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第52話 異国の風習は不思議なことだらけ
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どこにいたのかと首を傾げるほど、食堂は人でいっぱいだ。三人だが、テーブル席は諦めるしかなさそうだった。最後の二段ほどで立ち尽くす三人を見つけ、女将さんが手招きする。
「宿泊者はこっち!」
「あ、ああ」
言われるまま厨房のカーテンに似た布をくぐる。後に暖簾の名を知るまで、なぜ中途半端な長さで縦に裂けたカーテンを使うのか。と彼らは疑問を抱き続けた。料理を作る旦那さんらしき男性に一礼し、女将さんに引っ張られて奥へ進む。
途中に小さな座敷があり、畳が敷かれた部屋があった。休憩室なのだろう。その前を通る廊下は細く長く、土を固めた様な舗装だった。表面が滑らかで、土足で歩けるのは便利だ。さらに進んだ奥に、畳の部屋があった。
事前学習で畳の話は聞いている。土足で上がってはならず、必ず靴を脱ぐ。旅用のしっかり編んだブーツを脱いで板の間に上り、畳の上に恐る恐る足を乗せた。素足ではないが、変な感じだ。フルール大陸でこのような文化を持つ地域はなかった。
「えっと、こうか?」
迷いながら、近くの机で食事をする男達の足に驚愕した。足を複雑に組んでいるが、骨折してないのか? どうやったら……。作法なら従う必要がある。ごくりと喉を鳴らし、ルイは片足を引き寄せた。折れた膝の、あれは内側か? そこへ逆の足のつま先を入れ……うぉっ!
後ろに転がった。幸い壁だったので、ごろんと寝転がる無様は避けられる。だが、出来そうな気がしない。
「ああ、異国の人が足を組むなんて無理だよ。楽なカッコで座りな」
げらげら笑って、女将さんはお茶を置いて行った。問題は、お茶の淹れ物に持ち手がないことだ。これはコップじゃないか? 周囲の様子を見ていると、湯飲みと呼称していた。確かにコップのように透けていないから、これが文化の違いだろう。
「ルイ様、頭打ってませんか」
「いや、平気だ。好きに座れと言われたが、意外と難しいな」
あれこれ挑戦した結果、足を伸ばして座り背後の壁に寄り掛かることで落ち着いた。机を挟んだ向かいに陣取るドナルドだけは、足を組むことにチャレンジしていた。この国の人が当たり前にこなしているのだから、自分にもできるはず。
彼の言い分もわかるが、向き不向きはあると思う。ルイは好きにさせることにした。女将さんはお茶を置いて消えたが、料理の注文をはどうしたら? 魔法による自動通訳で言葉は通じても、慣習の違いは魔法でも補えない。
「はいよ、三人分ね。ご飯が足りなければ言っとくれ。米のお代わりは自由だから」
一人分ずつお盆ごと置いて行った。配膳して片付けるものではないのか? 周囲は気にせず食べているので、民の間では普通なのだろう。疑問を呑み込み、カトラリーを探した。
「ルイ、この棒がカトラリーです」
「どうやって食べるんだ?」
「「さあ?」」
また周囲の動きを観察する。お腹は空いているのに、食べ方が分からなくて手を付けられないなど。だが仮にも王子や貴族令息が手づかみは不味いだろう。焦りながらも、じっくり観察を続けた。
「宿泊者はこっち!」
「あ、ああ」
言われるまま厨房のカーテンに似た布をくぐる。後に暖簾の名を知るまで、なぜ中途半端な長さで縦に裂けたカーテンを使うのか。と彼らは疑問を抱き続けた。料理を作る旦那さんらしき男性に一礼し、女将さんに引っ張られて奥へ進む。
途中に小さな座敷があり、畳が敷かれた部屋があった。休憩室なのだろう。その前を通る廊下は細く長く、土を固めた様な舗装だった。表面が滑らかで、土足で歩けるのは便利だ。さらに進んだ奥に、畳の部屋があった。
事前学習で畳の話は聞いている。土足で上がってはならず、必ず靴を脱ぐ。旅用のしっかり編んだブーツを脱いで板の間に上り、畳の上に恐る恐る足を乗せた。素足ではないが、変な感じだ。フルール大陸でこのような文化を持つ地域はなかった。
「えっと、こうか?」
迷いながら、近くの机で食事をする男達の足に驚愕した。足を複雑に組んでいるが、骨折してないのか? どうやったら……。作法なら従う必要がある。ごくりと喉を鳴らし、ルイは片足を引き寄せた。折れた膝の、あれは内側か? そこへ逆の足のつま先を入れ……うぉっ!
後ろに転がった。幸い壁だったので、ごろんと寝転がる無様は避けられる。だが、出来そうな気がしない。
「ああ、異国の人が足を組むなんて無理だよ。楽なカッコで座りな」
げらげら笑って、女将さんはお茶を置いて行った。問題は、お茶の淹れ物に持ち手がないことだ。これはコップじゃないか? 周囲の様子を見ていると、湯飲みと呼称していた。確かにコップのように透けていないから、これが文化の違いだろう。
「ルイ様、頭打ってませんか」
「いや、平気だ。好きに座れと言われたが、意外と難しいな」
あれこれ挑戦した結果、足を伸ばして座り背後の壁に寄り掛かることで落ち着いた。机を挟んだ向かいに陣取るドナルドだけは、足を組むことにチャレンジしていた。この国の人が当たり前にこなしているのだから、自分にもできるはず。
彼の言い分もわかるが、向き不向きはあると思う。ルイは好きにさせることにした。女将さんはお茶を置いて消えたが、料理の注文をはどうしたら? 魔法による自動通訳で言葉は通じても、慣習の違いは魔法でも補えない。
「はいよ、三人分ね。ご飯が足りなければ言っとくれ。米のお代わりは自由だから」
一人分ずつお盆ごと置いて行った。配膳して片付けるものではないのか? 周囲は気にせず食べているので、民の間では普通なのだろう。疑問を呑み込み、カトラリーを探した。
「ルイ、この棒がカトラリーです」
「どうやって食べるんだ?」
「「さあ?」」
また周囲の動きを観察する。お腹は空いているのに、食べ方が分からなくて手を付けられないなど。だが仮にも王子や貴族令息が手づかみは不味いだろう。焦りながらも、じっくり観察を続けた。
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