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99.結婚式は大盛況
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結婚式は驚くほど人数がいて……神殿前に白いドレス姿の花嫁がずらりと並ぶ。中に入れば、誰かの花婿がこれまた大勢待っていた。貴族も平民も、それぞれに神殿で誓いを口にする。
街中は飾り立てられ、花びらが舞い、大量の料理が振る舞われた。というのも、お祝い用のお金を神殿へ納める方法が、推奨されたためだ。そのお金は商店や飲食店に分配され、花屋も祝いの花を抱えて集まった。農民も漁師も神官も関係なく、誰もが笑顔で新婚夫婦を祝う。
「すごい人ね」
さすがに皇太子コルジリネをあの人並みに放り込む気はない。王フィゲリウスの計らいで、バルコニーから騒動を眺めた。貴族も伯爵家以上は王城に集結している。わっと盛り上がり、酒を飲み、互いのドレス姿を褒め合う。そんな騒ぎの中に、聖女ビオラも交ざっていった。
「私、いいのかな。場違いじゃない?」
「何を言ってるの。王宮に招待された記憶が、あの婚約破棄だなんて……そんな気の毒な状況にさせられないわ」
今後、街の教会で神官ルピナスの妻として生きていく。そんな友人ビオラに対する、カレンデュラの餞だった。水色の髪と瞳を持つルピナスと腕を組んだビオラは、愛らしいドレスだ。ふんわりと膨らませたスカートに、薄いレース生地を重ねて。大人びたデザインに仕上げている。
白い花の飾りを彼女のピンクの髪に載せたカレンデュラは、にっこり笑った。
「似合うわよ」
「ありがとうございます、大切にします」
嬉しそうに笑う彼女の後ろで、ラックス男爵夫妻も微笑んでいた。その脇でタンジー公爵夫妻が酒を平らげている。飲んでいると表現するほど上品ではなく、公爵夫人は泣きながら瓶から飲んでいた。止めようとする公爵を振り払う。
リッピアはプリンセスラインの大きく膨らませたスカートに、小花の飾りを散らしていた。花の妖精のイメージだ。隣のクレチマスはデレデレと締まりのない顔で、義妹から妻になるリッピアを見つめていた。
「ひどいな、公爵夫人が嘆くわけだ」
クレチマスを酷評するコルジリネは、胸に白い薔薇を飾っている。薔薇の刺繍や花束を抱えるカレンデュラが一本譲ったのだ。シルバーグレイの正装姿で、クレチマスを笑うが……ちらりと視線を向けたティアレラは口元を緩める。
美しいカレンデュラに見惚れる顔は、にやけるクレチマスと大差ないわよ。鼻の下が伸びてると表現するのがぴったりだ。
「皇太子殿下、鼻の下が……少し」
威厳がなく恋する男になってますよ、と遠回しにアスカが忠告する。うるさいと言いたいが、ぐっと堪えた。コルジリネの視線が会場を見回す。腰を抱いたカレンデュラは、友人ティアレラと雑談に興じていた。
苦虫を噛み潰した顔でデルフィニューム公爵オスヴァルドが睨んでくる。にっこり笑って煽った。駆け寄ろうとするのをフィゲリウス王が止め、振り切られそうになったところを逞しく日に焼けた第二王子ユリウスが加勢する。
煽りすぎると後が怖いか。今日は一区切りとなる日だが、正式な結婚式は、春までお預けなのだから。コルジリネの視界に、新しい客の姿が映った。
街中は飾り立てられ、花びらが舞い、大量の料理が振る舞われた。というのも、お祝い用のお金を神殿へ納める方法が、推奨されたためだ。そのお金は商店や飲食店に分配され、花屋も祝いの花を抱えて集まった。農民も漁師も神官も関係なく、誰もが笑顔で新婚夫婦を祝う。
「すごい人ね」
さすがに皇太子コルジリネをあの人並みに放り込む気はない。王フィゲリウスの計らいで、バルコニーから騒動を眺めた。貴族も伯爵家以上は王城に集結している。わっと盛り上がり、酒を飲み、互いのドレス姿を褒め合う。そんな騒ぎの中に、聖女ビオラも交ざっていった。
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「何を言ってるの。王宮に招待された記憶が、あの婚約破棄だなんて……そんな気の毒な状況にさせられないわ」
今後、街の教会で神官ルピナスの妻として生きていく。そんな友人ビオラに対する、カレンデュラの餞だった。水色の髪と瞳を持つルピナスと腕を組んだビオラは、愛らしいドレスだ。ふんわりと膨らませたスカートに、薄いレース生地を重ねて。大人びたデザインに仕上げている。
白い花の飾りを彼女のピンクの髪に載せたカレンデュラは、にっこり笑った。
「似合うわよ」
「ありがとうございます、大切にします」
嬉しそうに笑う彼女の後ろで、ラックス男爵夫妻も微笑んでいた。その脇でタンジー公爵夫妻が酒を平らげている。飲んでいると表現するほど上品ではなく、公爵夫人は泣きながら瓶から飲んでいた。止めようとする公爵を振り払う。
リッピアはプリンセスラインの大きく膨らませたスカートに、小花の飾りを散らしていた。花の妖精のイメージだ。隣のクレチマスはデレデレと締まりのない顔で、義妹から妻になるリッピアを見つめていた。
「ひどいな、公爵夫人が嘆くわけだ」
クレチマスを酷評するコルジリネは、胸に白い薔薇を飾っている。薔薇の刺繍や花束を抱えるカレンデュラが一本譲ったのだ。シルバーグレイの正装姿で、クレチマスを笑うが……ちらりと視線を向けたティアレラは口元を緩める。
美しいカレンデュラに見惚れる顔は、にやけるクレチマスと大差ないわよ。鼻の下が伸びてると表現するのがぴったりだ。
「皇太子殿下、鼻の下が……少し」
威厳がなく恋する男になってますよ、と遠回しにアスカが忠告する。うるさいと言いたいが、ぐっと堪えた。コルジリネの視線が会場を見回す。腰を抱いたカレンデュラは、友人ティアレラと雑談に興じていた。
苦虫を噛み潰した顔でデルフィニューム公爵オスヴァルドが睨んでくる。にっこり笑って煽った。駆け寄ろうとするのをフィゲリウス王が止め、振り切られそうになったところを逞しく日に焼けた第二王子ユリウスが加勢する。
煽りすぎると後が怖いか。今日は一区切りとなる日だが、正式な結婚式は、春までお預けなのだから。コルジリネの視界に、新しい客の姿が映った。
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