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第14話 不器用なところそっくりだね
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小声で聞いたのに、キエにバレて叱られたアイリーンは不貞腐れていた。唇を尖らせて化粧の邪魔をする。それを無理やり押し込め、上手に紅を乗せたキエが溜め息を吐いた。
「仕方ないではありませんか」
「でも、封じた禍狗が逃げたのに神事をしても意味がないわ」
身を清めて、先祖が封じた魔物である禍狗の封印を重ねる。何度も何度も封印を施し、解けないよう確認する作業だった。
年に数回行われるが、幸いにして皇族の姫君は3人いる。長女アオイ、次女ヒスイ、末っ子のアイリーンだ。皇帝である父は東開大陸の各国から複数の妃を娶るため、母親が全員違う複雑な兄妹関係だった。
長姉アオイは巫女の力を受け継いだが、次姉ヒスイはほとんど力を持たない。その分だけ武に特化しており、舞姫としても有名だ。神事は公平に3人の姉妹が執り行うが、ヒスイの祓えなかった瘴気をアイリーンがまとめて消し去る方法で、問題なく封印を維持してきた。
つい先日、その封印の札をアイリーンが踏み割るまでは――だけれど。
「意味ならあります。姫様が札を割って封印を解除したとバレずに済みますわ」
襟元の重ねを直しながら、キエは溜め息を吐いた。バレたら、いくら神々の愛し子と称えられるアイリーンであっても、お咎めなしはありえない。その点をこの姫はどこまで理解しているのか。呆れ半分で見上げると、アイリーンは無邪気に笑顔で爆弾を投下した。
「ねえ、封印の際に神様のご協力を得て退治しちゃったことにしたら、解決しないかしら」
「アイリーン様……絶対に、二度と、そのように不用意な発言はなさいませんように」
怖い顔で念を押され、アイリーンは肩を震わせて頷いた。子どもの頃に悪さをして、家宝の襖を破った時以上の恐怖だわ。本気で怒ってる。察することに長けた末っ子は、ごくりと喉を鳴らして生唾を飲んだ。こういうときは逆らっちゃダメよ。深呼吸して、神妙な顔になる。
「わかったわ、きちんと封印したフリをしてくる」
「フリではなく、あの場を泉ごと封印してください。そうすれば瘴気が出ていなくても、誰も疑いませんから」
言われて、アイリーンはキエが怒った理由に気づいた。もし封印を解いたと分かれば、皇族の姫でもただでは済まない。彼女は私のことを心配してくれたのね。以前の失態があるから、二度目は見逃してもらえないだろう。
「ええ、そうするわ。いつもありがとう、キエ」
口うるさいけれど、私を本心から心配してくれる。母親のような存在だ。大切にしなくちゃね。アイリーンが素直に感謝の言葉を口にすると、驚いた様子のあと……心配そうにキエは眉をひそめた。
「姫様、具合がお悪いのでは?」
「もうっ!! 失礼ね!」
いつもの調子で文句を言って、アイリーンは足音荒く出て行った。置いて行かれたココが追いかける途中で足を止め、くるりと振り返る。
『そういう不器用なところ、2人ともそっくりだね。嫌いじゃないよ』
ひねくれた物言いをして、白狐は今度こそ主人を追いかけて行った。真っ赤な顔を手でぱたぱたと仰ぎながら、キエは呟く。
「不器用とは違いますわ」
侍女長がいつまでもぼんやりしているのを許すほど、今日は暇ではなくて……すぐにシシィ達から大声で呼ばれて歩き出す。
「大声を出すものではありません。皇家の侍女ともあろう者がはしたない」
若い侍女達を叱りつつ、神事に必要な榊や和紙を用意する集団に加わった。
「仕方ないではありませんか」
「でも、封じた禍狗が逃げたのに神事をしても意味がないわ」
身を清めて、先祖が封じた魔物である禍狗の封印を重ねる。何度も何度も封印を施し、解けないよう確認する作業だった。
年に数回行われるが、幸いにして皇族の姫君は3人いる。長女アオイ、次女ヒスイ、末っ子のアイリーンだ。皇帝である父は東開大陸の各国から複数の妃を娶るため、母親が全員違う複雑な兄妹関係だった。
長姉アオイは巫女の力を受け継いだが、次姉ヒスイはほとんど力を持たない。その分だけ武に特化しており、舞姫としても有名だ。神事は公平に3人の姉妹が執り行うが、ヒスイの祓えなかった瘴気をアイリーンがまとめて消し去る方法で、問題なく封印を維持してきた。
つい先日、その封印の札をアイリーンが踏み割るまでは――だけれど。
「意味ならあります。姫様が札を割って封印を解除したとバレずに済みますわ」
襟元の重ねを直しながら、キエは溜め息を吐いた。バレたら、いくら神々の愛し子と称えられるアイリーンであっても、お咎めなしはありえない。その点をこの姫はどこまで理解しているのか。呆れ半分で見上げると、アイリーンは無邪気に笑顔で爆弾を投下した。
「ねえ、封印の際に神様のご協力を得て退治しちゃったことにしたら、解決しないかしら」
「アイリーン様……絶対に、二度と、そのように不用意な発言はなさいませんように」
怖い顔で念を押され、アイリーンは肩を震わせて頷いた。子どもの頃に悪さをして、家宝の襖を破った時以上の恐怖だわ。本気で怒ってる。察することに長けた末っ子は、ごくりと喉を鳴らして生唾を飲んだ。こういうときは逆らっちゃダメよ。深呼吸して、神妙な顔になる。
「わかったわ、きちんと封印したフリをしてくる」
「フリではなく、あの場を泉ごと封印してください。そうすれば瘴気が出ていなくても、誰も疑いませんから」
言われて、アイリーンはキエが怒った理由に気づいた。もし封印を解いたと分かれば、皇族の姫でもただでは済まない。彼女は私のことを心配してくれたのね。以前の失態があるから、二度目は見逃してもらえないだろう。
「ええ、そうするわ。いつもありがとう、キエ」
口うるさいけれど、私を本心から心配してくれる。母親のような存在だ。大切にしなくちゃね。アイリーンが素直に感謝の言葉を口にすると、驚いた様子のあと……心配そうにキエは眉をひそめた。
「姫様、具合がお悪いのでは?」
「もうっ!! 失礼ね!」
いつもの調子で文句を言って、アイリーンは足音荒く出て行った。置いて行かれたココが追いかける途中で足を止め、くるりと振り返る。
『そういう不器用なところ、2人ともそっくりだね。嫌いじゃないよ』
ひねくれた物言いをして、白狐は今度こそ主人を追いかけて行った。真っ赤な顔を手でぱたぱたと仰ぎながら、キエは呟く。
「不器用とは違いますわ」
侍女長がいつまでもぼんやりしているのを許すほど、今日は暇ではなくて……すぐにシシィ達から大声で呼ばれて歩き出す。
「大声を出すものではありません。皇家の侍女ともあろう者がはしたない」
若い侍女達を叱りつつ、神事に必要な榊や和紙を用意する集団に加わった。
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