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第9話 聖地に不法侵入してたのね
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どうしよう。今気づいたけど、この人……倭国の言葉で話してる。ちょっとぶっきらぼうで口が悪そうだけど、殴って逃げるのは違う気がするわ。ココと目配せし合ったアイリーンは警戒を強める。睨むが、手出しはしなかった。
これは困った。王家の聖域に人が入っていくので追いかけたが、どうやら陰陽師らしい。となれば、隣の東開大陸の者だろう。陰陽師がどの程度の数いるのか知らないが、一般人より貴族の可能性が高かった。
仮面をつけた青年、ルイがそう考えるのは理由がある。このフルール大陸には魔法という力があった。大地の下に封じた魔竜から得た魔力を利用し、生活や戦闘に使う。大陸唯一の王家ビュシェルベルジェールを筆頭に、魔法を使える者は貴族に集中していた。
平民に強い力を持つ子が生まれると、婚姻してその力を取り込むのが貴族だ。そのため、滅多に平民に力を持つ子は産まれない。この法則は隣大陸でも同じだろう。
目の前の仮面をつけた少女が、東開大陸のいずれかの国の王侯貴族である可能性は高い。とにかく情報が集まらず、東開大陸の陰陽術は詳細不明だった。用心深く様子を窺うルイは、肩から滑った三つ編みを後ろへ弾く。
「なぜ王家の直轄地に入り込んだ」
不用意に正体を知っている素振りを見せない方がいい。そう考えたルイは、まず事実確認から始めた。ここは王家の墓所がある直轄地だ。初代の王から順番に棺が納められたため、聖地として崇められていた。フルール大陸の貴族には価値のある場所だが、他の大陸出身者に意味があるとは思えない。
刺青に似た青い模様を持つ白狐を抱いたアイリーンは、こてりと首を傾けた。それから少し考えて、焦った様子で尋ね返す。
「え? ここやっぱりお墓なの? ごめんなさい、知らなかったわ」
どうしよう。そんなの書いてなかったもの。入り口に大事なことは書いておきなさいよ! 八つ当たり気味にアイリーンは心の中で叫んだ。
「知らな、かった?」
驚き過ぎて声が掠れるルイは、呆然とする。この国では当たり前のことだが、門に王家の紋章が入っていた。そんな場所に入る一般人や観光客はいない。だから知らないと言われて、目の前の少女を疑った。慌てふためく様子に嘘は感じられず、どうやら本当に知らないのだと納得する。
なんだ、ただの勘違いか。この子もドジなだけみたいだ。連れている狐が有能だから入れたのだろう。追い出せば終わりだな。墓所の下には封じた竜がいる。何かしようと侵入したのかと邪推した自分を笑い、ルイは安堵の息を吐いた。
もし不埒な考えで侵入したなら、この少女を排除しなくてはならない。この状況なら外へ出せば終わりに出来そうだった。
「外へ出ろ。こっちだ」
案内しようと手を差し伸べた瞬間、墓所の内側から妙な感覚がした。振り返ったのはルイとアイリーン、ほぼ同時だ。
「いた! ココ、縛れる?」
『無理、距離が遠すぎるよ』
捕縛の術を掛けるには、もっと近づく必要がある。そう言われて壁に手を沿わせたアイリーンは、仮面の青年に詰め寄った。
「この建物に入れて」
「ダメだ」
即答される。ルイにとっては当然の返答で、アイリーンも予想していた。溜め息をついたところに、背筋がぞわりとする嫌な予感が走る。
「避けて!」
叫ぶと同時に突き飛ばされたルイは、窓を模した壁を擦り抜けた奇妙な禍狗に息を飲む。
「なんだ、これは……」
悍ましい気配を纏う禍狗は、赤い瞳でルイを見つめにたりと笑った。
これは困った。王家の聖域に人が入っていくので追いかけたが、どうやら陰陽師らしい。となれば、隣の東開大陸の者だろう。陰陽師がどの程度の数いるのか知らないが、一般人より貴族の可能性が高かった。
仮面をつけた青年、ルイがそう考えるのは理由がある。このフルール大陸には魔法という力があった。大地の下に封じた魔竜から得た魔力を利用し、生活や戦闘に使う。大陸唯一の王家ビュシェルベルジェールを筆頭に、魔法を使える者は貴族に集中していた。
平民に強い力を持つ子が生まれると、婚姻してその力を取り込むのが貴族だ。そのため、滅多に平民に力を持つ子は産まれない。この法則は隣大陸でも同じだろう。
目の前の仮面をつけた少女が、東開大陸のいずれかの国の王侯貴族である可能性は高い。とにかく情報が集まらず、東開大陸の陰陽術は詳細不明だった。用心深く様子を窺うルイは、肩から滑った三つ編みを後ろへ弾く。
「なぜ王家の直轄地に入り込んだ」
不用意に正体を知っている素振りを見せない方がいい。そう考えたルイは、まず事実確認から始めた。ここは王家の墓所がある直轄地だ。初代の王から順番に棺が納められたため、聖地として崇められていた。フルール大陸の貴族には価値のある場所だが、他の大陸出身者に意味があるとは思えない。
刺青に似た青い模様を持つ白狐を抱いたアイリーンは、こてりと首を傾けた。それから少し考えて、焦った様子で尋ね返す。
「え? ここやっぱりお墓なの? ごめんなさい、知らなかったわ」
どうしよう。そんなの書いてなかったもの。入り口に大事なことは書いておきなさいよ! 八つ当たり気味にアイリーンは心の中で叫んだ。
「知らな、かった?」
驚き過ぎて声が掠れるルイは、呆然とする。この国では当たり前のことだが、門に王家の紋章が入っていた。そんな場所に入る一般人や観光客はいない。だから知らないと言われて、目の前の少女を疑った。慌てふためく様子に嘘は感じられず、どうやら本当に知らないのだと納得する。
なんだ、ただの勘違いか。この子もドジなだけみたいだ。連れている狐が有能だから入れたのだろう。追い出せば終わりだな。墓所の下には封じた竜がいる。何かしようと侵入したのかと邪推した自分を笑い、ルイは安堵の息を吐いた。
もし不埒な考えで侵入したなら、この少女を排除しなくてはならない。この状況なら外へ出せば終わりに出来そうだった。
「外へ出ろ。こっちだ」
案内しようと手を差し伸べた瞬間、墓所の内側から妙な感覚がした。振り返ったのはルイとアイリーン、ほぼ同時だ。
「いた! ココ、縛れる?」
『無理、距離が遠すぎるよ』
捕縛の術を掛けるには、もっと近づく必要がある。そう言われて壁に手を沿わせたアイリーンは、仮面の青年に詰め寄った。
「この建物に入れて」
「ダメだ」
即答される。ルイにとっては当然の返答で、アイリーンも予想していた。溜め息をついたところに、背筋がぞわりとする嫌な予感が走る。
「避けて!」
叫ぶと同時に突き飛ばされたルイは、窓を模した壁を擦り抜けた奇妙な禍狗に息を飲む。
「なんだ、これは……」
悍ましい気配を纏う禍狗は、赤い瞳でルイを見つめにたりと笑った。
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