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第53話 一転して楽しい食事
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細い棒二本を器用に操る、他の宿泊者を観察した結果……突き刺して食べることになった。というより、チャレンジしても出来なかったのだ。ところが、おかずの肉に刺した途端、近くの女性が眉を寄せて近づいた。
「お箸は初めてなのね? こう持つのよ」
王族に対して無礼だと言いかけたドナルドだが、ニコラに手で制された。余計なことを言わず、使い方を教えてもらうべきだ。脳筋のドナルドより、文官志望のニコラは現実的だった。ルイも大賛成だ。
お姉さんと呼ぶにはやや年齢が上の女性は、見事な黒髪をしていた。フルール大陸にも黒髪はいるが、こんなに艶やかではない。
彼女は箸を掴んだ手を広げたり握ったりして、使い方を丁寧に指導した。三人で苦戦していると、間違っている部分を彼女が指摘する。繰り返して覚えた動きに、満足げに頷いた彼女は自分の席に戻っていった。同年代の男性と一緒なので、夫だろうか。その人にもお礼を込めて会釈しておく。
「さて、チャレンジだ」
ルイが最初に肉を掴み、落ちそうになりながらも口に入れる。成功したことで嬉しくなり、別のおかずにも挑戦し始めた。汁物は具を押さえて汁を飲む。この辺は観察の成果が出ている。
ニコラも肉を支える野菜を掴み、かなり落としながら半分ほどを押し込んだ。最後に残されたドナルドが、眉間の皺を深くする。出来る気がしないが、二人が成功させた以上、逃げる選択肢はない。武人たるもの、挑戦もせずに背を向けるのは一族の名折れだ。
よくわからない理論で自分を鼓舞し、汁物の中の具を掴んだ。やたら柔らかいそれを口に入れ、ふわりと解けて消える感覚に目を見開く。不思議な食感だが、汁が染みていて旨い。何より、箸の練習中に冷めていたことが幸いした。
王侯貴族は毒見もあるため、基本的に熱々の料理を食べる機会はない。当然、ほぼ全員が猫舌だった。旨い旨いと平らげる三人の食べ方は、綺麗ではない。マナーや作法の面で言えば、問題だらけだった。だが周囲の人々は穏やかに見守る。
どう見ても周辺国の出身者ではない外見の子ども達が、自国の料理を旨いと褒めている。自然と眦が下がり、優しい目になった。空になった茶碗にお櫃から米をよそい、用意された汁物のお代わりを差し出す。
お礼を言いながら貪るように胃に収めた彼らは、女将さんが置いて行ったお茶もしっかり堪能した。飲んだことがない色のお茶だが、香りが良くて気に入る。最初は緑のお茶だったが、食後は濃い茶色のお茶が出た。
「これは渋いんじゃないか?」
「だが紅茶じゃなさそうです」
ドナルドとニコラの発言を聞き流し、ルイはさっさと口をつけた。美味しいが、個人的には緑の方が好きだ。そんな話で盛り上がる彼らに、これも食ってみろと周囲が梅干しや漬物を差し出す。見覚えのある赤い物体に、ルイはにやりと笑った。
学友の口に一つずつ押し込み、彼らの反応を待つ。苺のような果物と勘違いした彼らの顔が歪み、やがて種を噛んだドナルドが呻く。げらげら笑うルイだが、報復に梅を二つも口に押し込まれる羽目に陥った。
「お箸は初めてなのね? こう持つのよ」
王族に対して無礼だと言いかけたドナルドだが、ニコラに手で制された。余計なことを言わず、使い方を教えてもらうべきだ。脳筋のドナルドより、文官志望のニコラは現実的だった。ルイも大賛成だ。
お姉さんと呼ぶにはやや年齢が上の女性は、見事な黒髪をしていた。フルール大陸にも黒髪はいるが、こんなに艶やかではない。
彼女は箸を掴んだ手を広げたり握ったりして、使い方を丁寧に指導した。三人で苦戦していると、間違っている部分を彼女が指摘する。繰り返して覚えた動きに、満足げに頷いた彼女は自分の席に戻っていった。同年代の男性と一緒なので、夫だろうか。その人にもお礼を込めて会釈しておく。
「さて、チャレンジだ」
ルイが最初に肉を掴み、落ちそうになりながらも口に入れる。成功したことで嬉しくなり、別のおかずにも挑戦し始めた。汁物は具を押さえて汁を飲む。この辺は観察の成果が出ている。
ニコラも肉を支える野菜を掴み、かなり落としながら半分ほどを押し込んだ。最後に残されたドナルドが、眉間の皺を深くする。出来る気がしないが、二人が成功させた以上、逃げる選択肢はない。武人たるもの、挑戦もせずに背を向けるのは一族の名折れだ。
よくわからない理論で自分を鼓舞し、汁物の中の具を掴んだ。やたら柔らかいそれを口に入れ、ふわりと解けて消える感覚に目を見開く。不思議な食感だが、汁が染みていて旨い。何より、箸の練習中に冷めていたことが幸いした。
王侯貴族は毒見もあるため、基本的に熱々の料理を食べる機会はない。当然、ほぼ全員が猫舌だった。旨い旨いと平らげる三人の食べ方は、綺麗ではない。マナーや作法の面で言えば、問題だらけだった。だが周囲の人々は穏やかに見守る。
どう見ても周辺国の出身者ではない外見の子ども達が、自国の料理を旨いと褒めている。自然と眦が下がり、優しい目になった。空になった茶碗にお櫃から米をよそい、用意された汁物のお代わりを差し出す。
お礼を言いながら貪るように胃に収めた彼らは、女将さんが置いて行ったお茶もしっかり堪能した。飲んだことがない色のお茶だが、香りが良くて気に入る。最初は緑のお茶だったが、食後は濃い茶色のお茶が出た。
「これは渋いんじゃないか?」
「だが紅茶じゃなさそうです」
ドナルドとニコラの発言を聞き流し、ルイはさっさと口をつけた。美味しいが、個人的には緑の方が好きだ。そんな話で盛り上がる彼らに、これも食ってみろと周囲が梅干しや漬物を差し出す。見覚えのある赤い物体に、ルイはにやりと笑った。
学友の口に一つずつ押し込み、彼らの反応を待つ。苺のような果物と勘違いした彼らの顔が歪み、やがて種を噛んだドナルドが呻く。げらげら笑うルイだが、報復に梅を二つも口に押し込まれる羽目に陥った。
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