【完結】神狐の巫女姫☆妖奇譚 ~封印された妖を逃がした陰陽の巫女姫、追いかけた隣大陸で仮面王子に恋しました~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
63 / 159

第62話 穢れは落とせばいい

しおりを挟む
 黒く穢れを纏う狗神様を清める。一言で表現するなら、汚れた犬を洗う話なのだが……その祓いの困難さに姉達は揃って額を押さえた。

「簡単に請け負うんじゃないわ」

「そうよ、どうするか考えてあるの?」

 普段は仲が悪いのに、アイリーン絡みとなれば意気投合する。不思議な二人にアイリーンは笑顔で両手を合わせた。祈るよりお願いのスタイルに近い。

「お願い、協力してくれないかしら」

 口はお願いと言いながら、二人が拒むなんて考えてもいない。末っ子の特典とばかり、アイリーンは笑顔を振りまいた。先に折れたのは長姉アオイだ。仕方ないわねと苦笑いし、アイリーンの紺の髪を撫でた。

 先を越されてムッとした顔になりながら、ヒスイも協力を申し出る。舞台の外から声がかかり、姉妹三人が振り返った。

「その話、当然だけど私も噛ませてもらうよ。父上の説得くらいは受け持とう」

「「「お願いします」」」

 帝である父は大好きだが、怖い。怒らせたくない相手だった。皇太子シン以外は、かなり苦手意識を持っている。怒られた経験が一度や二度ではないからだ。どうしても叱られた記憶は強烈だった。普段から接する時間も少なく、疎遠になりがちだ。

「シン兄様、無理はしないでね」

 心配なので、アイリーンは兄に気持ちを伝えた。自分の時間を削っても妹である私達を優先してくれる。そんな兄だから、自然と口をついた。

「ご心配なく。皇太子なんてしてれば、嫌でも帝の弱みの一つや二つ、握っているものだよ」

「それもどうかと思うわ」

 長子として生まれたが、すぐに弟シンが誕生した。女帝の道を閉ざされた姉は、不器用ながらも弟を認めている。素直でないのは承知の上で、憎まれ口に近い心配を寄せた。姉の複雑な立場や感情を知るシンは、困ったような顔で鼻の脇を掻いた。

「私の大切な姉妹のためだからね、今回は大目に見てくれると嬉しいかな」

 ふふっと笑うアイリーンは振り返り、舞台の上で伏せた狗神様に近づいた。ぱくりと一口で彼女を飲み込める大きさだ。その鼻先を両手でゆっくり撫でた。するすると小さくなる灰色の犬に、アイリーンは手を伸ばす。

 腰の高さまで頭が来る大型の犬に化けた狗神は、ちらりと己の姿を確認した。

『やっぱり汚いね』

「逆です、思ったより侵食されてないので安心しました」

 中まで穢されたわけじゃない。そう言われ、考えるより先に狗神の尻尾が揺れた。

『白く清められるかな』

 期待が口をつく。契約者のフヨウと切り離されてから、ずっと不安だった。怖くて寒くて寂しかったのに、その感情が溶けていく。春に雪の塊が溶け、美しい川を作るように。

「もちろんです! 洗うのも清めるのも得意なんですから」

 満面の笑顔でぐっと両手の拳を握って胸元で示すアイリーンに、白狐はぼそっと呟いた。

『リンの洗い方は雑だから、清めだけにした方がいいと思うよ』

「ちょっと! どういう意味よ!!」

『そのままの意味さ、僕の毛をボサボサにしたくせに』

 一匹と一人の言い争いに、狗神は目を細めた。何かを懐かしみ思い出そうとするように。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧乏神の嫁入り

石田空
キャラ文芸
先祖が貧乏神のせいで、どれだけ事業を起こしても失敗ばかりしている中村家。 この年もめでたく御店を売りに出すことになり、長屋生活が終わらないと嘆いているいろりの元に、一発逆転の縁談の話が舞い込んだ。 風水師として名を馳せる鎮目家に、ぜひともと呼ばれたのだ。 貧乏神の末裔だけど受け入れてもらえるかしらと思いながらウキウキで嫁入りしたら……鎮目家の虚弱体質な跡取りのもとに嫁入りしろという。 貧乏神なのに、虚弱体質な旦那様の元に嫁いで大丈夫? いろりと桃矢のおかしなおかしな夫婦愛。 *カクヨム、エブリスタにも掲載中。

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

処理中です...