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第76話 お父様の意地悪っ!

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 キエが皇太子シンに相談し、あれこれ手を回した結果……思わぬ形でルイとの再会が実現した。そう、予想外の人の付き添いで。

「お父様がいらっしゃるとは思わなかったわ」

「おや、私がいては困る話しでもするのかな?」

 話し方や口調が兄そっくり。ただ、シンと違って父は厳しい。アイリーンを甘やかす兄姉を止めるのは、いつも父だった。帝である父親が同行するなら、仕事を押し付けられた兄シンは動けない。下手すれば、姉アオイも手伝いで拘束されるだろう。

 ヒスイ姉様を誘ってみる? 断られる予感しかないけれど。うーんと考えながら、父の斜め後ろを歩いた。抱っこしたのはココ、足下を歩くのはネネである。狗と狐を連れた巫女に、擦れ違う侍女達は敬意を示した。

 これは諦めて従うほうが害はないかも。ワンピースの裾を揺らして後ろを歩く娘に、父セイランは複雑な想いで息を吐いた。皇族として最重要な能力は、霊力だ。国の統治や戦の采配など、臣下に任せればよい。何をさておき、神々と倭国を繋ぐ強い絆を築くこと。その意味で、アイリーンは最適だった。

 誰もが羨み憧れるほど大きな霊力、愛らしい外見と健康な体。神々の化身と契約する有能な巫女は、歴史上一代に一人と伝えられるほど少ない。神狐と契約しただけでなく、呪いを受けながら狗神を得た。稀有な巫女なのは間違いない。

 できたら、無能であればよかった。可愛いだけの末っ子でいてくれたら、これほど気に揉まずに済んだだろうに。

「二柱の契約は歴史に残るだろうな」

「そう思います。皇族が頭を悩ませてきた禁足地の穢れも浄化済みですから、実力を発揮する場はないでしょうけれど」

「硬い口調だね。もっと崩していいよ」

 本当に、兄シンに似ている。いや、逆で父に兄が似たのだ。同族嫌悪なのか、互いに仲が悪い。よく微笑みながら、嫌みの欧州をしている場面を見かけたものだ。アイリーンは少し考えて、笑顔を向けた。背中越しで見えないのを承知の上で、明るい声を出す。

「ご褒美が欲しいわ」

「褒美がもらえる話ならいいけれどね」

 ルイの開放をお願いしたいので、出来たら事前に懐柔して言質を取りたい。アイリーンは様々な言葉を駆使して強請った。さらりとかわす父は、さすが皇帝である。全く通用しないことに、アイリーンは唇を尖らせた。

「お父様の意地悪っ!」

「ははっ、仕方ないね。一つだけ叶えてあげよう」

 よく考えて発言するように。念を押されても、最初から一つしか願う気はなかった。解放しようとした狗神ネネには感謝している。いつも助けてくれる神狐ココは、能力が制限されて申し訳ないなと思うし、大好きだ。

 二匹は私が亡くなれば、自動的に神格が回復されるから心配していない。寿命の違いがあるから、神々に大きな不利益はなかった。でもルイは違う。隣大陸の人だし、家族もいるだろう。無事に帰してあげたい。

 地下へ降りる階段の手前で、父が足を止めた。

「願いは決まったかい?」
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