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第18話 大好物は美味しく食べたいわ
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すっかり拗ねてしまったココを膝に乗せ、機嫌取りにプリンを与える。今日のプリンは三つ、そのうちの一つを与えてもまだ膨れっ面をしていた。仕方なくもう一つを食べさせ始めるアイリーンだが、今度は自分が切なくなってくる。
ご褒美プリンなのに。もう半分以下になってしまった。
「うっ、大好きなプリンが……」
せっかく美味しい好物を用意して貰ったのに、こんな悲しい気持ちで食べるなんて。呟いたアイリーンの様子に、さすがのココもやり過ぎたと反省する。
実際はそんなに怒っていない。ちょっと悲しかったが、プリンを膝で食べさせてもらった時点で許していた。でもこんな風に甘やかしてもらうのが嬉しくて、ついつい怒ったフリを続けたのだ。今となっては言い出せないけれど。
『もういいよ、残りは食べて』
「嫌よ。だってココはまだ許してないんでしょ?」
拗ねたのか、意地になった様子のアイリーンに、ココは立ち上がってぺろりと彼女の頬を舐めた。親愛の情を示す行為のあと、バランスを崩して膝の上に転がる。
『僕はリンを嫌ったりしない』
「ありがと、それと本当にごめんなさい」
ぎゅっと抱きしめて仲直り終了だ。アイリーンの口にプリンが吸い込まれ、たまにココもおこぼれに預かる。いつも通りの光景に、見守っていた侍女達がほっと息をついた。
神狐であるココは、現在の皇家が契約している唯一の神の遣いなのだ。生き神に近い存在が、愛らしい末っ子姫と喧嘩する姿は、あまり見たくなかった。二人が幸せに過ごす日常は、幸せの象徴なのだ。
「今夜は休んで、明日からまた禍狗探しね」
『式神から連絡あった?』
「何もないのよ。変でしょう? でも消えたりしてないの」
式神は一時的に支配下に下るため、誰かに倒されたり消滅するような不測の事態に陥れば、こちらに衝撃が返ってくる。陰陽の術のほとんどは、常に術者と繋がっていた。遠見や式神はもちろん、封印も同じだ。何も手応えがないなら、式神はまだ禍狗を探している最中なのだろう。
『変だね、明日までに連絡があるといいけど』
甘いものをいっぱい食べて、眠くなったココが、はふっと欠伸をする。
「それもだけど、昼間聞いたフルール大陸からの留学も気になるのよ」
『今まで交流らしい交流がないのに、いきなり留学の申し出があったなら……何か理由があるね』
「そっちも探らせようかしら」
『式神を連発すると倒れるからダメぇ』
短い前足をバツの形に重ねて、ダメと念押ししてくる白い狐を抱き締めて、アイリーンは寝台に転がった。
「わかってるわ。無理しない範囲でやるわよ」
安心して、これでも皇族最高の巫女なんだから。そう自慢げに胸を張るアイリーンの腹の上で、ココは『心配しかない』と本音を漏らして目を閉じた。
「ちょっとどういう意味よっ!」
憤慨するアイリーンの声を聞きながら、ココは隣大陸で見かけた仮面の男を思い浮かべる。あれが留学予定の王子なら、厄介だなぁ。そんなことないか。不吉な予感を切り捨て、ココは目を閉じた。
ご褒美プリンなのに。もう半分以下になってしまった。
「うっ、大好きなプリンが……」
せっかく美味しい好物を用意して貰ったのに、こんな悲しい気持ちで食べるなんて。呟いたアイリーンの様子に、さすがのココもやり過ぎたと反省する。
実際はそんなに怒っていない。ちょっと悲しかったが、プリンを膝で食べさせてもらった時点で許していた。でもこんな風に甘やかしてもらうのが嬉しくて、ついつい怒ったフリを続けたのだ。今となっては言い出せないけれど。
『もういいよ、残りは食べて』
「嫌よ。だってココはまだ許してないんでしょ?」
拗ねたのか、意地になった様子のアイリーンに、ココは立ち上がってぺろりと彼女の頬を舐めた。親愛の情を示す行為のあと、バランスを崩して膝の上に転がる。
『僕はリンを嫌ったりしない』
「ありがと、それと本当にごめんなさい」
ぎゅっと抱きしめて仲直り終了だ。アイリーンの口にプリンが吸い込まれ、たまにココもおこぼれに預かる。いつも通りの光景に、見守っていた侍女達がほっと息をついた。
神狐であるココは、現在の皇家が契約している唯一の神の遣いなのだ。生き神に近い存在が、愛らしい末っ子姫と喧嘩する姿は、あまり見たくなかった。二人が幸せに過ごす日常は、幸せの象徴なのだ。
「今夜は休んで、明日からまた禍狗探しね」
『式神から連絡あった?』
「何もないのよ。変でしょう? でも消えたりしてないの」
式神は一時的に支配下に下るため、誰かに倒されたり消滅するような不測の事態に陥れば、こちらに衝撃が返ってくる。陰陽の術のほとんどは、常に術者と繋がっていた。遠見や式神はもちろん、封印も同じだ。何も手応えがないなら、式神はまだ禍狗を探している最中なのだろう。
『変だね、明日までに連絡があるといいけど』
甘いものをいっぱい食べて、眠くなったココが、はふっと欠伸をする。
「それもだけど、昼間聞いたフルール大陸からの留学も気になるのよ」
『今まで交流らしい交流がないのに、いきなり留学の申し出があったなら……何か理由があるね』
「そっちも探らせようかしら」
『式神を連発すると倒れるからダメぇ』
短い前足をバツの形に重ねて、ダメと念押ししてくる白い狐を抱き締めて、アイリーンは寝台に転がった。
「わかってるわ。無理しない範囲でやるわよ」
安心して、これでも皇族最高の巫女なんだから。そう自慢げに胸を張るアイリーンの腹の上で、ココは『心配しかない』と本音を漏らして目を閉じた。
「ちょっとどういう意味よっ!」
憤慨するアイリーンの声を聞きながら、ココは隣大陸で見かけた仮面の男を思い浮かべる。あれが留学予定の王子なら、厄介だなぁ。そんなことないか。不吉な予感を切り捨て、ココは目を閉じた。
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