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第69話 駄目ならこの話をばらす
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風呂敷という便利な布を教えてもらい、結び方を習った。これなら普段は畳んで持ち歩き、必要な時にさっと包んで運べる。従者に人気が出そうだ。国でも簡単に作れるし、そこそこ大きな布なので、他の用途に流用できるのもいい。
国への土産にしよう。ニコラと相談して、綺麗な柄の風呂敷を集める算段をつけた。値段が高くないため、民にも広められる。我が国の魔道具より便利な物を、倭国の民は普段使いしていた。
障子や畳、襖、風呂敷……商人に頼んで、倭国の品を大量に貿易する方法はないか。海路の安全確保が先決か。商人バローが帰国する前に立ち寄ってくれるよう、連絡を飛ばした。
忙しい中、翌日の夕方に顔を見せた彼は、思わぬ情報をくれる。やや薄暗い自室で、ひそひそと声を抑えて話し始めた。
「倭国で上位の巫女様達による儀式があるそうです。こっそり忍び込む算段をしているんですよ」
巫女の能力に興味津々のバローは、出入りの業者と交渉して見物の手筈を整えていた。浮かれてうっかり口にした彼に、ルイは自分を連れて行けと売り込む。上位の巫女が複数集まるなら、あれだけの実力者だ。リンも参加している可能性がある。
何より、儀式に興味があった。舞いと言霊だけで魔物を退け、圧倒的な強さを印象付けた巫女。紺色のツインテールを揺らす彼女の雄姿が、頭から離れなかった。もう一度会いたい。可能なら、彼女と親しくなりたい。年頃の男の子が抱く欲を、ルイも抱えていた。
「ですが」
「頼む。駄目ならこの話をばらす」
王族にあるまじき脅しは直球で、湾曲な言い方を好む上流階級らしくない。だが、この言い方がバローを動かした。バラされても次の機会を狙えばいい。バローにとって絶対に今回でなくてはならない理由はなかった。
それでも……何事にも無気力だった第二王子が、ここまで執着する。倭国への留学も巫女も、ルイが固執する何かを知りたかった。バローは人一倍好奇心が強い。好奇心が旺盛でなくては、危険な海を越えて他大陸へ渡ろうとしないだろう。
フルール大陸で十分すぎるほど稼いでいる彼が、自ら危険を冒す理由がここにある。その好奇心を刺激されたら、断る方が難しかった。うーんとしばらく唸った後、正体がバレないよう変装する条件で承諾した。
フルール大陸で使用する魔法は、ドラゴンの魔力を利用している。当然、東開大陸へ渡れば力は弱まった。ルイは魔力の不足を補うため、愛用の剣と大量の魔石を持ち込んでいる。両方とも、魔力不足を補う道具として利用可能だった。
「魔法で化けるか」
「神域なので解除されます。髪を染めていただきましょう」
にやりと笑ったバローは逆境を楽しむ気になったらしい。彼は夜のうちに準備を整え、翌朝には髪染めの粉を届けた。黒く染める粉でしっかり染めたルイは、鏡に映る姿に浮かれる。髪染めと一緒に運ばれた服に着替えると、倭国の人間っぽさが増す。
顔立ちの違いは誤魔化せないので、鼻のところまで布を巻いて隠した。目の色だけなら、混血で青や緑の瞳がいる東開大陸でも珍しくない。
「迎えは夕方でしたね」
ニコラが添付されたメモを確認する。学校の敷地の外まで出てきてほしいと記されていた。
「ああ、朝までには帰るから。具合が悪いことにしておいてくれ」
布団の中に荷物を入れて形を整え、ルイは窓の外に目をやった。日暮れまで時間がある。今夜の冒険を想像すると胸が高鳴った。彼女に会えますように。倭国式に神様へ祈ってみた。
国への土産にしよう。ニコラと相談して、綺麗な柄の風呂敷を集める算段をつけた。値段が高くないため、民にも広められる。我が国の魔道具より便利な物を、倭国の民は普段使いしていた。
障子や畳、襖、風呂敷……商人に頼んで、倭国の品を大量に貿易する方法はないか。海路の安全確保が先決か。商人バローが帰国する前に立ち寄ってくれるよう、連絡を飛ばした。
忙しい中、翌日の夕方に顔を見せた彼は、思わぬ情報をくれる。やや薄暗い自室で、ひそひそと声を抑えて話し始めた。
「倭国で上位の巫女様達による儀式があるそうです。こっそり忍び込む算段をしているんですよ」
巫女の能力に興味津々のバローは、出入りの業者と交渉して見物の手筈を整えていた。浮かれてうっかり口にした彼に、ルイは自分を連れて行けと売り込む。上位の巫女が複数集まるなら、あれだけの実力者だ。リンも参加している可能性がある。
何より、儀式に興味があった。舞いと言霊だけで魔物を退け、圧倒的な強さを印象付けた巫女。紺色のツインテールを揺らす彼女の雄姿が、頭から離れなかった。もう一度会いたい。可能なら、彼女と親しくなりたい。年頃の男の子が抱く欲を、ルイも抱えていた。
「ですが」
「頼む。駄目ならこの話をばらす」
王族にあるまじき脅しは直球で、湾曲な言い方を好む上流階級らしくない。だが、この言い方がバローを動かした。バラされても次の機会を狙えばいい。バローにとって絶対に今回でなくてはならない理由はなかった。
それでも……何事にも無気力だった第二王子が、ここまで執着する。倭国への留学も巫女も、ルイが固執する何かを知りたかった。バローは人一倍好奇心が強い。好奇心が旺盛でなくては、危険な海を越えて他大陸へ渡ろうとしないだろう。
フルール大陸で十分すぎるほど稼いでいる彼が、自ら危険を冒す理由がここにある。その好奇心を刺激されたら、断る方が難しかった。うーんとしばらく唸った後、正体がバレないよう変装する条件で承諾した。
フルール大陸で使用する魔法は、ドラゴンの魔力を利用している。当然、東開大陸へ渡れば力は弱まった。ルイは魔力の不足を補うため、愛用の剣と大量の魔石を持ち込んでいる。両方とも、魔力不足を補う道具として利用可能だった。
「魔法で化けるか」
「神域なので解除されます。髪を染めていただきましょう」
にやりと笑ったバローは逆境を楽しむ気になったらしい。彼は夜のうちに準備を整え、翌朝には髪染めの粉を届けた。黒く染める粉でしっかり染めたルイは、鏡に映る姿に浮かれる。髪染めと一緒に運ばれた服に着替えると、倭国の人間っぽさが増す。
顔立ちの違いは誤魔化せないので、鼻のところまで布を巻いて隠した。目の色だけなら、混血で青や緑の瞳がいる東開大陸でも珍しくない。
「迎えは夕方でしたね」
ニコラが添付されたメモを確認する。学校の敷地の外まで出てきてほしいと記されていた。
「ああ、朝までには帰るから。具合が悪いことにしておいてくれ」
布団の中に荷物を入れて形を整え、ルイは窓の外に目をやった。日暮れまで時間がある。今夜の冒険を想像すると胸が高鳴った。彼女に会えますように。倭国式に神様へ祈ってみた。
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