないのに、王さまに守護霊として憑かれてしまった少女の疲れるお話である。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

処理中です...