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第66話 詰め込みすぎた
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こんなに忙しくなるとは思わなかった。ルイとニコラは一週間でぐったりとベッドに沈む。休日だが動く気力がなかった。目いっぱい詰め込んだ授業を受け、帰ってからはそれぞれの教科書を交換して受けていない授業の内容を攫う。言葉にしたら簡単だが、かなり難しかった。
素地のある学習なら、ある程度追いつける。だが文字の読み書き段階で躓いた彼らにとって、未知の文化や歴史を学ぶことは負担が大きかった。道理で選択した授業のリストを提出した時、教師が不安そうな目を向けたわけだ。
理由が分かっても撤回する気になれない。この国にいられるのは二年、最高でも三年間だけ。その間にどれだけ学べるか、彼ら二人に重くのしかかる。まずドナルドは役に立たない。というか、勉学ではなく武術を持ち帰ってもらう予定だった。
運動音痴ではないが、ニコラは文官へまっしぐらだ。体を動かす授業はすべて拒んだ。その意味で、ルイが一番厳しい選択をしたのだろう。巫女や神主が行う儀式は、陰陽術に様々な要素が組み込まれている。禊や神への拝礼の挨拶、陰陽術の作法に至るまで。その幅は広かった。
体を動かす陰陽術の授業に加え、頭を使う占術なども選択した。覚える範囲が広く、倭国で素養のある者が学んでも十年近くかかる場合がある。学んだだけでは活用できず、実践して身に着けるのが一般的らしい。そういう話は先にして欲しかった。
他国から留学生を受け入れる機会は少なく、誰もが失念していたようだ。教師には、無理だと思ったら早めに授業を減らしなさい、とアドバイスを受けた。
「減らしますか?」
「……減らせる授業があるか?」
ニコラの質問へ、質問を返すルイ。マナー違反だが、正しい反応だろう。そもそも重要と思える授業しか選択していない。ドナルドがもう少し頭を使える奴なら、いくつか任せられたんだろうが……あの様子では無理だろう。
窓の外で木刀を振り回す彼の声が聞こえる。気合を入れて大木相手にケンカを売っているようだ。体を動かすだけのドナルドが一番楽、という予想外の結果になった。
「頑張るしかありませんね」
「一生分、頭を使う二年になりそうだ」
その間にリンも探さなくては……授業の一環で巫女に会える機会があると聞いた。その時に食い下がって彼女の情報を得よう。探しに行く体力を残せる状況じゃないことに、目的と手段を間違えた不条理さを感じる。
そろばんなど、いくつかの授業を諦めたニコラ。食らいついて全力を尽くすルイ。マイペースでやりたいことだけこなすドナルド。三人の学校生活は波乱万丈が約束されたらしい。
数日後、ルイは思わぬ機会を得てガッツポーズを繰り出すのだが、それはまだ先の話。今の彼らの前に立ちはだかるのは、限界を超えた教材の山だった。ずるずると畳の上に寝転びながら、教科書を引き寄せて目を通す。
「畳はいいな。持って帰れないだろうか」
「あ、ルイ様は帰りの転移魔法の勉強も忘れないでくださいね」
忘れていた課題を突き付けられ、ルイは教科書を放り出した。今日は休み、明日からやる!
素地のある学習なら、ある程度追いつける。だが文字の読み書き段階で躓いた彼らにとって、未知の文化や歴史を学ぶことは負担が大きかった。道理で選択した授業のリストを提出した時、教師が不安そうな目を向けたわけだ。
理由が分かっても撤回する気になれない。この国にいられるのは二年、最高でも三年間だけ。その間にどれだけ学べるか、彼ら二人に重くのしかかる。まずドナルドは役に立たない。というか、勉学ではなく武術を持ち帰ってもらう予定だった。
運動音痴ではないが、ニコラは文官へまっしぐらだ。体を動かす授業はすべて拒んだ。その意味で、ルイが一番厳しい選択をしたのだろう。巫女や神主が行う儀式は、陰陽術に様々な要素が組み込まれている。禊や神への拝礼の挨拶、陰陽術の作法に至るまで。その幅は広かった。
体を動かす陰陽術の授業に加え、頭を使う占術なども選択した。覚える範囲が広く、倭国で素養のある者が学んでも十年近くかかる場合がある。学んだだけでは活用できず、実践して身に着けるのが一般的らしい。そういう話は先にして欲しかった。
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「減らしますか?」
「……減らせる授業があるか?」
ニコラの質問へ、質問を返すルイ。マナー違反だが、正しい反応だろう。そもそも重要と思える授業しか選択していない。ドナルドがもう少し頭を使える奴なら、いくつか任せられたんだろうが……あの様子では無理だろう。
窓の外で木刀を振り回す彼の声が聞こえる。気合を入れて大木相手にケンカを売っているようだ。体を動かすだけのドナルドが一番楽、という予想外の結果になった。
「頑張るしかありませんね」
「一生分、頭を使う二年になりそうだ」
その間にリンも探さなくては……授業の一環で巫女に会える機会があると聞いた。その時に食い下がって彼女の情報を得よう。探しに行く体力を残せる状況じゃないことに、目的と手段を間違えた不条理さを感じる。
そろばんなど、いくつかの授業を諦めたニコラ。食らいついて全力を尽くすルイ。マイペースでやりたいことだけこなすドナルド。三人の学校生活は波乱万丈が約束されたらしい。
数日後、ルイは思わぬ機会を得てガッツポーズを繰り出すのだが、それはまだ先の話。今の彼らの前に立ちはだかるのは、限界を超えた教材の山だった。ずるずると畳の上に寝転びながら、教科書を引き寄せて目を通す。
「畳はいいな。持って帰れないだろうか」
「あ、ルイ様は帰りの転移魔法の勉強も忘れないでくださいね」
忘れていた課題を突き付けられ、ルイは教科書を放り出した。今日は休み、明日からやる!
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