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第73話 今回だけですよ
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目が覚めて、ぼんやりしながら水を受け取った。包帯が巻かれた手は滑る。しっかり両手で掴んで傾けた。キエが差し出したコップの中身を干して、また追加で水をもらう。三杯目は温かいお茶で、これまた半分ほど飲んだところで意識がはっきりした。
「……侵入したルイは?」
ようやく働き出した頭がはじき出したのは、捕らえられて引きずられるルイの姿だった。狗神様に何かあった心配はしない。もし瘴気が残っていたら、他の神様が飛んで来ると思うし。叩き起こされてもう一度舞ってる頃よね。
「現在まだ牢内です」
キエが答える間に、枕元からココが這い出てきた。手足を伸ばしてゆっくり欠伸をして、ココは再び寝転んだ。腹を上にする姿勢なので、顔を埋めてしっかり補充する。やっぱり神様の化身はいい匂いがするわ。毛皮もふわふわだし、絶対に癒し成分が出ているはず。
「会える、かな」
こてりと首をかしげて尋ねる。出してほしいと願ったら拒絶されると分かっていた。だから自分が出向くと伝えてみる。眉根を寄せたキエはしばらく睨みあった後、仕方なさそうに肩を落とした。
「皇太子殿下にお伺いしておきます」
伝えるだけです。そんな副音声が聞こえるわ。嫌だと示すのに、応えてくれる。ありがとうとお礼を口にした。いつだってそう。キエは嫌われるのを承知で、厳しい道を示す。本当は嫌な役目だと思うのに、彼女は私にも優しかった。叱られるのは怖いけれど。
「……はぁ、今回だけですよ。何とか致します」
そういうつもりじゃなかったんだけど、嬉しいから頷いた。ここからは軽いお説教と安静にするよう伝える内容で、小一時間も拘束される。でもキエの表情が怒ってるのに、なんだか照れているみたいで擽ったいわ。
一人になってまた眠って、起きたら夕方だった。丸一日寝ていたのかしら。顔を見せた侍女に尋ねたら、二日目の夕方だったわ。驚いたけれど、それだけ霊力を消耗したって意味だ。キエに伝言を頼み、姉達へ挨拶に回った。ココはまだ休むと言って、布団で丸くなる。
奉納舞いの控えは簡単そうだけれど気を遣う。ヒスイ姉様は霊力が低いから、余計に大変だと思う。神々が四隅を固める舞台なんて、肩が凝るもの。アイリーンは次姉に挨拶して立ち去るつもりだったが、舞台を見に行くならと同行を申し出られた。
断る理由もないので、長姉のアオイの部屋へ足を向ける。ここでも体調を心配され、撫でまわされた後……アオイ姉様が同行すると言い出した。普段は仲の悪い姉達なのに、アイリーンが絡むと過保護になる。くすくす笑いながら廊下を進み、舞台へ足を踏み入れた。
庇が覆う舞台の上は片付けられ、誰もいない。しんとした場にアイリーンがぺたんと座った。ほぼ中央の位置に座る彼女の前に、白い狗が現れる。
「狗神様、お加減はいかがですか。瘴気は湧いてきませんか?」
『うん、ありがとう。何ともないよ。こんなに体が軽くて気持ちが前向きなのは、本当に久しぶりだ。それで……ちょっといいかな』
神様に「いいかな」と問われたら、巫女は断らない。頷いたアイリーンの額に、狗神の鼻先が近づいた。
『こらっ! 僕のリンなのに!!』
駆け込んだ神狐が叫ぶも遅く、咄嗟に目を閉じたアイリーンの額に鼻先が押し当てられた。
「……侵入したルイは?」
ようやく働き出した頭がはじき出したのは、捕らえられて引きずられるルイの姿だった。狗神様に何かあった心配はしない。もし瘴気が残っていたら、他の神様が飛んで来ると思うし。叩き起こされてもう一度舞ってる頃よね。
「現在まだ牢内です」
キエが答える間に、枕元からココが這い出てきた。手足を伸ばしてゆっくり欠伸をして、ココは再び寝転んだ。腹を上にする姿勢なので、顔を埋めてしっかり補充する。やっぱり神様の化身はいい匂いがするわ。毛皮もふわふわだし、絶対に癒し成分が出ているはず。
「会える、かな」
こてりと首をかしげて尋ねる。出してほしいと願ったら拒絶されると分かっていた。だから自分が出向くと伝えてみる。眉根を寄せたキエはしばらく睨みあった後、仕方なさそうに肩を落とした。
「皇太子殿下にお伺いしておきます」
伝えるだけです。そんな副音声が聞こえるわ。嫌だと示すのに、応えてくれる。ありがとうとお礼を口にした。いつだってそう。キエは嫌われるのを承知で、厳しい道を示す。本当は嫌な役目だと思うのに、彼女は私にも優しかった。叱られるのは怖いけれど。
「……はぁ、今回だけですよ。何とか致します」
そういうつもりじゃなかったんだけど、嬉しいから頷いた。ここからは軽いお説教と安静にするよう伝える内容で、小一時間も拘束される。でもキエの表情が怒ってるのに、なんだか照れているみたいで擽ったいわ。
一人になってまた眠って、起きたら夕方だった。丸一日寝ていたのかしら。顔を見せた侍女に尋ねたら、二日目の夕方だったわ。驚いたけれど、それだけ霊力を消耗したって意味だ。キエに伝言を頼み、姉達へ挨拶に回った。ココはまだ休むと言って、布団で丸くなる。
奉納舞いの控えは簡単そうだけれど気を遣う。ヒスイ姉様は霊力が低いから、余計に大変だと思う。神々が四隅を固める舞台なんて、肩が凝るもの。アイリーンは次姉に挨拶して立ち去るつもりだったが、舞台を見に行くならと同行を申し出られた。
断る理由もないので、長姉のアオイの部屋へ足を向ける。ここでも体調を心配され、撫でまわされた後……アオイ姉様が同行すると言い出した。普段は仲の悪い姉達なのに、アイリーンが絡むと過保護になる。くすくす笑いながら廊下を進み、舞台へ足を踏み入れた。
庇が覆う舞台の上は片付けられ、誰もいない。しんとした場にアイリーンがぺたんと座った。ほぼ中央の位置に座る彼女の前に、白い狗が現れる。
「狗神様、お加減はいかがですか。瘴気は湧いてきませんか?」
『うん、ありがとう。何ともないよ。こんなに体が軽くて気持ちが前向きなのは、本当に久しぶりだ。それで……ちょっといいかな』
神様に「いいかな」と問われたら、巫女は断らない。頷いたアイリーンの額に、狗神の鼻先が近づいた。
『こらっ! 僕のリンなのに!!』
駆け込んだ神狐が叫ぶも遅く、咄嗟に目を閉じたアイリーンの額に鼻先が押し当てられた。
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