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第19話 こんなところで何してるんだ?
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兄や姉に情報収集を任せ、アイリーンは戦装束となりつつある鶯茶の和装ドレスに袖を通した。袖に幾つかの小刀を隠し、クナイも仕込む。腰に付けたベルト付きポーチに、昼間書いた札を畳んで入れた。取り出しやすいよう、蓋を開けなくても引っ張り出せるポケットが便利だ。
「これ、いいわね」
「姫様、足りなくなるといけませんので追加を」
追加の白紙と持ち運び用の筆を持たされた。ポーチは見た目より収納力があり、こっそり飴もしまっている。
「こちらは夜食です」
あら、私遠足に行くんだったかしら? アイリーンが首を傾げるものの、何も言わずにキエから風呂敷を受け取った。覗くと竹に包まれたおにぎりが入っている。
「たくあんは?」
「好物の鰹風味です。おにぎりは鮭、梅、昆布ですわ」
まさに至れり尽くせりだ。くんくんと匂ったココが目を輝かせた。
『お稲荷の匂いがする』
「もちろん、神狐様の夜食も入っております」
本当に何をしに行くのか。装備を手早く身につけ、アイリーンは風呂敷を胸に抱えた。ココが肩に飛び乗る。
「では行ってきます」
「行ってらっしゃいませ、姫様。くれぐれも、妙な物を食べたりなさいませんようにお気をつけください」
転移しながら、アイリーンはキエの思惑に気付いた。こっそり買い食いしようと思って調べていたのを、見抜かれたらしい。慌ててポーチのお札を確認すると、こっそり隙間に忍ばせた飯屋の地図が消えていた。
「やられたわ」
『程度の低い攻防戦だよね』
「うるさいわよ、ココ」
ムッとしながら、アイリーンは相棒の白狐を小突いた。額を押さえて唸るココと、夜の街を見下ろす。この屋敷はまだ2度目だけれど、小高い丘の上という立地条件が素晴らしかった。景色を見ながら、式神から情報を受け取る。
「ねえ、禍狗が見当たらないわ」
『姿を隠してるとして、どこにいるんだろう』
「変よね。式神が見つけられないのよ?」
フルール大陸は陰陽術が広まってないため、結界はないはず。そう考えたら式神が探れない場所はないのだ。アイリーンの疑問はもっともだった。
窓の外を見ながら、ひとつまたひとつと消える灯りを眺める。考えていても仕方ないが、情報がなければ動けないのも事実だった。
「もしかして、情報が入るまでこっちに来てもすることないんじゃない?」
『でも、向こうにいたら見つけた時間に合わない』
「そうよね」
相槌を打ちながら、ぐぅと鳴った腹を押さえて、アイリーンは笑った。式神に調べさせた飯屋の地図は回収されてしまったけれど、おにぎりがある。景色がいい屋上で食べることにした。前回と同じように空中散歩しながら、屋根の上に座る。風呂敷を広げた。
「ココはお稲荷さんよね」
『あ、その鮭も食べたい』
「嫌よ! 梅ならあげるわ」
めちゃくちゃ酸っぱい梅を押し付け合う2人に、予想外の声が掛かった。
「こんなとこで何してるんだ?」
「これ、いいわね」
「姫様、足りなくなるといけませんので追加を」
追加の白紙と持ち運び用の筆を持たされた。ポーチは見た目より収納力があり、こっそり飴もしまっている。
「こちらは夜食です」
あら、私遠足に行くんだったかしら? アイリーンが首を傾げるものの、何も言わずにキエから風呂敷を受け取った。覗くと竹に包まれたおにぎりが入っている。
「たくあんは?」
「好物の鰹風味です。おにぎりは鮭、梅、昆布ですわ」
まさに至れり尽くせりだ。くんくんと匂ったココが目を輝かせた。
『お稲荷の匂いがする』
「もちろん、神狐様の夜食も入っております」
本当に何をしに行くのか。装備を手早く身につけ、アイリーンは風呂敷を胸に抱えた。ココが肩に飛び乗る。
「では行ってきます」
「行ってらっしゃいませ、姫様。くれぐれも、妙な物を食べたりなさいませんようにお気をつけください」
転移しながら、アイリーンはキエの思惑に気付いた。こっそり買い食いしようと思って調べていたのを、見抜かれたらしい。慌ててポーチのお札を確認すると、こっそり隙間に忍ばせた飯屋の地図が消えていた。
「やられたわ」
『程度の低い攻防戦だよね』
「うるさいわよ、ココ」
ムッとしながら、アイリーンは相棒の白狐を小突いた。額を押さえて唸るココと、夜の街を見下ろす。この屋敷はまだ2度目だけれど、小高い丘の上という立地条件が素晴らしかった。景色を見ながら、式神から情報を受け取る。
「ねえ、禍狗が見当たらないわ」
『姿を隠してるとして、どこにいるんだろう』
「変よね。式神が見つけられないのよ?」
フルール大陸は陰陽術が広まってないため、結界はないはず。そう考えたら式神が探れない場所はないのだ。アイリーンの疑問はもっともだった。
窓の外を見ながら、ひとつまたひとつと消える灯りを眺める。考えていても仕方ないが、情報がなければ動けないのも事実だった。
「もしかして、情報が入るまでこっちに来てもすることないんじゃない?」
『でも、向こうにいたら見つけた時間に合わない』
「そうよね」
相槌を打ちながら、ぐぅと鳴った腹を押さえて、アイリーンは笑った。式神に調べさせた飯屋の地図は回収されてしまったけれど、おにぎりがある。景色がいい屋上で食べることにした。前回と同じように空中散歩しながら、屋根の上に座る。風呂敷を広げた。
「ココはお稲荷さんよね」
『あ、その鮭も食べたい』
「嫌よ! 梅ならあげるわ」
めちゃくちゃ酸っぱい梅を押し付け合う2人に、予想外の声が掛かった。
「こんなとこで何してるんだ?」
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