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第54話 紫陽花の祠の巫女の噂
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食後、また細い道を戻って階段にたどり着いたところで、ルイは思わぬ言葉を聞いた。
「巫女様が踊ってくださったそうだ」
「ああ、紫陽花の祠だろう? 何でもお二人も来られたとか」
「それより神様が降臨なさったのは本当か」
食堂や飲み屋を兼ねた宿に集まるのは、旅人より地元の人が多い。男達は一仕事終えた後の雑談に興じていた。その中には、今日の出来事が尾ひれ背びれを揺らして混じる。
「ルイ様?」
不思議そうに首を傾げるニコラを置いて、ルイは飲んでいる男性に話しかけた。今の話をもっと聞きたい。魔物退治で遭遇したリンは、不思議な服を着ていた。それが商人バローの予想通り、巫女の装束だとしたら。関係があるかもしれない。
「あの、今の話を聞かせてもらっても?」
「あん? こりゃまた珍しい毛色の兄ちゃんだな。まあ座れよ」
尻で摺り、長いベンチの隣を空けてくれた男がぽんと叩く。有難く座ったところで、階段で立ち尽くす二人を思い出した。
「部屋に戻っててくれ」
「あ、ああ」
「はぁ……」
迷いながらも、ルイの奇行は今に始まったことではない。病弱を装っているが、武術も魔法も上位クラスの彼を心配する理由もなかった。ここなら自国の貴族にバレる心配もない。放置しても大丈夫だ。そう判断した二人は、素直に部屋に戻った。食後は眠くなる。
先に風呂に入って寝ても問題なさそうだと思いながら、欠伸を噛み殺したドナルドは背を向けた。何度も振り返りながら、ニコラも後に続く。
「そんで、何が聞きたいんだ」
「さっきの、紫陽花の祠の話だ。巫女様が来たとか」
酔って気のいい親父は、素直なルイが気に入ったらしい。尋ねられるまま答えた。神様が宿る祠で、紫陽花が植えられた場所がある。その祠に名乗らないが尊い身分の巫女様がお二人現れた。美しい舞いを献上したことで、神様がお見えになったのだと。
それはとても珍しいことだ、と付け加えられた。ルイが学んだ中でも、祠の存在や役割はあるが神様が実際に降臨した話は出てこない。
「紫陽花の祠の神様は、どんなお姿だったんだ?」
「さあ。神様のお姿を見たら目がつぶれちまうよ。無礼はできねえからな」
信心深い民は、神様が降臨されたことを感じても顔を上げない。それ故に神様の姿を見た可能性があるのは、巫女様ぐらいだろう。ここまで話したところで、酒を煽った親父は潰れて机に懐いた。笑いながら礼を言って、この国で使われている紙幣を置いた。
「酒代に充ててくれ。だが飲み過ぎないようにな」
同じ席の男達から喝さいを受けながら、ルイは部屋に戻った。すでに二人はベッドに潜り込んでいる。静かに自分のベッドに寝転がり、聴いた話を整理した。
上位の巫女が街中に現れて踊ることは珍しいが、ないわけじゃない。貴族階級である公家は、頭からすっぽりと薄い衣を纏っているから一目でわかる。今回の巫女が薄い衣を纏って現れたことから、貴族の令嬢だと思われた。
「難しいな、ヒントが少なすぎる」
呟いて目を閉じた。
「巫女様が踊ってくださったそうだ」
「ああ、紫陽花の祠だろう? 何でもお二人も来られたとか」
「それより神様が降臨なさったのは本当か」
食堂や飲み屋を兼ねた宿に集まるのは、旅人より地元の人が多い。男達は一仕事終えた後の雑談に興じていた。その中には、今日の出来事が尾ひれ背びれを揺らして混じる。
「ルイ様?」
不思議そうに首を傾げるニコラを置いて、ルイは飲んでいる男性に話しかけた。今の話をもっと聞きたい。魔物退治で遭遇したリンは、不思議な服を着ていた。それが商人バローの予想通り、巫女の装束だとしたら。関係があるかもしれない。
「あの、今の話を聞かせてもらっても?」
「あん? こりゃまた珍しい毛色の兄ちゃんだな。まあ座れよ」
尻で摺り、長いベンチの隣を空けてくれた男がぽんと叩く。有難く座ったところで、階段で立ち尽くす二人を思い出した。
「部屋に戻っててくれ」
「あ、ああ」
「はぁ……」
迷いながらも、ルイの奇行は今に始まったことではない。病弱を装っているが、武術も魔法も上位クラスの彼を心配する理由もなかった。ここなら自国の貴族にバレる心配もない。放置しても大丈夫だ。そう判断した二人は、素直に部屋に戻った。食後は眠くなる。
先に風呂に入って寝ても問題なさそうだと思いながら、欠伸を噛み殺したドナルドは背を向けた。何度も振り返りながら、ニコラも後に続く。
「そんで、何が聞きたいんだ」
「さっきの、紫陽花の祠の話だ。巫女様が来たとか」
酔って気のいい親父は、素直なルイが気に入ったらしい。尋ねられるまま答えた。神様が宿る祠で、紫陽花が植えられた場所がある。その祠に名乗らないが尊い身分の巫女様がお二人現れた。美しい舞いを献上したことで、神様がお見えになったのだと。
それはとても珍しいことだ、と付け加えられた。ルイが学んだ中でも、祠の存在や役割はあるが神様が実際に降臨した話は出てこない。
「紫陽花の祠の神様は、どんなお姿だったんだ?」
「さあ。神様のお姿を見たら目がつぶれちまうよ。無礼はできねえからな」
信心深い民は、神様が降臨されたことを感じても顔を上げない。それ故に神様の姿を見た可能性があるのは、巫女様ぐらいだろう。ここまで話したところで、酒を煽った親父は潰れて机に懐いた。笑いながら礼を言って、この国で使われている紙幣を置いた。
「酒代に充ててくれ。だが飲み過ぎないようにな」
同じ席の男達から喝さいを受けながら、ルイは部屋に戻った。すでに二人はベッドに潜り込んでいる。静かに自分のベッドに寝転がり、聴いた話を整理した。
上位の巫女が街中に現れて踊ることは珍しいが、ないわけじゃない。貴族階級である公家は、頭からすっぽりと薄い衣を纏っているから一目でわかる。今回の巫女が薄い衣を纏って現れたことから、貴族の令嬢だと思われた。
「難しいな、ヒントが少なすぎる」
呟いて目を閉じた。
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