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第84話 互いの利益に繋がるかも
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話し合いは二時間ほど続いたが、アイリーンは途中で退席した。というのも、神狐のココはお腹が空いたと騒ぐし、子犬姿のネネも散歩がしたいと訴える。動物姿でも神様の希望だ。巫女としては叶える義務があった。
「じゃあね、ルイ。また今度」
「あ、ああ」
手を振って出ていく彼女を見送り、あれこれと裏を読む会話が始まった。儀式の邪魔をした詫びはするが、退学や国外退去は困る。そんな事情を説明したところ、思わぬ方向へ話が転がった。
「倭国としては、他国との交流を積極的に進める予定です。フルール大陸とも、今後は貿易を始めようかと……」
皇太子シンの言葉に、バローが目を輝かせた。彼にしたら大商談だ。こうして皇族とお近付きになったのだし、ここは縁をしっかり繋いでおきたい。
「それだったら、あの光が入る障子は欲しいです」
模様の美しい障子紙や、格子に組まれた細い桟は人気が出る。そう伝えれば、さらに詳細な打ち合わせが始まった。襖の絵も続き絵だったりすれば、貴族が好んで使いそうだ。扇、衣装、髪飾り……宝飾品などは珍しく希少価値が高いほど売れる。
政に参加するアオイは、損得を計算し始めた。隣で欠伸をしたヒスイは、そっと部屋から出ていく。他国の衣装やみたこともない宝石は興味があるものの、細かな計算や裏を読む会話は疲れる。あとで結果だけ尋ねたらいい、とアイリーンを追った。
「では詳細は後日」
「いい商談になることを祈っております」
なぜか、意気投合して握手を交わした。入り口から忍び込み、途中で罪人として投獄され、最後は客人として見送られる。屋敷から牛車で送り届けられたルイは、はっとした。アイリーンとの次の約束はどうしたら? 貿易の話はバローが担当するし、訪ねていく名目を作らなければ!
うっかりしていたと後悔するルイに、ニコラは泣きついた。ちょっと舞いを見に行くと言って外出したきり、王子が戻らない。国になんと説明したら……丸一日泣いて過ごしたようだ。
ドナルドは探しに行くと息巻いて出ていき、まだ帰ってこない。たぶん、道に迷ったのだろう。探しに出ようとしたところに、倭国の若者に連れられて戻ってきた。
「ルイ、帰ってたのか」
「心配させたな、ドナルド。悪かった」
謝った後、送ってくれた若者にもお礼を伝えた。結局のところ、街を彷徨く彼の姿に同級生が気づいて、声をかけたらしい。夜も遅くなったので、門限があるからと送ってもらった。なんとも情けない結果だが、三人三様で個性的だ。
明日の学校の準備を整え、布団に潜り込む。ベッドもいいが、畳の生活にも慣れてきた。片付けるとベッドの場所を別のことに使えるのは、合理的だ。こういった文化の違いを、お互いに必要な分だけ取り入れたら、互いに発展するはず。
倭国へ渡ったことで、新しい気づきを得た。兄アンリへいい土産が出来たな。交流が進めば、いずれはアイリーンと婚約も可能かも。打算が滲んだ口元が緩むのを、きゅっと引き結んで目を閉じる。いい夢が見られそうだった。
「じゃあね、ルイ。また今度」
「あ、ああ」
手を振って出ていく彼女を見送り、あれこれと裏を読む会話が始まった。儀式の邪魔をした詫びはするが、退学や国外退去は困る。そんな事情を説明したところ、思わぬ方向へ話が転がった。
「倭国としては、他国との交流を積極的に進める予定です。フルール大陸とも、今後は貿易を始めようかと……」
皇太子シンの言葉に、バローが目を輝かせた。彼にしたら大商談だ。こうして皇族とお近付きになったのだし、ここは縁をしっかり繋いでおきたい。
「それだったら、あの光が入る障子は欲しいです」
模様の美しい障子紙や、格子に組まれた細い桟は人気が出る。そう伝えれば、さらに詳細な打ち合わせが始まった。襖の絵も続き絵だったりすれば、貴族が好んで使いそうだ。扇、衣装、髪飾り……宝飾品などは珍しく希少価値が高いほど売れる。
政に参加するアオイは、損得を計算し始めた。隣で欠伸をしたヒスイは、そっと部屋から出ていく。他国の衣装やみたこともない宝石は興味があるものの、細かな計算や裏を読む会話は疲れる。あとで結果だけ尋ねたらいい、とアイリーンを追った。
「では詳細は後日」
「いい商談になることを祈っております」
なぜか、意気投合して握手を交わした。入り口から忍び込み、途中で罪人として投獄され、最後は客人として見送られる。屋敷から牛車で送り届けられたルイは、はっとした。アイリーンとの次の約束はどうしたら? 貿易の話はバローが担当するし、訪ねていく名目を作らなければ!
うっかりしていたと後悔するルイに、ニコラは泣きついた。ちょっと舞いを見に行くと言って外出したきり、王子が戻らない。国になんと説明したら……丸一日泣いて過ごしたようだ。
ドナルドは探しに行くと息巻いて出ていき、まだ帰ってこない。たぶん、道に迷ったのだろう。探しに出ようとしたところに、倭国の若者に連れられて戻ってきた。
「ルイ、帰ってたのか」
「心配させたな、ドナルド。悪かった」
謝った後、送ってくれた若者にもお礼を伝えた。結局のところ、街を彷徨く彼の姿に同級生が気づいて、声をかけたらしい。夜も遅くなったので、門限があるからと送ってもらった。なんとも情けない結果だが、三人三様で個性的だ。
明日の学校の準備を整え、布団に潜り込む。ベッドもいいが、畳の生活にも慣れてきた。片付けるとベッドの場所を別のことに使えるのは、合理的だ。こういった文化の違いを、お互いに必要な分だけ取り入れたら、互いに発展するはず。
倭国へ渡ったことで、新しい気づきを得た。兄アンリへいい土産が出来たな。交流が進めば、いずれはアイリーンと婚約も可能かも。打算が滲んだ口元が緩むのを、きゅっと引き結んで目を閉じる。いい夢が見られそうだった。
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