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第7話 初めてだし観光したいわ
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魔法があるのはフルール大陸だけ。なぜなら魔王であるドラゴンが地下に埋められているから。フルール大陸に生まれた者は、ドラゴンの魔力を浴びて育つので魔法が使えると伝えられてきた。
いわば封じたドラゴンの恩恵だ。代わりに魔力を多く受け継ぐ者は、ドラゴンが蘇らぬように封印を行う義務があった。
アイリーンが住む東開大陸にも龍は存在するが、神として崇められている。扱いが真逆だった。神の子孫と言われる皇族は、他の一族での代替えは不可能と言われる。圧倒的な陰陽の術と霊力を授けられた、神々の子孫――アイリーンはその末子である。
生き神のように崇められる皇族の姫君は、いま……大興奮していた。
「すごいわ、全然景色が違うもの」
『遊びに来たんじゃないんだけどね』
呆れたと呟くココを抱き上げ、姉達より膨らみの足りない胸元に押し付ける。
「そんな意地悪言わないでよ。すぐに捕まえて、観光しましょう。初めてのフルール大陸よ! きっと食べたことないものや見たことない物がたくさんあるわ」
『……僕は甘いのが好き』
文句を言った口が、すぐに希望を告げる。狐姿でお稲荷さんとか大好きなのに、甘いお団子も好きなのだ。知ってるわと笑い、アイリーンは窓の外を眺めた。二階建てのこの屋敷は、街の外れにある。小高い丘の上に建つため周囲に民家は少なくて、近隣の人に出入りが見つかりにくい利点があった。
屋根に登れば、街を一望できそう。この大陸では魔法があるから、屋根に人がいてもおかしくないわよね。齧った知識をフル活用し、窓枠に手をかける。
『何するのさ』
「屋根の上へ行くの。きっとよく視えるわ」
術を使えば常人の10倍近い視力のアイリーンの言葉を、ココは真面目に狗を探す気なのだと受け止める。普段はいい加減だけど、ちゃんと仕事する気あるんだね。逃したのが自分だから、責任感じたのかな。なんだかんだ、ちゃんとお姫様なんだ。ココは笑顔になった。
『僕は上で待ってるね』
「わかったわ、すぐ行く」
窓枠に掛けた手に力を入れ、スカートの長さを確かめてから裾を掴んで飛んだ。何もない空中に、指先で横線を描く。それだけで霊力が一時的に固まり、硬いガラスの床のように変質した。便利で簡単、ぽんぽんと足場代わりに跳びながら、屋根の上に立つ。
首を引っ込めるほど冷たい風が吹いた。慌てて左手で風の壁を作る。霊力を使うと消耗するので、式神を呼び出した。風を操る式神を立たせる。もっとも風除けに使うわけではなくて。
陰陽術は常に陰陽のバランスを取るため、単体で式神を呼ぶことはなかった。今回も反対側に別の式神を呼び出している。
「風鬼、雷鬼。強い隠気を探してちょうだい」
無言で目くばせし合った2人の式神が消えた。彼らは距離も時間も関係ない。置いて帰っても主君であるアイリーンを見つけられるので、探索に式神は最適だった。式神は神に最も近い霊であるため、使役の代償が必要になる。それを霊力で補うアイリーンは、屋根の上で大きく伸びをした。
「不思議、私いま別の大陸にいるのよね」
『リン、もらった仮面をして』
「わかってるわよ」
皇族とバレないために顔を隠すのよね。取り出したのは、神狐様の面。白いマスクをして下半分を隠し、右反面を縦に仮面で覆った。裏に特殊な札が貼り付けられている。
『どう?』
「うん。よく見えるわ」
契約した神狐のココの白と対称になる黒、私とココが陰陽の対ね。粋な計らいに微笑んだところで、式神が禍狗を発見した知らせが届く。
「行くわよ、ココ」
肩に飛び乗ったココを連れ、私は夜の街に飛び出した。
いわば封じたドラゴンの恩恵だ。代わりに魔力を多く受け継ぐ者は、ドラゴンが蘇らぬように封印を行う義務があった。
アイリーンが住む東開大陸にも龍は存在するが、神として崇められている。扱いが真逆だった。神の子孫と言われる皇族は、他の一族での代替えは不可能と言われる。圧倒的な陰陽の術と霊力を授けられた、神々の子孫――アイリーンはその末子である。
生き神のように崇められる皇族の姫君は、いま……大興奮していた。
「すごいわ、全然景色が違うもの」
『遊びに来たんじゃないんだけどね』
呆れたと呟くココを抱き上げ、姉達より膨らみの足りない胸元に押し付ける。
「そんな意地悪言わないでよ。すぐに捕まえて、観光しましょう。初めてのフルール大陸よ! きっと食べたことないものや見たことない物がたくさんあるわ」
『……僕は甘いのが好き』
文句を言った口が、すぐに希望を告げる。狐姿でお稲荷さんとか大好きなのに、甘いお団子も好きなのだ。知ってるわと笑い、アイリーンは窓の外を眺めた。二階建てのこの屋敷は、街の外れにある。小高い丘の上に建つため周囲に民家は少なくて、近隣の人に出入りが見つかりにくい利点があった。
屋根に登れば、街を一望できそう。この大陸では魔法があるから、屋根に人がいてもおかしくないわよね。齧った知識をフル活用し、窓枠に手をかける。
『何するのさ』
「屋根の上へ行くの。きっとよく視えるわ」
術を使えば常人の10倍近い視力のアイリーンの言葉を、ココは真面目に狗を探す気なのだと受け止める。普段はいい加減だけど、ちゃんと仕事する気あるんだね。逃したのが自分だから、責任感じたのかな。なんだかんだ、ちゃんとお姫様なんだ。ココは笑顔になった。
『僕は上で待ってるね』
「わかったわ、すぐ行く」
窓枠に掛けた手に力を入れ、スカートの長さを確かめてから裾を掴んで飛んだ。何もない空中に、指先で横線を描く。それだけで霊力が一時的に固まり、硬いガラスの床のように変質した。便利で簡単、ぽんぽんと足場代わりに跳びながら、屋根の上に立つ。
首を引っ込めるほど冷たい風が吹いた。慌てて左手で風の壁を作る。霊力を使うと消耗するので、式神を呼び出した。風を操る式神を立たせる。もっとも風除けに使うわけではなくて。
陰陽術は常に陰陽のバランスを取るため、単体で式神を呼ぶことはなかった。今回も反対側に別の式神を呼び出している。
「風鬼、雷鬼。強い隠気を探してちょうだい」
無言で目くばせし合った2人の式神が消えた。彼らは距離も時間も関係ない。置いて帰っても主君であるアイリーンを見つけられるので、探索に式神は最適だった。式神は神に最も近い霊であるため、使役の代償が必要になる。それを霊力で補うアイリーンは、屋根の上で大きく伸びをした。
「不思議、私いま別の大陸にいるのよね」
『リン、もらった仮面をして』
「わかってるわよ」
皇族とバレないために顔を隠すのよね。取り出したのは、神狐様の面。白いマスクをして下半分を隠し、右反面を縦に仮面で覆った。裏に特殊な札が貼り付けられている。
『どう?』
「うん。よく見えるわ」
契約した神狐のココの白と対称になる黒、私とココが陰陽の対ね。粋な計らいに微笑んだところで、式神が禍狗を発見した知らせが届く。
「行くわよ、ココ」
肩に飛び乗ったココを連れ、私は夜の街に飛び出した。
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