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第78話 なんで教えてくれないのよ
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父セイランは倭国の帝で、最高権力者だ。罪人達を連れてくるよう命じ、アイリーンを連れてさっさと地下牢から出て行った。
「地下はやはり冷えるね」
「あ、はい」
考える内容が多すぎてパンクした娘を、セイランは愛おしげに見つめた。気づかれないよう、あれこれ手を回して助けてきた。それも含め、彼女に知らせる気はない。皇帝が贔屓したとバレたら、外戚が煩い。
倭国の帝位は霊力の有無より、血統の正しさを優先してきた。本人が霊力を発動できなくとも、素養があれば子孫に伝達されるはず。その考えが通用した。実際、血筋正しい皇族に霊力のない子が生まれるのは珍しい。微量でも扱えるのが普通だった。
一番強い力を持ち、その純粋な明るさで神々まで虜にする。幼い頃に霊力を暴走させた程度のことで、この子の未来を縛り付ける気はなかった。だから理由をつけて、外の世界を見せる。
まさか夫候補を連れてくるとまで思わなかったが。苦笑するセイランへ、アイリーンは真っ直ぐな視線を向けた。こてりと首を傾げる仕草は、母親そっくりだ。天真爛漫で姫らしくない女性だった。彼女によく似たアイリーンは、心配そうに尋ねる。
「あの二人、どうなるんですか?」
「願いは決まったんだろう。ここで使うかい?」
あの二人を自由にしてくれ、そう願ってもいい。本当は自分が自由になるために使ってもらいたいが、彼女はそちらを選ばない。分かっていて、娘に問う父は眉尻を下げた。敏感に察したアイリーンは、にっこりと笑う。
「いいえ、もう少しあとで」
見極めてからにするわ。そう重なって聞こえた。きっと神々の悪戯だろう。帝セイランは周囲を見まわし、廊下の隅にいる白蛇に気づいた。どうやらあの神様は何かを企んでいるようだ。乗ってみるのも面白い。頷いたセイランヘ白蛇はちらちらと舌を見せた。
「この部屋だ」
示した部屋に二人が入り、後ろを神狐ココが追いかける。少し離れて歩いていたネネが、閉じそうな襖に突進した。ぎりぎり滑り込み、ぺたんと畳に座る。
謁見で使う広間ではなく、親族や友人を招いた際に使う部屋だった。皇族であっても、親族相手なら顔を晒す。そのためこの部屋の御簾は巻き上げられていた。
連れてこられた二人は、腕を拘束される。だがそれ以上の束縛はなかった。畳の上でバローはきっちり正座する。倭国との交流の長さが窺えた。
「この度はご迷惑をおかけしました」
先に詫びるバローの隣で、ルイはアイリーンを見つめていた。突き刺すような視線が、彼女に注がれる。アイリーンは居心地の悪さに目を逸らした。膝の上に陣取ったココの立派な尻尾に、ネネが戯れている。
「あの……リン、だよね? 皇族だったなんて」
「それを言うなら、私も王子様だなんて知らなかったわ! なんで教えてくれないのよ」
興味深そうにセイランは二人を見比べる。広げた扇で顔の大半を隠して、父は沈黙を選んだ。
「地下はやはり冷えるね」
「あ、はい」
考える内容が多すぎてパンクした娘を、セイランは愛おしげに見つめた。気づかれないよう、あれこれ手を回して助けてきた。それも含め、彼女に知らせる気はない。皇帝が贔屓したとバレたら、外戚が煩い。
倭国の帝位は霊力の有無より、血統の正しさを優先してきた。本人が霊力を発動できなくとも、素養があれば子孫に伝達されるはず。その考えが通用した。実際、血筋正しい皇族に霊力のない子が生まれるのは珍しい。微量でも扱えるのが普通だった。
一番強い力を持ち、その純粋な明るさで神々まで虜にする。幼い頃に霊力を暴走させた程度のことで、この子の未来を縛り付ける気はなかった。だから理由をつけて、外の世界を見せる。
まさか夫候補を連れてくるとまで思わなかったが。苦笑するセイランへ、アイリーンは真っ直ぐな視線を向けた。こてりと首を傾げる仕草は、母親そっくりだ。天真爛漫で姫らしくない女性だった。彼女によく似たアイリーンは、心配そうに尋ねる。
「あの二人、どうなるんですか?」
「願いは決まったんだろう。ここで使うかい?」
あの二人を自由にしてくれ、そう願ってもいい。本当は自分が自由になるために使ってもらいたいが、彼女はそちらを選ばない。分かっていて、娘に問う父は眉尻を下げた。敏感に察したアイリーンは、にっこりと笑う。
「いいえ、もう少しあとで」
見極めてからにするわ。そう重なって聞こえた。きっと神々の悪戯だろう。帝セイランは周囲を見まわし、廊下の隅にいる白蛇に気づいた。どうやらあの神様は何かを企んでいるようだ。乗ってみるのも面白い。頷いたセイランヘ白蛇はちらちらと舌を見せた。
「この部屋だ」
示した部屋に二人が入り、後ろを神狐ココが追いかける。少し離れて歩いていたネネが、閉じそうな襖に突進した。ぎりぎり滑り込み、ぺたんと畳に座る。
謁見で使う広間ではなく、親族や友人を招いた際に使う部屋だった。皇族であっても、親族相手なら顔を晒す。そのためこの部屋の御簾は巻き上げられていた。
連れてこられた二人は、腕を拘束される。だがそれ以上の束縛はなかった。畳の上でバローはきっちり正座する。倭国との交流の長さが窺えた。
「この度はご迷惑をおかけしました」
先に詫びるバローの隣で、ルイはアイリーンを見つめていた。突き刺すような視線が、彼女に注がれる。アイリーンは居心地の悪さに目を逸らした。膝の上に陣取ったココの立派な尻尾に、ネネが戯れている。
「あの……リン、だよね? 皇族だったなんて」
「それを言うなら、私も王子様だなんて知らなかったわ! なんで教えてくれないのよ」
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