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第27話 助けてください、兄上
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お家騒動を兄に丸投げし、ルイは欠伸をかみ殺す。夜更かしの所為で昼間は眠いのに、昨夜はリンのことを考えながら眠れそうだった。それなのに、侯爵令嬢の夜這い未遂で邪魔された眠気は戻って来なくて、今頃ルイを苦しめる。
騎士の任命の前に、ごたごたと騒動があった。ルイの護衛として部屋の前を護る筈の騎士が、バヌーレ侯爵家に買収された事実が公表される。2人いた騎士の片方が叙勲の対象だったこともあり、騒動が大きくなった。
知らないと騒ぐ侯爵だが、娘の髪が部屋に残された事実は否定できない。娘本人は父に命じられたと白状したため、修道院送りで許された。僕が髪を切り落としてやったからね。あの髪が伸びるまで、どちらにしろ嫁に出せない。
フルール大陸の貴族令嬢は、腰まで届く長い髪が必須条件だった。手入れに時間と手間がかかる長髪を維持できることは、貴族階級である証明なのだ。事実、咎める法律がないにも関わらず、平民で肩より長い髪を持つ女性は見たことがない。
切った髪が見れる長さに伸びるまで、3~4年ほど。あの令嬢の年齢からして、結婚までそんなに待てないはずだ。22歳で嫁に行かない貴族令嬢はほぼいないのだから。どちらにしろ、まともな貴族には嫁げないだろう。
咄嗟の判断だったけど、意外といい撃退方法かも知れないな。今後も積極的に利用して行こう。ルイは悪いことを考えながら、歪めた口元を手で隠した。危ない、病弱で気弱な王子の仮面が剥がれ落ちるところだった。
「叙勲式が始まるまで、休みたい」
「気づかなくてごめんね、ルイ。私の控室に長椅子があったから横になるといい」
穏やかな口調で逃げを許してくれた兄アンリに支えられ、ルイは広間を出た。部屋に入るまで俯いていたくせに、人目がなくなるなり大きな欠伸をひとつ。それから上着を脱いで放り出した。長椅子に寝転がる行儀の悪い弟に、アンリは苦笑いする。
「誰かに見られたらどうするのだ」
「ん? 結界に抵触しないので見られてません。それに僕は病人ですから寝転がるのはおかしくないでしょう?」
よく口と知恵の回る弟に肩をすくめ、アンリは別の話を切り出した。
「留学の件だが、難航している」
「この大陸で、僕はどこへ行っても王子のままです。交流のなかった東開大陸との懸け橋になりたい。助けてください、兄上」
可愛い弟の金髪を撫でながら、アンリは口元を緩める。王位を嫌って逃げ回る弟を最初は疑った。だが今は信じるに足る人物だと認識している。
この子は誰も傷つけず、穏やかに王位継承権を返上しようと足掻いた。活発で利発、正妃から生まれた何も欠ける点がない完璧な王子なのに。
真面目なだけの私を気遣う。この子が望むなら、留学の件にもう少し骨を折ってもいいか。諦めない貴族を黙らせるために留学を申し出たと思っていたが、別の目的がありそうだ。
「そうだね。話し合う時間が取れないか、陛下にお伺いしてみよう」
「兄上、そろそろ父上と呼んであげてください。前にも言いましたが、父上は待っているのですよ」
アンリは感情を隠した仮面のような笑みで、首を傾げた。
騎士の任命の前に、ごたごたと騒動があった。ルイの護衛として部屋の前を護る筈の騎士が、バヌーレ侯爵家に買収された事実が公表される。2人いた騎士の片方が叙勲の対象だったこともあり、騒動が大きくなった。
知らないと騒ぐ侯爵だが、娘の髪が部屋に残された事実は否定できない。娘本人は父に命じられたと白状したため、修道院送りで許された。僕が髪を切り落としてやったからね。あの髪が伸びるまで、どちらにしろ嫁に出せない。
フルール大陸の貴族令嬢は、腰まで届く長い髪が必須条件だった。手入れに時間と手間がかかる長髪を維持できることは、貴族階級である証明なのだ。事実、咎める法律がないにも関わらず、平民で肩より長い髪を持つ女性は見たことがない。
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咄嗟の判断だったけど、意外といい撃退方法かも知れないな。今後も積極的に利用して行こう。ルイは悪いことを考えながら、歪めた口元を手で隠した。危ない、病弱で気弱な王子の仮面が剥がれ落ちるところだった。
「叙勲式が始まるまで、休みたい」
「気づかなくてごめんね、ルイ。私の控室に長椅子があったから横になるといい」
穏やかな口調で逃げを許してくれた兄アンリに支えられ、ルイは広間を出た。部屋に入るまで俯いていたくせに、人目がなくなるなり大きな欠伸をひとつ。それから上着を脱いで放り出した。長椅子に寝転がる行儀の悪い弟に、アンリは苦笑いする。
「誰かに見られたらどうするのだ」
「ん? 結界に抵触しないので見られてません。それに僕は病人ですから寝転がるのはおかしくないでしょう?」
よく口と知恵の回る弟に肩をすくめ、アンリは別の話を切り出した。
「留学の件だが、難航している」
「この大陸で、僕はどこへ行っても王子のままです。交流のなかった東開大陸との懸け橋になりたい。助けてください、兄上」
可愛い弟の金髪を撫でながら、アンリは口元を緩める。王位を嫌って逃げ回る弟を最初は疑った。だが今は信じるに足る人物だと認識している。
この子は誰も傷つけず、穏やかに王位継承権を返上しようと足掻いた。活発で利発、正妃から生まれた何も欠ける点がない完璧な王子なのに。
真面目なだけの私を気遣う。この子が望むなら、留学の件にもう少し骨を折ってもいいか。諦めない貴族を黙らせるために留学を申し出たと思っていたが、別の目的がありそうだ。
「そうだね。話し合う時間が取れないか、陛下にお伺いしてみよう」
「兄上、そろそろ父上と呼んであげてください。前にも言いましたが、父上は待っているのですよ」
アンリは感情を隠した仮面のような笑みで、首を傾げた。
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